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【cinema】検事、弁護人、父そして息子

2017年52本目。EUフィルムデーズ9本目。ブルガリア映画🇧🇬(とあるけど、ブルガリアは出てこない。製作国の一つがあくまでブルガリアなだけの映画。多分監督がブルガリアの人)

オランダ・ハーグにある旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷。ボスニア紛争の司令官だった男の戦争犯罪を問う裁判で2人の法律家が相対峙する。弁護人ミハイルは、これまで被告人に対する告発をすべて退けてきた。一方、被告人の有罪を確信した検事のカトリーヌはある若者を証人として召喚する。兵士として被告人の指揮下にあったという若者の証言に疑問を抱いたミハイルは、ボスニアに若者の家族を探しに行く。実話に基づくヒューマンドラマ。(公式サイトより転記)

ネタバレになりますが、ご了承下さい。

タイトルの『検事、弁護人、父、そして息子』とは、件の二人の法律家と、証人として召喚された元セルビア軍人である息子とその父親のことを指します。

白い家と呼ばれる建物で起こったボスニア人虐殺事件で告発されている被告人に対して有罪を確信してた検事のカトリーヌ(ロマーヌ・ボーランジェ)。

証人として召喚された青年(当時は10代なのかな)が証言をするも、被告人は証人を知らないと言い張る。青年の証言に疑問を持ったミハイルは、彼の母国ボスニアに行き、紛争時にははなればなれになっていた彼の両親を探す。が、なかなか協力者は現れない。被告人はやはり「シロ」ではないのだ。被告人(こいつがまた腹立つ人物として描かれている)に邪険に扱われる通訳たちは、仕事を降りようとする。

青年は昔あるサッカーチームに所属していて(ボスニアではサッカーチームの一団すべてが軍隊に加入させられた事実があるようです)、それが決め手になって両親が見つかり、実際に父親を弁護側の証人として召喚することに。DNA鑑定で親子が証明されると、青年が生い立ちや名前までも偽っていたことがわかり、ついに刑務所内で取引があって証言台に立ったことが分かり、裁判が振り出しに戻ってしまう。結局、証人の青年は偽証罪では不起訴になるも母国へ強制送還されることになり、彼は命の保証がなくなる…。その後、彼の消息は不明で、両親が暮らしていた村には現在誰も住んでいないというラスト。

この父と息子のやりとりがメインかといえば、そうではなく、どちらかというと紛争時の当事者たちを取り巻くサードパーティである周りの人々の視点で描かれている。淡々と。やさしさというものがあるのかというと、それはない。全てが「的確に処理すべき」事項として取り扱われているような気がした。

印象的なシーンがあります。訳もわからずにボスニアの片田舎から連れてこられた父親が、オランダのサッカー場(多分アヤックスのスタジアム)のど真ん中に立って、とても嬉しそうな、切なそうな顔をする場面です。ボスニアにいたら知り得なかった世界。でも喜び全開ではなくて、何とも言えない表情をするんです。彼を解ってあげられるのは、通訳の女性だけ…。ここだけは、やさしさに満ち溢れていた。悲しさも同時にだけど。

あとは、検事が女性であることもキーの一つかもしれない。シロとは言いきれない被告人を何とかして裁きたい。彼女は常に闘ってきた女(ひと)だと思う。決して陥れようだの有罪にしてやろうという強引さはなく、正しい道をひたすら歩もうとしてきた女性だと思う。そんな彼女の葛藤も描こうとして、この映画は盛り沢山になりすぎた感はあるかな。ロマーヌ・ボーランジェがいい味出してるんだよね。昔はあまり好きではなかった女優だけど、最近の彼女の演技は好きだ。

という私の感想がまとまりがつかない。ただ、ひたすら悲しいのだ、この映画は。誰を信じたらいいのか、誰に寄り添えばいいのか、最後までわからない映画だった。これが事実を基にした話だというのだから、まだまだ自分の知らないあの当時の事実があるのだろうなと。

EUフィルムデーズ最終日の最後の1本でした。この映画イベントに行くようになって3年目。本当に知るべき、素晴らしい作品が上映されます。東京と京都でしかやらないけれど、来年がまたとても楽しみです。

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