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【cinema】セールスマン

2017年59本目。イラン映画🇮🇷

何とも後味の悪い映画。なのに変な余韻があって、未だに考え込んでいる自分がいる。「結末は語らないでください」という映画の宣伝文句はよくあるけれど、たしかに観る前に結末は知らない方がいい。とりあえず途中から息を呑んで事の成り行きを見つめるしかないから。

私が映画を見る前に知っていたあらすじは以下のとおり。

夫婦ともにとある劇団に所属し、今度は「あるセールスマンの死」に出演することになっている夫エナドと妻ラナ。ある日、妻が自宅で何者かに襲われ、重傷を負う。命に別条はないものの犯人探しに血眼になるエナドとあまりそれをしようとしないラナ。二人のせめぎ合いがこの映画のテーマだということ。

犯人がね、なんて言うかね、もうここでは言い表せないくらい惨め。よくある復讐劇にはならんのです。でもそこに行き着くまでが、とてもサスペンスフルで、固唾をのんで見守るってこういうことだなと思い知ります。

誰だって妻が襲われたら、真犯人を見つけたくなるよね。エナドの気持ちがすごくよくわかる。でも妻は事件後、内に閉じこもってしまい、夫の犯人捜しをよく思わない。警察にも届けないし…。でも彼女の気持ちも何となくわかる。できれば襲われたことなんて、記憶から消し去りたい。蒸し返さないでほしい。私はなぜあの時ああしてしまったんだろうっていう自己嫌悪でいっぱいになってしまっているから。

ラナが襲われてしまった要因の一つは、夫婦が引越した先の元住人の職業が娼婦だったってことでした。劇団仲間のババクは、それを知りながらエナドとラナに物件を紹介し…。

これから子どもも作ろうかとも言っていた仲の良い夫婦が、度重なる不運に直面した時、二人はどうするのか。乗り越えられるのか。

これがこの映画の一つのテーマであり、見どころでもあります。全然それは特別なことではなくて、誰にでも起こりうることで。だから、観客はより感情移入してしまうのかもしれない。でも自分の手で犯人を見つけ出しても、気分が晴れることはなく。それは観る側も同じで、何とも言えない気持ちになる。犯人に同情することなんて一切ないけど、エナドが抱えている怒りとラナが消し去れない不安と心の傷、それらを払拭できるものは一切ないんだなって。この夫婦が、明るい未来を手にすることは、あるんだろうか。

時折差し挟まれる舞台のシーンが効果的で、また、劇団仲間でシングルマザーの彼女がたまに連れて来る幼い息子の存在が、すごく活きていたなぁと思いました。フィクションだけど、何とか、何とか、このエナドとラナの夫婦には立ち直ってほしいと願うばかり。

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