見出し画像

装飾美。「アシク・ケリブ」

装飾美を堪能した。

映像美ではなく、装飾美。映るものすべてがとにかく美しかった!

ここで敢えて装飾美と言いたいのは、カメラワークや画面構成などの「美しい映像」ではなく、その中に入れる物語世界をいかに美しくするか、そこにこだわっているように思うからだ。

「アシク・ケリブ」はロシアの詩人レールモントフの恋物語が原作だそうだ。主人公の吟遊詩人アシク・ケリブが、領主の娘と結婚を誓うが、娘の父親はアシクが貧乏人であることを理由に反対。アシクは結婚資金を稼ぐために旅に出る、というもの。

彼の旅は一筋縄ではいかないことばかりで、盲目の人々の結婚式で演奏したり、暴虐な将軍や虎とわたりあったり、胡乱な修道院で子ども達と逃げ回ったり。

この独得な世界を、パラジャーノフ監督は独創的な演出で表現している。その演出のために使われる建物や庭園、衣服やメイクなどのディテールが凝りに凝っているのだ。

例えば、婚約のお願いに行く準備をしているアシクの母と妹のシーン。薔薇の花びらでカゴをいっぱいにし、戯れにまき散らしたりするのだけど、その花びらは白薔薇で、でも根元は薄いピンクのもので統一されている。ヒラヒラ舞う花びらは、白に隠されたピンクが時折姿を見せるように動き、初々しい愛を見ているようだ。

また装束も素晴らしく、女性が顔を隠す布はヒダの数まで計算しているのかと思うほどで、規則的、また時に不規則に揺れるドレープは、悲しみや焦りなどの感情を表しているようにさえ思う。ほかにも室内のインテリア、登場人物たちが使う小物などのどれも細部まで徹底して美しく、またそのシーンに必要不可欠で、例をあげだしたらきりがない。

監督は「アシク・ケリブ」という詩的な世界を、カメラワークなどで美しい映像を撮るというよりは、その映像の中の物語世界を美しく表現するために、映り込むものにはすべて端々まで意味を持たせ、表現していた。

詩的なイマジネーションの美しさに、ただただ浸っていられる贅沢この上ない時間だった。

Uplink、Uplink cloud で公開されています↓




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?