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夏が来るとおもいだす

夏が来ると思い出す

忘れもしないあの日
というか、覚えていないあの日
遥かな尾瀬、とおい空ではなく
とおい空の花火の音

東京都在住はじめてにして
隅田川の花火をみにいこうと
約束をした16時半、上野駅
だいすきなホルモンをたべて
人里離れた公園で花火を観ようとはりきった

激混みの銀座線でついた上野御徒町
歩くことわずかな距離で
七輪のホルモン焼きやさん
楽しみの予感しかしなかったし
センマイ刺しはおいしいし
かっこつけて頼んだ瓶ビールはよく冷えている
冷えたビールは好きではない、そもそも
お酒が好きではない
夏の暑い日に、おいしそうにビールを飲んでから
花火をみにいく、というプランがかっこよかったから
頼んだし、飲んだら記憶が飛んだ

次の記憶
ホルモン焼きやの地べたなんて
油にまみれて汚いイメージしかないのに
どーしても力が入らず
一応花火でおしゃれしてるのに(連れは女)
横になりたいと叫んでいるわたしと
眠りに落ちそうなわたし
(眠りに就く、とかくと死ぬみたいなので却下)

その次の記憶
とおくの方から聞こえる救急車のサイレン
きっと乗せられてるわたしの体
「家族に連絡した方がいいですか?」
という連れ(女)のこえ
「それはしないでぇ〜〜」と声にならない叫び
そして聞こえる花火の音と眠るわたし

その次はもう病床の記憶
「熱中症だってぇ〜ごめんねぇ〜◯◯ちゃ〜ん
救急だったからさぁ〜花火行けなくてごめんねぇ〜」

すっかり目が覚めた
カーテンの向こうで
しきりにキャバ嬢に謝るおじさんの声で!

熱中症で運ばれたのはわたしで
花火に行きたかったのはおじさん
急な患者が運ばれて来て
行けなくなってしまったおじさん
おじさんに合わせる顔がない

点滴に繋がれたわたしと
カーテンの向こうの会話を聞いて
得意のクスクス笑いの
これまた花火に行けなくなった連れ(女)
(男の方が絵になったのに)

点滴を2本もしたらすっかり回復
「夜間ですので!支払いは後日いらしてください」
まさか山手線の半周先の見知らぬ病院に
また来なきゃいけないの?と聞きたかったけど
さっきの◯◯ちゃんと話すのとは
別人のようなテキパキしたおじさんの
恨みすら感じさせる冷ややかなこえ
それを聞いたら「はい、ありがとうございます」
としか言えなかった
花火デートを台無しにしてしまったから

そしていつも冷ややかな連れ(女)に支えられ
病院を出る、けどまだ病み上がりなわたしは
ホルモンのおわびと言っちゃ何だけど
駅の近くのファミレスで
サンドイッチをご馳走した(はず)

上京して20年
初めて試みた生隅田川の花火大会は
音だけだったけど
血圧30で聴く花火の音には迫力があった
生死を彷徨う覚えていない思い出の日になった

翌週、山手線を半周して支払いにいく
夜間➕念のため受けたMRIはお財布に痛かった
覚えているのは
とおい空の花火の音と
カーテンの向こうのおじさんのこえ
そしてその日は優しかった連れのこえ
その日は。


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