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中学生に組織的に目標を実現する意味を教える(無茶)|東明館中学校×とびゼミコラボ授業②

6月に入り,さらに忙しくなってきました。今回は佐賀県基山町にある東明館中学校での授業。大学生4人の協力のもと,中学生に向けてアントレプレナーシップをテーマにした授業を行いました。

この日の授業は14時からだったため,昼前に福岡を出発。一路車で基山に向かいました。ランチは「基山と言えば」丸幸ラーメンセンターへ。

今回の腹ごしらえは丸幸ラーメンセンター

こちらは熊本勤務時代に帰りによく立ち寄っていました。当時は民主党政権で高速道路1,000円時代。熊本で建物が閉鎖される23時まで仕事をして,車で帰ってくると1,000円になる0時を回る頃に鳥栖や大宰府に到着するので,その途上で夕食に頂いていました。その頃はまだ若かったこともあって替え玉をしたりしていましたが,今はさすがに無理でした(笑)

しっかりご当地グルメを味わって,いざ東明館中学校へ。少し早めに着いたので授業の打ち合わせをして,本番を迎えることに。

前回の授業の様子はこちらをお読みください。

果たして今回はどんな授業になったのでしょうか。その様子をご紹介します。

1コマ目:前回講義のふりかえりとマニュアルの作成

今回頂いている2回(計4コマ)の授業で,わたしたちは中学生にアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス(集合天才)の概念を伝えることを通じて,(中高一貫校なので)大学に入る,就職するまでの時間の学び方として1人で何でも解決しようとするのではなく,仲間,同級生,先輩後輩,先生方の力を借りながら課題を解決することの意味をなんとなくでも理解することを目標にしていた。

つまり,課題解決を図るアイデアを形にするためには,不足している資源を何かしらの方法で調達することで,組織的に目的を実現することの意味を体感してもらうことを裏テーマにしていた。そのため,今回の授業は以下のような構成にしていた。

・6/9
〔事前動画〕

前回の復習/MCSの理論的理解
〔1コマ目〕
前回講義のふりかえり。
自分たちのペーパータワー建設はどのコントロールレバーが効いていたか?行動(結果/環境)コントロールを強めるとすればどうするか?(→MCS理論の実践への適用)
ペーパータワー③:ランダムにチームを再構成(→チーミングへのつなぎ)
〔2コマ目〕
ペーパータワー③のふりかえり
チーミング概念の説明(個人、統制的組織よりもプロフェッショナル的働き方が求められる組織/達成すべき目標やビジョンの共有、メンバーの心理的安全性の確保、メンバーが協力しやすい環境の整備)
学び続けることの重要性(知識の詰め込みではなく、現実世界との結びつけをしながら生活する)

『ついに中学生にまでアントレプレナーシップ教育を|東明館中学校×とびゼミコラボ授業①』
より抜粋(https://note.com/ttobita/n/n6bb25fc0944d)

ただ,前回授業の流れを受けて「チーミング」まで進むことができるか,統制された組織で成果を出すことにもう少しフォーカスしても良いのではないかという議論も出てきて,少しだけ授業内容を変更することにした。

今回も中学3年生約60名に授業

まずは前回授業のふりかえりとして,ペーパータワーを使った授業をしたのは「組織」というものを意識して動くことを学ぼうという視点を改めて提示して,今日の本題に入る。

この2回の表テーマはアントレプレナーシップ、裏テーマは組織的に目標を実現すること。

続いてマネジメントという概念を知ること。これを通じて,目的・目標を達成するために組織を作り,個人の能力を引き出し合いながら目的・目標達成を図ろうとする意味を伝えることにした。加えて,(これは解説しなかったが)ペーパータワーを建てるには繰り返し試行錯誤,特に倒れてしまうという失敗が大事。そのプロセスで失敗に対する耐性や人とのコミュニケーションの取り方といった個人の特性と組織的に実現する上で重要な非認知能力みたいなものを養おうとしている。もちろん1-2回の授業でそれが伝わるはずはないのだが,そういう意図を持っておくことに意味があるということ。

戦略を実行するためにマネジメント・コントロール・システムも内容に。

さらに,成果を出すための仕組みづくりということで,マネジメント・コントロール・システム(Management Control System:MCS)についても講義。つまり,(若干古い構成になっているが)マニュアル化などにより組織成員の行動を方向づけて成果を導く「行動コントロール」,ノルマや目標を共有し,その達成方法についてはある程度自由度を持たせながらマネジメントする「結果コントロール」,そして組織成員が動きやすい,成果を出しやすい環境整備のために理念の浸透や組織文化の構築を行う「環境コントロール」のそれぞれを解説した。

その上で,今回のペーパータワー(3回目)は,各グループのペーパータワー建設のための説明書(マニュアル)を作り,そのマニュアルに従って建設することになった。これは先日商学部第二部(夜間部)の1年生向け授業でトライした方法で,その昔工学部の学生向けに,エンジニアになるのであれば「作る悦びと合わせて,その製品を広く多くの人に同じように使ってもらえるように説明することも重要」だと伝えたくて作った下記のカリキュラムにも従っている。

つまり,ここでは目標(成果)を達成するために行動コントロールを象徴するマニュアル化を導入することで,(1)マニュアルを作る過程で組織成員それぞれの考え方を集約する,(2)実際にそのとおり建設することで理屈と実際の齟齬を確認する,(3)どこを修正すればより良くなるかを議論するという3ステップを通じて,組織的に目的・目標を達成する意味を学習してもらおうという流れになっている。

ちなみに,東明館中学校では生徒がPCやタブレットを持参して授業を受けている。なのでメモをデバイスを使ってとっている生徒もいる。今回はマニュアル作成にあたって調べても良いという条件も作ったが,調べども調べども「高く建てられるペーパータワーの建て方」は出てこない。

検索すれば答えが出てくるわけではないから,ペーパータワーは面白いし,創意工夫が必要。ただ,実際には理科,特に物理を学んでいればその原理原則で高いタワーが建てられる。他にも丁寧に折る,慎重に組み立てる等々あるけれども,まず設計図を書くには答えを探すのではなく,これまで学んできたことから組み立てる=創意工夫をすることも同時に学ぶ機会にしたかった(ま,そもそもマシュマロ・チャレンジに近いものだしね)。

中学生の創造性を引き出す意味でも,ペーパータワーは使えそう。創造性とチームワークを学習ツールとしてブラッシュアップするという方向性が見いだせた(笑)。

中学生が作ったマニュアル①

そうして中学生が作成したマニュアルがこの通り。ここで赤ペンが入っているのは1回目終了後の修正のため。

中学生が作ったマニュアル②

大学生のマニュアルほど精緻ではないが,結構よくできているように思う。あるグループは目標をあらかじめ決めてマニュアルに書き込んだ上で,限られた資源(紙20枚)を活用してできるだけ高いタワーを建てるための方法が細かく指示されていた。一方で,自由にタワーを建てたい、けどチームとして試行錯誤している時間がない,「え?マニュアル?」とかなって,建てるのが得意な生徒がどんどん作業を進めたり、途中で倒れて根気がなくなっちゃったりと、ある種中学生らしい面白い場に。

そんなこんなで1コマ目が終了。

2コマ目:リーダーシップとフォロワーシップについて学ぶ

2コマ目は1コマ目のふりかえりから始まり,組織的に活動できたかどうか,目的・目標やMCSを意識できたか,実際に成果に結びついたのかという視点からディスカッションを行った。が,やはり目の前に紙があると触っちゃうのですよね。

そして,最後のペーパータワーに。最後は「チームリーダーの指示のもとにタワーを建設する」というルールに。そのため,リーダーシップとフォロワーシップを解説。

大学生でもそういうところがあるが,リーダーとなると貧乏くじを引いた,じゃんけんで負けた人がやるものというイメージがついているが,そうではないというところから説明。

2回目のペーパータワー前にはリーダーシップとフォロワーシップの話も。

また、リーダーだけが責任を負うのではなく,組織に関わる以上はリーダーとフォロワーの役割分担をしながら,組織目的・目標達成のために立場に応じて貢献できるかが重要なんだと伝える。実際になかなかそれを理解して実践するというのは難しいのだけれども,「こういうことを意識してタワーを建てようね」と促して4回目のペーパータワーを建て始めた。

ペーパータワーの様子①

するとどうでしょう…。んー,やっぱ難しかったのかな…。

手前は安全志向、奥は前回9段を建てたチームが再チャレンジ。

中学校3年間,2つのコースの1つずつのクラス。そのコースが混ざった形でチームが形成されているけれども,すでにできあがっている関係性を一旦崩してAさんがリーダー,BさんとCさんは建設するという形にはなかなか成り得なかった印象を受けた。

ただ,学生からの指摘でこのような気づきもあった。それは,4回もやればタワーを高く建てるコツがわかってくるのはそうなのかもしれないが,タワーが建っているグループの共通点は,①目標がマニュアル内に示されていること,②マニュアルが精緻で細かいところまで配慮されていること,③チームメンバーがそれを見て丁寧に作業をしていること,という当たり前だけれども社会人でもなかなかできないかもしれない(いや,実際そうなんだよな)ことができていたそうだ。

ここにリーダーとフォロワーの関係性だったり,リーダーのタイプだったり,DISC分析による志向性の把握だったりが入るとなお面白いのかもしれないが,今回の授業はここまでで精一杯。

最後に、学生から4コマ全体のふりかえりと講義目的について説明があり,私からも一言話をした。今回の講義では「これまで学んできたことを活かして創意工夫を1人でするのではなく、それを組織的に実現することの意味を伝えたかった。その狙いが伝わったのかどうかはわかりませんが、いつかどこかで聞いた話だと思ってもらえればいいのかも」と。

今回始めて中学生に授業を行いましたが,高校生とはまた違う反応があってとても新鮮で素晴らしい機会に恵まれました。中学生の皆さん,授業をサポート頂いた先生方,本当にありがとうございました。

最後はやっぱりふりかえり

そんなこんなで2回全4コマの授業が終了。

当初の予定はチーミングまで組み入れることを考えていたが,生徒の反応や理解度に応じて「組織的に成果を出すためのマネジメントの意味」を理解できるようにする作戦に変更したのは良い判断だったように思う。

ふりかえりにどこかで見たことがある金髪のおじさんがいる(笑)

また,ペーパータワーそのものも,学生が「今日もペーパータワーやるよ!」と言うと「やった!」という声が出るほどで,ゲーム性がある授業はウケが良い。ただ,PBLの問題で本当に伝えたいこと,教えたいことがゲームという表向きだけが印象に残って伝わらない可能性があるということだ。

加えて,今回から新たにメンバーに加わった4年生が次のようなことを言ってくれた。

授業の一貫性という意味では、情報の伝え手と受け手との間に非対称性があるので、そこにもっと配慮できた授業にできたら良かったですね。恐らく中学生の中では,それぞれの授業がブツ切りになっているのではないか。

発言者Kくんのコメントを意訳

限られた時間とは言え,いくつかの学校で授業をしているとだんだん慣れが出てくる。そして,わたしたちは何度も授業をして理解をしているつもりだからこそ陥ってしまう罠。確かに高校生でも3学年かけて教えているから伝わっていることもあるわけで,もう少し手前で重要なことを浸透できるような授業設計もあり得たかもしれない。

実は,このあと商学部第二部の授業で,組織の凝集性や斉一性についてやMCSを使って自分たちの行動を説明してみようというワークをやったのだが,4人程度のグループワークでは組織というものを実感しづらいというのもあったよう。マネジメントやコントロールという概念は抽象度が高すぎるのか,大学1年生でも十分に理解し,概念を操作するところまでには至らない。ま,私の説明が悪いのが一番の理由だろうが,まだまだ工夫が必要だということ。

ということで,今回機会を頂いたことで,またさまざまな学びを得ることができました。

なお,担当の先生からは別途ご相談を頂いている。今回授業を担当した生徒の課外活動で街に出て実際にビジネスをやってみたいという声があるそうだ。模擬店レベルのお店かもしれないが,地域や店舗,企業の協力を頂きながら,何か実践することで見えてくる世界はあるだろうと。

ぜひ今後の展開をお楽しみに。

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