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ついに中学生にまでアントレプレナーシップ教育を|東明館中学校×とびゼミコラボ授業①

昨日(5/18)は佐賀県三養基郡基山町にある東明館中学校・高等学校にお伺いし,約60名の中学3年生にアントレプレナーシップを授業する機会を頂きました。

今回はそのレポート。毎回のことながら取り留めもない記録記事です。こんなことやってます。お見知りおきを。

中学生の授業に至るまで

ここに至るまで東明館中学校・高校には2回訪問。1回目は今年1月末に現校長に顔合わせをするため。2回目は本講義を行うための打ち合わせを新学期開始間際に行いました。

現校長はシリコンバレーでの起業経験を持ち,現在は教育系の審議委員を複数務めておられる。校長になってすぐの入学式での話の様子はこちらにあるので,ぜひ御覧ください。

正直,こういう人が校長されている学校でなにかするってめっちゃ緊張します(笑)。が,(私が勝手に思っていることですが)こういう起業家出身者が教育をどうにかしなければならない,アントレプレナーシップやコレクティブ・ジーニアスのような概念を中学生・高校生に学んでもらうことで,彼・彼女たちに自分の人生を自分で生きて欲しいと考えておられるからこそ,私たちの教育アプローチに興味を持って頂けたのではないかと思います。

実は,東明館中学校・高等学校は,わたしたちのゼミで大変お世話になっている福岡女子商業高校(女子商)とご縁があります。それは女子商の現校長が,現在東明館学園の実質的オーナーが北海道で運営する高校での勤務経験があり,そこで先進的で創造的な教育アプローチにチャレンジされてきたというつながり。以来,東明館と女子商は教員研修等でもつながりをお持ちのようで,わたしたちの取り組みも伺っておられたようです。

今回の授業は3人の大学生にお願い。中学生向けの授業は初めて。
今回のリーダーは上野くん(左)。

そうして迎えた今週。通常火曜日に行う壱岐商業高校での授業が中間テストのためにおやすみ。少し余裕ができたけれども3年生も4月から全力疾走で走り抜いてきたので,ここでは4年生で昨年の女子商での授業でクラスリーダーを務めた学生にお願いして,中学生への授業をお願いすることにしました。

今回の授業手法と目的設定

ということで,始まった今回のコラボ授業。初めての中学生向けのアントレプレナーシップをテーマとした授業で2回(4コマ:200分)ということで,学生と数回議論を進めながら,授業カリキュラムを練ることにしました。

テーマは「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」。目的は①学校ではなかなか自覚的に体験できない「組織的活動」(部活とかやってれば組織なんですけどね)はどういうものか②組織で活動する基礎として個人はいかにあるべきか,個人と組織はどう関係性を構築するべきか③彼らが社会に飛び出す7年後を見据えた働き方を意識した授業内容の3点。

しかも,学校では探究学習の時間にSDGsなどをワークブックを使って学習し,生徒もPCやタブレットを持ち込んで授業を受けて良いことになっているので,その場で調べたりするのが当たり前になっているのだそう。

という中で,レベル感をどう設定するかが難しく,そして身体を動かして実践的にそれを学ぶ機会を作ろうということで,毎度おなじみのペーパータワーを活用したグループワーク中心の授業を進めることにしました。

これまでもペーパタワーを使った教育はさまざまなシーンでアレンジして活用してきました。例えば,工学部の学生向けにはこんな感じで。

あるいは高校生向けのアントレプレナーシップ教育を行っている女子商でも導入し,生徒の理解度に合わせたチューニングを行いながら,組織的活動に使用したり,損益分岐点分析に活用してきたりと工夫をしてきました。

今や定番となったペーパタワーですが,そのバリエーションは豊富で,実践を繰り返す中で,教育目的・目標と技法(ペーパタワー)がだんだんうまく組み合わせていけるようになった実感があります。そこに学生の成長を感じるし,ペーパータワーだったり,マシュマロ・チャレンジの奥深さがあるように感じます。

そうこう議論してきた結果,2回,4コマの授業カリキュラムが次のように決まりました。

全体のテーマ:アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスを理解する。加えて「組織として目的を達成することの意義」を理解し、以後の学校生活で活かせるようにする。

・5/18
〔1コマ目〕

自己紹介/今回の講義目的
アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスの定義/例紹介
ペーパータワー①:まずは試行錯誤してタワー建設をする。
ふりかえり:個人でできること、組織だからできることを峻別して理解。
〔2コマ目〕
組織とは?(3要素/目的を持った協働であることを理解)
ペーパータワー②:組織で目的(目標)を設定して実施
ふりかえり:目標を組織的に実現することの意義を理解させる。

・6/9
〔事前動画〕

前回の復習/MCSの理論的理解
〔1コマ目〕
前回講義のふりかえり。
自分たちのペーパータワー建設はどのコントロールレバーが効いていたか?行動(結果/環境)コントロールを強めるとすればどうするか?(→MCS理論の実践への適用)
ペーパータワー③:ランダムにチームを再構成(→チーミングへのつなぎ)
〔2コマ目〕
ペーパータワー③のふりかえり
チーミング概念の説明(個人、統制的組織よりもプロフェッショナル的働き方が求められる組織/達成すべき目標やビジョンの共有、メンバーの心理的安全性の確保、メンバーが協力しやすい環境の整備)
学び続けることの重要性(知識の詰め込みではなく、現実世界との結びつけをしながら生活する)

そしていよいよ当日。授業がスタートしました。どんな感じだったのでしょうか。

緊張の中での授業スタート

当日は13時に学校に到着。13:30からの授業のために少し早めに学校へ。

クラスリーダーの学生は来る道すがらでも「だんだん緊張してきた」,「女子商の最初を思い出すわ〜」と。私でも毎年の講義,第1回は緊張するものです。彼は女子商でのクラスリーダーを経験し,その後もさまざまな社会人と連携しながらプロジェクトを動かしています。しかし,まだ見ぬ中学生を前にしてどこまでできるか,当初計画していた内容はどこまで理解してもらえるのか,やはり緊張するのですね。普通です。

玄関にはキングダムの顔ハメが。作者・原泰久先生は東明館の出身。

準備を終えて,いざ授業開始。当初予定になかった私からの話が長引き(いつものことながらすまん!),押し気味で授業がスタート。

毎度おなじみのアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス

自己紹介もそこそこ,1コマ目はアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス(集合天才)について。先に紹介したように,校長が元起業家であることもあって,どうやら普段からアントレプレナーシップやイノベーション,世の中がどう変化していっているかについては概念的に理解できている模様。なので,ここはスムーズに。

学生が一番心配していたのは「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスを理解できるようにするための仕掛け」。ここではONE PIECEで仲間になるシーンを取り上げての説明。

漫画の中での麦わら海賊団は,それぞれのキャラクターがそれぞれの目的・目標を持って海に漕ぎ出し(アントレプレナーシップ),でも1人では能力に限界があるから互いに助け合いながら困難を乗り越えていく(コレクティブ・ジーニアス)と。

それはまさに今企業で行われていることであるし,中学生であるみんなも身につけておて欲しい考え方ですよとの説明はどうやら伝わったのかな…。とにかく生徒さんは楽しそうにしていたので良かったですね。

いざペーパータワー建設!

そして,続いてペーパータワーの建設がスタート。

今回は4コマで3回のタワー建設を行います。

1回目は先生によって割り振りされたチームでいきなりペーパータワーを建設する。2回目は1回目で出た課題を洗い出し,組織の3要素(組織目的・協働意思・情報共有)を意識して,目的を持ってペーパータワーを建設する。そして,2コマ目では3回目として即興的に作ったチームでこれまでの学びを活かしてタワーを建設するというもの。

特に,3回目はエドモンドソンが提唱しているチーミング概念を体感してもらう仕掛けで,彼女がチーミングが機能する要件としてあげている謙虚さ,好奇心,心理的安全性が,組織目的を実現するための組織のあり方,人のあり方として認識されつつあるし,状況に適応するために学習しながら成長する組織の構築をするための個人が持つ素養だと伝えたい。そこにアントレプレナーシップやコレクティブ・ジーニアスといった概念を理解しておくことが求められるかもねという授業なんですが,まあ,こう書いてみるとすごい難しいことを教えようとしていることに気づきます。

いざ1回目

さて,そんなことはお構い無しで,中学生たちはペーパータワーを建てるために試行錯誤を繰り返します。普段からPCで調べて実践する癖がついているからでしょう。ある生徒はすぐにPCを開いて調べ始めます。また,ある生徒はコードのようなものを書いて,計算を始めたり。一方で,別の生徒は何度も倒れるペーパータワーを見て苛立ち始めたり。思春期の難しさみたいなものを垣間見つつ,1回目のタワー建設が終了しました。

1回目のペーパータワーを建設中

最も高く建設したチームは,定番通り一般的なタワーと同じように三角錐のように下を安定させ,上を徐々に細くしていくタイプ。1回目にしては安定したタワーを建設するあたり,大学生はいい意味での驚きを得たようでした。

そんなこんなで予定よりも進捗が少し遅れて1コマ目が終了しました。

2回目|最高の高さタイ記録が誕生

そして,休憩を挟んで2回目。

1コマ目の15分ほどのワークでそれなりに集中力を必要とし,かつチームワークで答えのない問いを解くというのはさすがに難しかったよう。普段からグループワークや実践的学習で学んでいる生徒と言えども,少し苦労していたように感じました。というのは,2コマ目の冒頭に1回目のふりかえりとして,組織の3要素を事前に説明したにも関わらず,「どうペーパータワーを建てるか」というHow toに議論が向きがちで,そのこととペーパータワーとがどう結びついているのかまでには理解が及んでいない感じでした。

今,この記事を書いているときに気づくわけですが,恐らく中学・高校での勉強とは,ある種理解すること,試験で得点を取ること,志望校に合格することが当たり前で,そういう目的・目標が所与になってしまっている。始めからある程度解が明らかな問題を解くことが日常的になっているがゆえに,大事なことはいかに解くか,いかに解を得るかなんだよな。

だから,どうしてもすぐに解決策を得ようとしてしまう。それをそのままアウトプットすれば良いと考えてしまう。これはある種思考の癖とも言うべきものなのでしょうか。そんな様子を見つつ,学生と私の間でもこちらもハンドリングを間違えないようにしないとねと確認しながら,彼・彼女たちのふりかえりを眺めていました。

 ある程度建て方を決めて,丁寧に紙を折って慎重に紙を積み上げる中学生

そうして始まった2回目のペーパータワー。ここで中学生が持つ可能性が爆発します。

1回目トップだったグループはタワーの柱の強度を高めるため,紙と紙を織り込んで1つの柱にする方法を考案。しかし,これはルール違反。なぜなら紙を積み重ねることがルールで説明されていたにも関わらず,自己流での解釈をしてしまう。方法としては全く間違えていないんだけれども,目先のタワー建設に集中し過ぎるがあまり,ルールを(無意識的に)はみ出してしまった。

また,あるグループは段と段の接点の強度を高めるために,そこだけ二重に折り込み,強度を高める方法を考案。結果的に作業量が多くなってしまったがためにトップにはなれなかったが,アイデアとしては素晴らしいものが出てきました。やるやん,中学生。

そして,最大のサプライズとなったのが,これまで私が見てきたペーパータワーで最も高い9段,270cmのタワーを建設したチームが現れたことでした。

中学生の能力はすごい

過去最高の高さを積み上げたのは某帝国大学工学部の学生チーム。彼らは物理を学んでいるので,ある程度どうすれば高くて堅牢なタワーが建てられるかはわかっているだろう。が,中学生はそうはいかない。果たしてどう建てたのでしょうか。

ふりかえりの時間に聞くと,ネットで調べたり,計算をしたところ1段に三角柱を2本使い,折り目を向き合わせて正方形にする。そこには紙4枚から成る対角線ができるので,柱の中心部が堅牢になる。そこの重心に合わせて(つまり四角形の真ん中)90°ずつズラしながら建てていくという方法。

上の画像は9段建った時点で撮影したもの。最後10段目のチャレンジをしたところでタワーは倒れてしまったが,ナイストライでした。素晴らしい。ほんと若い人の可能性を見せつけられた時間でした。

もうおじさんは引退だ!

生徒のふりかえりとわたしたちのふりかえり

そうこうして2回のペーパータワー建設は終了し,いよいよふりかえりの時間。しかし,生徒の興味は「どう高くペーパータワーを建設するか」に集中。果たしてどこまで今日の授業目的を達成できたのでしょうか。授業終了後,1時間ほどディスカッションを行うことになりました。

上記で挙げたような課題はあるとしつつ,中学生の良さをどう引き出していくか。そことの折り合いをつけながら,今回の授業目的をいかに達成するか。そのための方法論,アプローチ,事前動画の内容など多角的に議論をすることができました。

今や,ここに関わってくれる学生たちは各校で培ってきたプロジェクトでの経験,ゼミの時間内でも繰り返し説明しているアントレプレナーシップであったり,事業機会の探索であったり,組織として目的をいかに実現するかであったり,何のためにどうしてやっているのかであったりを互いに理解して,ある程度即興的に議論できるところまできています。もう私がいなくても十分に授業できる(笑)。安心感を持って見ていられます。

最初は緊張したと言ってはいたけれども,限られた時間ででき得るパフォーマンスを出しつつ,課題をしっかりと抽出してくる。

自発的にこうした取り組みに関わってくれて,ほんとすべての学生に感謝です。

さて,2回目の授業はどうしましょうか。3パターンくらい計画をさっと作りましたが,学生はどういう方法を選択してくるのでしょうか。実はこれも楽しみだったりしてます。6/9に行われる第2回授業の様子もレポートしますので,お楽しみに。

余談|大学1年生にもペーパータワーやりました

余談1

さて,下は今日(5/19)に行った商学部第二部の基礎ゼミの様子。ここでもこれから商学,経営学を学んでいく大学1年生に組織とは,目的・目標の設定とは,チームマネジメントとは,マニュアル化?みたいなことが重要だということを認識する機会としてペーパータワーに取り組んでいる。

こちらは7段が最高記録

昨日に中学生の動きを見ていたので,比較しながらその様子を眺めていましたが,基本的には人の動きは同じ。目的・目標を定めず,とにかくプロトタイピングを重ねてタワーを高く建てようとする。それで6段,7段のタワーが建つのは良いのだけれども,こちらの意図とはズレている。前回,前々回はカードの情報をもとにチームで地図を作成するワーク(バスは待ってくれない)を行い,そこでも組織の3要素の話をしたけれども,なかなか意図通りには動かない。

授業を聞いていない,理解していない,理解できないということはないと信じたいのだけれども,ここはこちらの要件定義の問題でもあるのだろう。つまり,4人の小集団が組織であるとは認識されていない。

が,今回は終盤に仕様書を書くというワークを与えた。つまり,自分たちのペーパータワーを作成する手順書を書くというもの。誰が読んでもわかって,同じように作業ができるマニュアル作ることがいかに難しく,言葉の選択,図示など工夫を凝らさなければならない。

またできあがったものをこちらで紹介してみたい。来週の基礎ゼミはできあがった仕様書でタワーを建ててディスカッションの予定。

余談2

女子商で昨年度調査したアンケート結果をもとに,アントレプレナーシップ教育が単に企業を目的とした狭いものではなく,広く経営や会計のリテラシーを養うキャリア教育だとするならば,会計教育にはどんなインパクトを与えるのかという論文を書いてみた。

また,この研究の精度を高めるために,コラボ授業を導入してくださる4校の生徒さんにスキル,自己効力感,自尊感情,学校への帰属意識などを調査している。今回の論文はここで行った調査の前段階としてわかっていることをまとめたもの。果たしてどれだけの人にどんなインパクトを与えることができるのだろうか。といっても駄文だからしょぼいしょぼいものですが。引き続き,こちらでもチャレンジを続けます。

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