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エンジニア(の卵)向け会計学・経営学教育のその後

先週,非常勤先である理工学部機械工学科に所属する学生に対して経営学をいかに教えるかという内容の記事を書いた。

FacebookやTwitterにシェアしたところ,それなりに反応を頂き,コメントやアイデアを頂くことができた。感謝です。

で,先日(1/14)の最終回の講義で再びペーパータワーを実施しました。今日はその結果を簡単にご報告。

今回のルール

前回までは紙を渡してどこまで高く積み上げることができるかを検討,実施プラス仕様書を作成するところまでを行ったが,今回は会計的利益で競うことにした。(ワタシ的に言えば)本来のペーパータワーのルールに戻したことになる。

ここでいう本来のペーパータワーのルールとは,売上高をタワーの高さ(A4の場合,1段目を建てたときの売上高はタテ使いは30億円,ヨコ使いは21億円となる)とし,紙1枚=建設資材を2億円で購入(つまり変動費),固定費を120億円として計算する。すなわち,紙1枚を積み重ねていくと貢献利益(売上高と変動費の差)は28億円となるが,利益を出すには4段ではなく,5段が必要になるということだ。

要するに,損益分岐点分析を活用してタワーを建てるというゲームだ。

加えて,上位3チームには得点を加点するというインセンティブを与え,より高い利益を追求する環境の中で学生たちがどのようなペーパータワーを建設するかに注目した。これにより,簡単に言えば,コストをかけて(紙の枚数を増やして)安全性が高いであろうタワーを建てる,あるいは利益を出すためにコストをかけずに(紙の枚数をできるだけ少なくして)タワーを建設するという戦略が出てくることが想定される。

商学部の学生の場合,後者の例が多いように感じる。その点は,今回同行してくれた学生も記述してくれている。

これを工学系で行うと若干様子が異なる。物理的にバランスの取れた理に適ったタワーが建設される。私が見た中で恐らく最も高くて安定性があったタワーはこれ。

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某Q大の工学部の学生による作品

このときは「純粋に高いタワーを建てる」ことをルールとしていたのだが,上に行くにつれて建材(紙)の間のスペースをすぼめて,電波塔(東京タワーのような)のように三角錐を意識して建設していることがわかる。要するに彼らが物理の講義で習ったことをそのまま適用すれば,安全性の高いタワーが建つ。

ただ,今回の場合は利益を出すという制約が加わっている。企業経営と同様,安全性と収益性をどうバランスさせるかがポイントになる。

1回目と2回目の比較

改めてになるが,今回のゲームに至るまでの前提条件は次のとおりだ。

①個人で数枚を使ってタワーを建てる(第1回講義)
②チームでタワーを建てる(第1回講義)
③損益分岐点分析やコストマネジメントを講義で学ぶ(第2回〜第13回)
④チームで20枚の紙を使ってタワーを建てる(第14回講義)
⑤仕様書を作成する(第14回講義)

これに今回は次のように進めた。

⑥ルール説明を行う(利益の最大化が目的)
⑦仕様書を書き直す
⑧タワーを建設する
⑨ふりかえりを行う

時間があれば仕様書を再度書き直し,他のグループにその仕様書をもとに建設してもらうという段階まで進みたかったが,今回はそこまでできなかった。

ということで,前回と今回の比較をしていこう。まずは前回のペーパータワーはこんなだった。

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見てわかるように、土台部分を幅広く、頂点に行くにつれて幅狭くしていく三角錐(あるいは四角錐)で作られていく。まるで、東京タワーやエッフェル塔のようなイメージ。安定感が高いのでまだまだ建てられると、紙を増やせないかという問い合わせがあった程だ。

これを受けて前回講義の終わりには「来週までに同じ枚数でより高くする方法を考えてくるように」と指示を出した。

そして、今回の講義では先に記した⑥利益の最大化を目的とすることを伝え、通常のペーパータワーのルールでタワー建設を実施した。

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各グループの購入枚数

全部で6つのグループができたが、3グループは前週から減らし、3グループは前週よりも増やした。これまた興味深い展開だ。そして、今回のタワー建設はこんな形になった。

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すると、前回同様三角錐(あるいは四角錐)で建設したグループもあったが、上記のような建設手法を取るチームが現れた。

左は上に行くにつれて感覚を少しずつ狭めてはいるものの、柱4本、フロア1枚の基本設計を積み上げていく方法。

中央は三角形の柱を各段2本ずつ積み重ねるものの、柱を少しずつずらしながら、面の三角形の重心をつなぎ合わせて積み上げていく方法。

右は三角形の柱を1本で積み上げていく方法を取った。

コストをかけて安定性を重視したグループ、利益を最大化するために少ない枚数で高いタワーを建てようとするグループ=ある程度リスクを取ることを選択したグループと、アプローチが少しずつ変わっていったのである。これは見ていて大変興味深かった。

今回の講義のねらい

ある種、これは「してやったり」だった。

20枚という制約条件でできるだけ高いタワーを建てようとすれば、その枚数の中で基本に従って建設すれば大きな問題は起きない。学んだ物理の知識を使って建設すれば良い。理にかなっている。

ところが、「利益の最大化」を目指せ、加えて上位3チームには加点するとした途端に、それぞれのグループの行動が変わる。結果は次のようになった。

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最も多く買ったグループと最も少なく買ったグループが上位を占めた

まさに経営戦略の違いが目に見えた。実際の企業経営でも同じだろう。ペーパータワー建設そのものは製品の企画・開発方針、製造現場のマネジメント、製品の完成度等々を表しているし、利益を目標とした時に建設方針を固めつつ、損益分岐点分析を使って利益計画が立てられたのであれば、当初の講義目的が果たせたということなるのだろう。

この講義の終わりには必ず観せる動画がある。

これ自体はマシュマロ・チャレンジという若干異なるゲームではあるが、プロトタイプの重要性を伝えている。

計画を作るのに設計図だけを描こうとするのではなく、基本的な知識をもとに設計をしながら、実際に建設することで柔軟に構造を変える。かつ、企業経営の目的の1つが利益の最大化にあるとき、顧客の満足度やコストマネジメント、品質等々、さまざまば要素を考慮してこれを実施できるようになるか。このジレンマをクリアすることがエンジニアに求められる1つの素養だろうと考え、このような講義構成にした。

まとめ:さらなるバージョンアップを

もちろん、こうした講義が現実とズレていて、私の思い違いで進んでいる部分があることは否定しない。が、そんなに遠くはないだろう。もう少し彼らが何をどう学んでいるのかについて知る必要があるだろうが、これは来年度の課題とせざるを得ない。

先日の投稿をFacebookでシェアしたところ、いくつか意見を頂いた。それを踏まえてできそうだなと思ったのは、色紙を使用してデザイン性を重視する(色紙の仕入価格、売上を若干高く設定する)とか、固めの用紙を数枚用意して土台部分の安全性を高める(ただし、仕入コストを高くする)とか、考慮する要因を増やすとか、もう少し工夫ができそうだということ。

ただ、これだと損益分岐点分析を中心に、原価企画、マーケティングだけを教えて終わってしまうので、もう少し組織論やアントレプレナーシップに近い話をできるようにしたい。

これによって商学部、特にゼミで感じているモノが作れないことによって生じる限界を少しでも越えられるような実験的な取り組みができると良いのではないかと思う。

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