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「ネットスーパー」の成功モデルとは?

今回は「ネットスーパー」について、雑誌「食品商業」副編集長の三浦慶太さんに三重県の「スーパーサンシ」の事例をご紹介いただきました。

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スーパーサンシのネットスーパー「一社先取り総取り」の成功モデル

スマホの普及、長引くコロナ禍により、ますます需要が高まる「ネットスーパー」。ただ、「ネットスーパーはコストがかかって儲からない」という定説があり、これまでなかなか普及してきませんでした。

そうした中、ネットスーパーで黒字化を果たすどころか高収益を挙げ、そのモデルを他のスーパーマーケット(SM)にFC展開する企業が現れました。三重県北部を地盤とするスーパーサンシです。本稿ではサンシが確立し、全国に広がりつつあるネットスーパーの成功モデルを紹介します。
※文中の数値は、2021年4月時点のものです。

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スーパーサンシの旗艦店、日永カヨー店の年商は約50億円。そのうちネットスーパーが約10億円を占める。毎日平均820件の受注がある

ネットスーパーは「一社先取り総取り」

スーパーサンシでは、全13店舗のうち7店舗でネットスーパーを実施している。2020年度の年商は、企業グループ全体で437億円。そのうちSM事業は303億円で、ネットスーパーの売上50億円がそこに含まれる。つまり、SM事業の売上のうち約17%をネットスーパーが占めている。

中でも旗艦店の日永(ひなが)カヨー店(三重県四日市市)は、店舗の年商が約50億円で、そのうちネットスーパーが約10億円。「これはネットスーパーの単店売上高としてはおそらく日本一」と常務取締役の高倉照和氏は言い切る。

売上構成比で見ると、大手SM企業のネットスーパー実施店では、店舗全体の売上のうち5〜10%がネットスーパーだといわれている。サンシの各店舗の売上構成比は20%を超えていて、いかにネットスーパーで成功しているかが分かる。

2高倉氏とトラックth_

スーパーサンシのネットスーパー事業を指揮する高倉照和氏と配送用トラック

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日永カヨー店の生鮮食品のピッキングライン。バックヤードのスペースを活用しているため低投資で済む

このようにネットスーパーで前人未到の成果を挙げているスーパーサンシだが、イオンのお膝元でもある激戦区の三重で、なぜ一人勝ちすることができたのだろうか。

高倉氏はその理由を、「ネットスーパーは一社先取り総取り。先行した企業が市場を独占する」からだと言う。サンシのネットスーパーには、先行した一社だけが圧倒的に勝ち続け、競合他社が参入できないようにする仕組みがある。高倉氏はそれを“オセロゲーム”にたとえて、絶対に取るべき“四隅”と表現する。具体的には次の4つである。

①会費制にする
②自社で配送する
③受取ロッカーを設置する
④スマホアプリを絶えず進化させる

以下に、一つ一つ見ていこう。

① 会費制にする
スーパーサンシのネット宅配は、会員1人当たり月額477円(税抜、以下同)の会費制である(他に月額96円で1回ごとの配送に96円かかるプランもある。ただし、いずれも1回の注文が1429円未満の場合はサービス料として77円がかかる)。

従来のネットスーパーは、5,000円や6,000円といった一定額以上で配送料を無料にするケースが多い。このやり方だと、お客は米、飲料ケースといった高単価でかさばる商品の買い置きで利用する傾向が強くなる。こうした商品は、単価は高いが利幅が薄く、利益を出しづらい。加えて購買頻度の低い商品なので、月2回程度の利用が大半になる。
これに対して、スーパーサンシのネットスーパーは平均で週2回程度利用され、生鮮食品や惣菜など利益を取りやすい商品が売れている。

会費制の直接のメリットはネットスーパーの運用コストを賄えることだが、同時に、「会費を払っているんだから、何回も利用しないともったいない」というお客の心理が働き、利用頻度の向上にもつながるのだ。

② 自社で配送する
配送を外注するとコストがかさみ、利益を出しづらくなる。そこでサンシでは各店舗に保冷機能付きのトラックを配備し、パートタイマーのドライバーを雇用している。日永カヨー店だけで約35台が稼働し、1日2便の配送を行なっている。トラックは軽自動車で、1回の配達につき最大25件分まで積載できる。

市街地の場合、トラック1台が1時間に15~18件の配達をこなす。山間部は効率が落ちるので、全体の平均は8~10件になる。この「小商圏・高密度」の配送、それを可能にする会員獲得のノウハウこそ、サンシの最大の強みだろう。

人件費に換算すると、ドライバーの時給が1,050円~1,100円として、1時間に10件配達すれば1件当たりの人件費は単純計算で105円~110円。実際の全店平均は131円だという。ちなみに、ピッキング要員の人件費は1件当たり110円。合計で1件当たり241円。これはサンシのネットスーパーの平均客単価3500円に対して6.9%であり、極めて低い水準だ。

サンシの基準では、ネットスーパーで月商1,000万円を売る場合、ピッキング3人、ドライバー3人の計6人で回せるという。配送は1日2便で、ピッキングの稼働時間は5時間と短い。しかも、ピッキング、配送ともにすべてパートタイマーで運用している。現場を取り仕切る「デポ長」もパートタイマーだ。こうした雇用体制を含めて人件費を適正にコントロールし、利益が出る仕組みを構築しているのだ。

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日永カヨー店の出荷場のトラック。35台が1日2回転以上の配送を行なっている

5会員宅をプロットした地図

会員宅をプロットした地図。「小商圏・高密度」であることが、極めて高い配送効率につながる

③ 受取ロッカーを設置する
サンシでは、一部の例外をのぞいてすべての会員宅に鍵付きの「受取ロッカー」を配布し、玄関先に設置する。住宅事情でロッカーを設置できない場合は会員登録を断っているという。

ロッカーの設置には複数のメリットがある。ひとつは不在時の再配達が発生しないこと。加えて、ロッカーの設置は配送時間の短縮にもなる。高倉氏によると、手渡しの場合は1件当たり平均6分かかるが、ロッカーなら1分で済むという。1件5分の差は大きい。

さらに特筆すべき点は、サンシの受取ロッカーを設置した会員は、競合他社のネットスーパーを利用することはまずない。玄関先に別々のSMの受取ロッカーを2台設置する会員はまずいないからだ。これは①で述べた会費制についてもいえる。一旦サンシの有料会員になれば、他社の有料会員になって二重で会費を支払うことは考えづらい。

これらの点こそ、サンシのネットスーパーが「一社先取り総取り」となる最大のポイントである。

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会員宅に設置された受取ロッカー。不在でも受け取れるため、再配達が発生しない

④ スマホアプリを絶えず進化させる
ネットスーパーにとってスマホの受注アプリはインフラであり、極めて重要なツールである。サンシではSM企業としては珍しくスマホアプリを自社開発し、現場の声を取り入れて常にアップデートしている。

例えば、商品の入ったボックスをトラックに積み込む際にバーコードをスキャンすると、最初に配達する予定の顧客にプッシュ通知が届く。その配達が完了すると、今度は次の顧客に通知が届くという機能を追加した。最新のスマホアプリを常にメンテナンスしておくことも、勝ち続けるための必要条件なのだ。

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スマホアプリを自社開発しているため、現場のニーズに合わせてアップデートできる

以上が、スーパーサンシの“四隅”にフォーカスしたネットスーパーの特長である。その上で書き添えておきたいことが2つある。

1つ目は、サンシはもともと地域一番店であり、地元の顧客をしっかりとつかんでいることだ。どんなに優れた仕組みがあったとしても、お客は嫌いな店の会員にはならない。スーパーサンシが持つ店としての魅力、長年築き上げてきた信用、そこから生まれる口コミが、会員獲得時の大きなフックになっているはずだ。

2つ目は、サンシが宅配事業をスタートしたのは1975年であり、それから現在までノウハウを蓄積し続けているという事実だ。スマホやインターネットが普及するよりはるか前のことであり、そして今も進化し続けている。そうしたノウハウが結晶したサンシのFCブランド「JAPAN NetMarket」には、現在20社ほどの全国の有力SMが加盟しているという。今後の動向に注目したい。
(文:「食品商業」副編集長 三浦慶太)

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スーパーサンシの“オセロゲーム”に例えた「絶対に取るべき“四隅”」、具体的で参考になりました。
たまに購入するECと異なり、日用品だからこそ会費制にすることで使い続けるメリットがあるのだと思います。

また、ピッキングから配送までビジネスモデルをしっかりと構築し、さらに宅配ロッカーやスマートフォンアプリのアップデートと、ユーザーの利便性を追求している点も顧客を引き付けることにつながっているのでしょう。
コロナ禍でネットスーパーの需要が拡大する中、今後の動きにも注目ですね。

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