シュークリーム

1. 朝の支度

朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。

ある女がそれを聞いて、ある物を作り始めた。棚の奥の方から小さな石と水を取り出す。どこにでもある手のひらサイズの石と、緑色をした水だった。

2つの材料から女が作り上げたのは、シュークリームだった。見かけは普通のシュークリームだが、それはとても特別な力を持つシュークリームだった。

そう、このシュークリームこそが物語の核となる。

では主人公は誰か?
シュークリームを作り上げたこの女ではない。この女の1人娘が物語の主人公である。

名前は遥香という。この春で高校2年生になる。この時まだ遥香は自室で眠っている。

「このシュークリームで世界を救ってほしい」そう祈りを込めた後、朝ご飯の支度に取り掛かった。

2. 西の者

このとき遥香は夢を見ていた。
夢の中で遥香は1人で草原を歩いていた。
しかも夜で、空は真っ暗だ。でも星は見えない。唯一オリオン座だけが空に鎮座していた。

オリオン座を見上げながら、夜の草原を歩く。オリオン座に見られているような感覚になってくる。

違うな。きっと私はオリオン座に導かれている。このまま歩こう。オリオン座がどこかに連れて行ってくれる。

オリオンはこの日も左手に赤い星「ベテルギウス」を携え、右足には青い星「リゲル」を身につけていた。そして腰の位置にベルトのように三点の星を装着して勇ましい姿で遥香を見下ろしていた。

もちろん、オリオン座は遥香を導く。
遥香の目の前には大きな石の塊が姿を現した。

古墳だ…直感で分かる。学校でも習ったし、写真で見たことある。けど実際に見る古墳は、闇に眠る怪物のように感じられる。しんと静まり返った草原の中で、怪物の息づかいが聞こえてきそうだった。

遥香はそのまま古墳に近づき、中に入れる穴を見つけた。怪物の中に足を踏み入れた。

身をかがめないと通れない通路を進むと、大きな岩に囲まれた空洞に出る。それはただの穴ではない。誰かのための部屋だった。

岩に囲まれているだけなのに、人の気配がした。きっとそれは人でもない何がなのだろう。

遥香はだんたん怖くなる。早くここから抜け出したい、家に帰りたい、そう思った。けど足がすくんで動かない。だから遥香は両手を合わせて祈った。私を家に帰らせてと、何かに向かって祈った。

すると、どこからか緑の光が差し込む。薄暗い岩の部屋が緑色に照らされる。そして岩に埋め込まれた小さな石たちが緑色に輝き始める。

無数の緑の光が飛び始めた。
その中の一つの光が遥香に向かって来る。遥香はそれを身体の真正面で受け入れる。

そして誰かが遥香の耳元で囁く。
「これであなたは西の者になった」

その瞬間、遥香の夢は終わる。

3. 理科室

「これ、調べてほしい」遥香はそっと机の上にシュークリームを置く。

それは今朝母親からもらったものだ。
「食べなくていい、これはお守りだから。遥香を危険から守ってくれるシュークリームなの」と母は言った。

「シュークリームの成分なんて調べてどうんすんの?」とぶつぶつ言いながら白衣を着た男子学生は、顕微鏡でシュークリームの皮の切れ端を調べ始めた。

この男子学生は名前を酒井と言う。
遥香の小学生からの友達だ。
科学が大好きで実験ばかりしていた。

母からもらったシュークリームが一体何なのか知りたくて、放課後いつも理科室にいる酒井のところに来た。

「これ、花崗岩と同じ成分だよ」と酒井は顔を上げずに言った。
「なに、それ?」
「よく、建物の石材として使われる岩のこと。日本だと墓石とかが多いかな」
「墓石?」
「遥香さ、これ食べてないよね?」
「食べるわけないよ」遥香は首を横に振る。

「中のクリームも調べていい?」
「うん、お願い」
酒井がピンセットで皮を剥がすと、とろっとクリームが出てくる。でもそれは白いクリームではない。緑色をしていた。

緑色のクリームを2人が目にしたちょうどその時、理科室の電気が一斉に消えた。
「なに?停電?」
黒いカーテンで締め切っていたせいで、真っ暗になる。

でもすぐに、暗闇の中で一筋の光が現れる。それは緑色の光だった。
「シュークリームが光ってる?」

最初はぼんやりと淡い緑の光だった。
でも少しずつ濃い緑になり、ビュンっと一直線に窓の外に向かった。
シュークリームから放射された緑の光は、真っ直ぐにどこかを指し示していた。

遥香と酒井は、その光の方を目指す。
シュークリームを右手に持ち、カンテラのように前を照らす。真っ暗な理科室の中で、シュークリームだけが頼りだった。

4. 丸山古墳

学校の外はまだ明るかった。日は西に傾いていたが、太陽の光は街に溢れている。
それでもシュークリームが放つ緑の光は、存在感を持って真っ直ぐどこかを指し示している。

遥香は酒井と歩きながら、酒井との出会いを思い出していた。
「遥香って、大阪から来たんだろ?あっちだと星って見える?」

遥香は大阪の生まれだった。小学5年のとき東京に引っ越してきた。
はじめ遥香はなぜか友達が出来なかった。いつも学校で孤立していた。

そんなとき話しかけてくれたのが酒井だった。酒井は星のことを聴きたがった。
「満天の星空って見たことないから、どんなのかなって」

遥香の住んでいた地域は郊外だったから、星空が綺麗に見えた。キラキラしていてとても綺麗だよ…そう答えると「いつか見たいなぁ」と嬉しそうに目を輝かせていた。
それ以来、気兼ねなく話す友達になる。その関係は今も続いている。

そんな2人をシュークリームはある場所に導く。2人の目の前には草木で覆われた大きな岩の塊が現れる。

「古墳だ」酒井がつぶやく。
教科書で見たことはあったが、実際目の前にすると草木の中に身を潜める巨大な怪物のようであった。

「丸山古墳」案内板を遥香は見る。「南武蔵有数の豪族のものとされている」と案内は締め括られていた。

シュークリームから出る緑の光は真っ直ぐに丸山古墳の方に向けられている。
近づくと断崖絶壁のように岩肌がそそり立っているが、上に登るための階段が用意されている。その階段を2人は登り始める。

古墳の中腹に来ると、少し開けた場所があった。その場所の奥には小さな鳥居が立っている。

「あそこでお参りしてくる」酒井は遥香にそう告げる。酒井が神社を好きなことを知っていたから、遥香は驚かない。

ただ、シュークリームはさらに上に行けと指し示している。
「じゃあ私、先に行ってる」遥香は酒井に告げた。ここから先は私1人で行かなくてはならない。なぜか、そんな気がした。

2人はそこで別れる。酒井は神社に、遥香は古墳の頂上へ。遥香は少しだけ強くシュークリームを握りしめた。

5. とてつもなく大きな絵

遥香は上へ上へと目指した。
実際に登るとよくわかる。
私たちの日常と空気が違う。きっと誰もがそう思う。ここは死者を葬る巨大な墓であり、生きる者の世界とは違うのだ。

登り切ると、木々に囲まれた平地に出た。
いくつかの石のベンチと、何か文字が刻まれた石碑が立っている。

シュークリームは石碑を指し示す。
遥香は石碑の前に立ち、トントンとノックした。すると石碑は半分に割れる。割れた間には地下へと続く階段が伸びていた。

30段ほどの階段を下りる。
そこから真っ直ぐに道が伸びている。
岩肌で囲まれた岩の道をひたすら歩く。

しばらく歩くと、歩く感触が変わる。
足下を見ると、木の床に赤い絨毯が敷かれていた。

そして遥香の目の前には大きな1枚の絵画が飾られていた。どれくらい大きいか?それは、誰も見たことがないぐらい大きな絵画だった。

「座礁する船」とタイトルがあり、その下に油彩と書かれている。黒い帆船が荒波の中で座礁している。帆船は7つの帆を持っているが、もはや船を進めるだけの力も残されていない。

その帆船が見つめる先には、荒狂う海の上に浮かぶ小さな一つの光だけだった。座礁した帆船はその光に助けを求めているように見える。でも光は助けない。

少し絵から離れて、もう一度絵を見直す。 すると別の印象を抱く。
この小さな光がこの荒狂う海を作り上げたのではないか。帆船は光によって座礁させられたのではないか。
光こそが諸悪の根源。そのような印象を抱いてしまう。

絵の中の光に向かって遥香は手を伸ばす。
光は善であり、そして悪でもある。
そんな光に手を伸ばす。

そして絵の中の光に指先が触れた時、絵は消えてしまう。消えた絵の向こうには、一つ扉が姿を表した。

6. 稲荷神社

酒井が鳥居に近づくと、濃い朱色の鳥居と2体の狐の石像が鎮座していた。
五穀豊穣を願う稲荷神社であろう。
2体の狐をそれぞれ違うポーズを取りながら、真っ直ぐ酒井を見つめていた。

自分の好奇心に導かれて、神社の鳥居をくぐる。くぐった瞬間、全ての音が聞こえなくなる。風が揺らす木々のさざめきが一瞬で止んでしまう。無音の世界だった。
聞こえるのは自分の呼吸の音と心臓の鼓動だけだった。

だから、どれだけ自分が恐怖を抱いているか否応なく認識せざるを得ない。
酒井はその恐怖を抱きながら目の前の石段を登る。

朱色の鳥居以外は全て灰色と緑の世界だった。灰色は石の色。緑は石にまとわりつく草や藻の色。石段の先にある神殿も、剥げた木の色をしている。

この恐怖は前にも感じたことがあった。
小学生の頃、図鑑で見た星空を見たくて東京タワーを登った。高いところに行けば星に近づけると思ったから。

でも展望室の階まで行っても全く見えなかった。だから酒井は関係者用扉を開く。扉の先には東京タワーの頂上へ続く階段があった。
でも点検用の階段だ。鉄の階段と手すりしかない。地上300m以上の暴風が酒井を襲う。

それでも酒井は頂上を目指す。ただ星が見たかった。でも恐怖で手も足も震えている。でも勇気を出して前に進む。

でも星は全く見えないまま、点検用の階段も終わってしまう。見えたのは、キラリと光る東京タワーのアンテナだけだった。

「大阪では星は見える?」だから遥香に声をかけた。見えるよと言ってくれた遥香の言葉に酒井は大きな希望をもらった。遥香から聴く星空の話はとても面白かった。

稲荷神社の石段が終わる。石段の先にも星はない。目の前にあるのは、神殿と賽銭箱だけだった。音はない。聞こえるのは自分の呼吸と鼓動だけだった。

深呼吸をして、目の前のものに向き合う。
神殿の扉が少しだけ開いていることに気づく。
「こういうのってバチが当たりそう」そう言いながら、好奇心に勝てずに神殿の扉を右手で開いた。

7. 歯車

目の前に現れた扉のドアノブに、遥香は手をかける。遥香が扉を開くと、そこは真っ暗な闇が広がっていた。恐る恐る中に入る。

ドアから手を離すと、勝手にドアは閉まってしまう。バタン!という大きな音が暗闇の中でコダマする。

遥香は右手でシュークリームを持ち上げる。すると目の前には道があるのが分かる。道といっても、壁に挟まれた狭い道だ。廊下と言った方がいい。遥香は右手にシュークリームを掲げてその廊下を行く。

何分か歩いたところで、右に曲がる。
曲がるとすぐに大きな部屋にたどり着く。

「綺麗…」遥香は思わずつぶやく。
その部屋は無数の小さな光に支配されていた。暗闇の中に、無数の光…それはまさしく星空そのものだった。

遥香はシュークリームをカバンにしまい、その部屋に入る。小さな光の一つに顔を近づけると、それはただの光ではないことに気づく。

カチッ、カチッ…それは小さな歯車だった。小さな歯車が音を立てながら回転してしている。まるで時を刻むように。カチッ、カチッ…無数の歯車たちは音を立てて時を刻んでいた。しかもみんな固くて透明な糸につながられている。

「星達が歯車にされて捕らえられているようだ」遥香はそう思い、その糸から歯車を外そうとする。でもびくともしない。

遥香は無数の光の中で、途方に暮れた。
どの光も目指すべき道を指し示してはくれなかった。

8. 蔵の鍵

酒井が本殿の扉を開けると、中にはポツンと一つだけ鍵が置かれていた。
昔の蔵に使われた鉄のシンプルな鍵と言おうか、先端に丸い取手があり、反対側には小さく横に突き出ている。
ちょうど酒井の掌サイズで、ずっしりと重かった。金色だが、全く剥げていない。艶やかな金色が輝きを放つ。

酒井はそれを本殿の外に出す。その鍵は子どもの頃の記憶を蘇らせた。
田舎の親戚の家に遊びに行ったとき、その家の裏庭に昔からある蔵があった。昭和の初め頃まで、代々伝わる刀や宝物を保管していたが、今ではそれも売り払い全く使用していなかった。

子どもの酒井は蔵の中を見たいと大人にせがみ、蔵の鍵を出してもらった。その鍵がちょうどこのような形だった。「かなり久しぶりに開けるわ」と親戚のおばさんは言っていた。

いざ開けると、どこから入ったのか3匹の野良猫が暮らしていた。
きっと僕たちが開けてくれるのを待っていたんだよ!子どもの酒井はそう信じた。
野良猫たちは迷惑そうに外に出て行った。暗闇の中で震えていた猫たちを助けた。そんな誇らしさで溢れていた。

その古い蔵は、それからほどなくして取り壊された。建物としての強度も不十分だし、全く使っていないので取り壊して新しいガレージを作るということだった。

酒井はとても残念がった。あのカビ臭さも湿気も3匹の野良猫達も跡形もなくなった。あるのは真新しい何の匂いもしない鉄骨の建物だった。

「蔵の鍵を奉納しに行こう」落ち込んでいる酒井に話しかけてきたのは親戚のお爺ちゃんだった。
「この地域では壊した建物の鍵を神社に奉納する慣わしがあるんだ。建物にも命がある。その命を氏神様に返す意味を込めて、鍵を奉納するんだ」

そう言って近くの小高い丘の上に立つ神社に2人で行った。よく晴れ渡っていたから、町全体が一望できた。風と共に木々が揺れ、白い雲が流れていくのを見ていると、何だか自分が神になった気がしてくる。

「ここに入れるんだ」他に誰もいない神社の賽銭箱に、蔵の鍵を一万円札と共に入れる。柏手を打って2人で手を合わせた。
「これで、これからも氏神様がこの地域を守ってくれる」そう言って親戚のおじいさんはにっこりと笑った。

そんな昔の記憶を頼りに、酒井は手元にある鍵を稲荷神社の賽銭箱に入れた。不思議なことに鍵が箱の底に当たるカチャっという音はしなかった。ずーっと下まで落ちて行ったようだった。

酒井は柏手を打って手を合わせる。
「どうか遥香が無事でありますように」
そうしっかりと祈りを込めた。

9. 蛍

遥香がいる空間は全くの暗闇だった。
そこに鎖に繋がれて歯車にされてしまった無数の星達の光がある。その光は遥香の背丈ほどの高さに広がっている。だから遥香の上空は全くの暗闇しかなかった。

そこに1つの光ができる。とても小さな光の点だ。夜の帳が降りた空に顔を出した一番星のようであった。
「あそこにも星があるのかな?」そう遥香は上を向いてつぶやく。

ただその光はどんどん遥香に近づいてきた。遥香は手を出してそれを受け止める。遥香の手の中には、酒井が賽銭箱に入れた鍵が入っていた。

「どこかに鍵穴があるのかな?」
遥香は周りを探す。思い出したように、遥香はカバンからシュークリームを取り出す。
シュークリームは緑の光を部屋の中央の方向に放っていた。

遥香がその方向に行くと、鍵穴があった。
どこにでとある普通の鍵穴が取り付けられてある。ただ、その穴は吸い込まれそうな漆黒の色をしていた。

遥香は鍵を鍵穴に入れる。カチリと音を立てて鍵穴にはまった。鍵を右に回すと、遥香達のいる部屋全体が揺れ始めた。

そして、シャン!!という音と共に歯車を繋ぐワイヤーたちが切れる。空中で自由になった歯車はクルクル回転して小さな光の粒へと変身した。

無数の光の粒が部屋全体に浮遊し始めた。解き放たれた無数の蛍のような美が遥香に降り注ぐ。

それを楽しむ余裕は遥香になかった。
部屋の揺れは激しくなり、崩れ落ちそうな勢いだった。
「そ、外に出ないと!このままだと危険だ!」
少しずつ天井や壁が崩れ始め、石が上から降ってきていた。

「遥香を危険から守ってくれるシュークリームなの」という母親の言葉を思い出す。
遥香は右手でシュークリームを頭上高く掲げる。

シュークリームが放つ緑の光を頼りに前へと進む。そして、解放された星達はその緑の光を追いかけてくる。

シュークリームは遥香たちと星たちを守ってくれた。大きな岩が何個も落ちてきても、彼らには1つたりとも当たらなかった。

10. 秋の天窓

あたりはすっかり夜になっていた。
酒井がいる場所は木々に囲まれているせいで、はっきり確認できないが近くの東京タワーにもライトが灯っていた。
酒井は上を見る。上に広がるのはただの暗い夜空で、いつものように星は1つもなかった。

「たしか今日は満月だったかな」
せめて月だけでも見ようと、木々の隙間から月を探す。上を向きながら辺りを歩いていると、足が何か硬いものに当たった。
それは錆びた鉄のドアノブだった。ドアノブが地面から突き出ている。

ドアノブ?酒井は好奇心が止められなくて、それに手をかけて右に回し思いっきり引っ張る。

バン!とドアが開いたと思ったら、中からワァー!と声が聞こえる。その声はだんだん大きくなり、遥香たちが外に出てきた。

遥香はゼェゼェと息を吐きながら、その場に座り込む。遥香たちを追ってきた星たちはそのまま夜空に昇っていく。瞬く間に、東京の夜空に無数の星が蘇ってくる。天の川銀河の星空が東京を覆い尽くす。

「綺麗…」遥香も酒井も、ただその言葉しか出てこなかった。その言葉以上の感動を、伝えられる言葉を持っていなかった。

「遥香、大丈夫か?」酒井が手を差し出す。
「大丈夫だよ、ありがと」その手を取って、遥香は立ち上がる。

その日は、秋の夜空だった。
秋の夜空には、秋の天窓と呼ばれる四角い星座がある。その天窓から天使たちが地上を見ていると伝えられている。
その日も、天使たちが遥香たちをしっかりと見下ろしていた。

11. そのことばかり考えてる

朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりは延期されました」と言う。

ある女がそれを聞いて、朝食の準備に取り掛かる。お祝いに少しだけおかずを多めに作る。
世界が救われたことを、
娘が大きなことを達成したことを心から祝した。

遥香は今日も学校へ行く。
そのカバンの中にはシュークリームが入っている。

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この世界を誰が作ったか。
そのことばかり考えてる。
誰もその答えを知らない。
でも、私は知っている。
この世界を誰が作ったか、私は知っている。

この世界を作ったのは北極星だ。
北の夜空で一歩も動かずに大地を見下ろす北極星がこの世界の創始者である。

北極星はこの世界を2つに分けた。
東と西。それぞれ2つの独立した地域。

それぞれ2つの星に統治を任せた。
東を北斗七星、西をオリオン座。
なぜ彼らだったのかは北極星に尋ねるほかはない。

北斗七星もオリオンも同じやり方で統治した。
地上で生きる人間の中から自らの代理人を選び、代わりに統治させた。

北斗七星の代理人を東の者、オリオンの代理人を西の者と言った。
代理人として選ばれた人間は、世界を統治するための力を与えられた。

人間には寿命がある。
代理人が死ねば、また次の代理人を選ぶ。
そうやって歴史は紡がれてきた。

その歴史の中で、大きな野望を持った者が現れる。
「この世界に2人の統治者がいるのは、いささか納得できない。この世界の統治者は1人でよいのではないか」

その人間は東の者だった。
だから北斗七星に自らの想いを伝えた。

「だったらこの世界を滅ぼせばいい。滅した後で自らの王国を作ればいい」北斗七星は彼に伝える。

「どうやって世界を滅ぼせばいいのでしょう?」
北斗七星は少し間を置いてから答える。
「高い塔を立てなさい。できるだけ高い方がいい」
「塔を立ててどうするのですか?」
「その塔を使って星を集めます。できるだけたくさんの星たちを集めます」
「星を集めてどうするのですか?」
「星を集めて大きな時限爆弾を作ります。とてつもなく大きい爆弾です」

こうして東の者と北斗七星は力を合わせ、世界を滅亡させようとする。
西の者とオリオン座はそれを阻止するために立ち上がる。

北極星は一歩も動かずに、それを見守っていた。

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