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【好きになる人はいつも海の向こう〜最終回〜】

一目惚れした彼に会いにフランスへ。ひょんなことから会って2回目は、まさかのイタリア旅行へ発展。今日はついに彼との別れの日。

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朝がきた。

今日は、ずっと来ないで欲しかった「離れ(わかれ)」の日。


旅の間、ずっと繋いでいたあの手も、

笑うとき鼻を触るあの仕草も、

しばらくは会えないんだ。


振り返ってみると、この旅ではずっとずっと笑ってた。

旅に出る相手ってすごく大事で、友達でもなかなか嫌気がさしたり価値観が合わないことが露呈する、それも含めて旅である。


しかし、不思議なことに瑛太とはそれがなかった。


一緒にいるのが楽しくて、目に飛び込むものなんでもおかしくて。

手を繋いで歩いくだけで心が驚くほど踊ってたあの9日間も今日でおしまい。


私たちは、いわゆる「約束」をしなかった。


彼はあと半年、フランスでの留学生活が待っている。

私はまた、日本で会社員に戻る。

8時間の時差と、少し遠い距離と、切ない日々に戻るんだ。

それでも、もしそうでも、

この9日間が人生の中でまばゆく光る、大切で、全力で恋した日々にはかわりない。それだけで、それだけで十分だったんだ。


イタリアの空港に行く途中、彼は嬉しそうに美味しいワインを買っていた。


あの素敵なアパートで飲むんだって。


強く、強く抱き合って。


さよならした。


私は、マスタード12瓶とありったけの思い出と恋心がパンパンに詰まったトランクを転がして、飛行機にのりこんだ。


やばい、もう会いたい。


デジカメを見返し、ほんのり目に涙が浮かんでハンカチを取り出した。


ポトン。


何かが落ちた。

茶色い封筒に、


「瀬菜へ」


と書いてある。


瑛太だ。


開けてみると、可愛いムーミンのキーホルダーだった。


フランスに行ってまもない頃、彼がフィンランドに行ったと言ってたな。

私がムーミンが好きって話したっけ。


後で聞けば、その時のお土産を、私が初めて彼のアパートに行った日に、

そっとカバンに入れておいてくれたみたい。

私は、目の前にいる瑛太に夢中で、全然気がついていなかった。

そのキーホルダーは、

ムーミンが反射板になっていて、そそっかしい私にぴったりだ。

暗い場所でも私を守ってくれる。


彼が9日間ずっと守ってくれていたみたいに。


今すぐ会いたいよ。


余韻に浸る私の飛行機は残酷にも滑走路を全速力で駆け抜けていた。


我に帰ると、


隣に座った2人の日本人の会話が聞こえてくる。


明らかに日本人だが、ずっとずっと英語で会話している。

こんなこと言うと大変失礼だが、

「あたいらめっちゃ英語ペラペラでんねん感」全開の英語だった。


彼女らをエセ外国人と命名しよう。


私は瑛太との思い出に浸りたいのに彼女らの会話が耳に入ってきて全然集中できない。


そんな中、キャビンの方が飲み物を日本語で聞きにきてくれた。

私「りんごジュースください」


ここでも会話が私のセンチメンタルの邪魔をする。


CA「お飲物は何になさいます?」

エセ外国人「セブナッ!プリーズ」

CA「はい?」

エセ「セブナッ!」

CA「はい?」

エセ「セブンアップください(怒り肩)」

CA「ああ!はい、どうぞー!」


(ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ)


お願いやからもうやめてw


その後、安定区域になると、エアフランス特有なのか、ビュッフェスタイルで立食パーティー的なものが機内で行われた。


パリピ達はベルトを外してお酒やおつまみを取りに行き、意中の異性と交流していた。


エセ外国人はここぞとばかりに出向いて、外国人に話しかけていた。


私はホッとして、思い出にふけった。


10時間以上のフライトを終え、

いよいよ後30分で日本へ到着する。


隣にいた瑛太が、エセ外国人に変わってとても寂しいやら切ないやら。


すると、気流の乱れか、機体がかなり揺れた。


私は、旅慣れはしているが飛行機が揺れるのはめちゃくちゃ怖い。

でも、エセ外国人にビビっているのがバレるのはプライドが許さない。


カバンの中でゴソゴソと、カード式お守り「鈴虫寺お守り」を握りしめ、

「無事に着きますように!!」

と願い続けた。


手に汗とお守りを握ったからか、無事、着陸した。


やっぱ鈴虫寺のお守りはすごい!!

ありがとう!

そして、握った手を広げると、

図書カードだった。


鈴虫無関係!!!


自分の馬鹿さ加減に死ぬほど絶望したのは言うまでもない。


でも、こんな話も、瑛太なら笑い飛ばしてくれるだろう。


早く、早く話したい。


無事に着いた連絡を入れると、


彼もまた、事件にあっていた。


帰路の途中で、購入したワインがバックパックの中で割れていて、

持っていたTシャツ全てワインレッドに染まってダンディーになっていた。とのこと。


私たちは、いつものようにゲラゲラ笑い飛ばした。


彼とはその後も何度かskypeや文通をした。


その後、付き合うことも、日本で会う約束も、しなかったが、今でも彼は大切な友達だ。


誕生日の時に気まぐれに連絡して、近況を話すぐらい。


「縁」って、その後付き合ったり、結婚したり、おとぎ話の終わりみたいなものだけじゃなくって、

交わるはずのなかった線が一瞬交差するような、そんなのも「縁」って言うんじゃないかな。


あの頃の自分に、私はとても感謝している。

後先考えず、飛び込んでくれてありがとう。


大切なのは、気持ちにまっすぐに、


フランスへ行ったこと。


9日間、私は、がむしゃらに全力で恋をした。


たとえ、


好きな人が海の向こうにいようとも。



Fin

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