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核心に迫る会話術:クルーシャルカンバセーションとは

例えば職場で、次のような状況に直面したことはありませんか?

  • 重要なプロジェクトの打ち合わせ中、部下との意見が衝突が生じた。

  • 感情的になっている相手に吞まれてしまったメンバーたちが、理性的な判断がつかなくなった。

  • メンバー同士のミスコミュニケーションによって、大きな誤解に発展した。

  • 新しい方針を発表した際、チーム内で言葉にはならない、さざ波のような不満が広がった。

こんな瞬間、投げかける言葉ひとつで、その場の方向性が大きく左右されることがありますね。

■クルーシャルカンバセーションとは

米国のケリー・パターソン、ジョセフ・グレニーらによって、その著書『Crucial Conversations』で唱えられている、コミュニケーションのテクニックです。

この先の方向性を決定づける、キーとなるような会話やコミュニケーションのことを指します。
特に複雑な問題、感情的な問題、または高いリスクを伴う状況でのコミュニケーションにおいて、重要なテクニックです。

■クルーシャルカンバセーションのめざすこと

ただ単に情報を伝えるのではなく、意見の相違を乗り越え、より良い成果や高いレベルの合意を得ることが、この会話の狙いです。

これは「言葉そのもの」以上の深い理解と共感が得られる瞬間を生み出す、関係性やチームのクオリティ向上にとっては、欠かせない要素です。

私たちがビジネスでほしいものは、良い製品やサービスを生むだけではありませんよね。
なぜなら、それらの品質は、生み出す人々との関係性によっても大きく左右されるからです。

職場で生まれる摩擦や誤解によって、プロジェクトに遅延や品質の低下が生じたり、さらには優秀な人材が流出する、といった損失につながることもあります。
ここで、リーダーたちがもし適切なクルーシャルカンバセーションを行うことができれば、こうしたリスクを減少させ、組織全体のシナジーを生むことが可能になります。

■クルーシャルカンバセーションができなくなる要因

  • 強い感情:感情は私たちの目を曇らせる大きな要因です。特に、恐れや強すぎる関心といった感情は、私たちに強いバイアスをかけてしまい、本質的な問題を見えなくしてしまいます。

  • 伝える技量不足:ボキャブラリーが乏しく、聞き方も下手で、ロジックを追えない順序立ての話は、相手の耳に入ってきません。それらはかえって、相手に誤解や不信感を生んでしまいます。

  • 互いの背景の配慮不足:誰もが自分のストーリーや理屈を持ちます。「同じものを見ていても、同じようには感じていない」という理解ができないまま会話を進めても、意図しない対立や摩擦を生んでしまいます。


■重要なのは、「率直さ」

「せっかく議論が落ち着いてきたのに、この発言をしたらまたややこしくなりそうだ」
「私の言い分が否定されたまま、合意に向かっていて面白くない」
という感情は、えてして表に出てきません。
そして、そのまま話し合いは合意に向かい、「みんなで決めた」という結論で結ばれます。

しかし、それは「誰かにとって都合の良い結論」であり、本当に「皆にとって良い結論」には、なっていません。
このまま何かがスタートしても、どこかでその「不満」が「もつれ」となって、足を引っ張ることになったりします。

テクニックの前に重要なのは、「本音」をお互い出し切る率直さです。

■成功させるためのポイント

①ファクトを共有する

まずはなにより「事実」にもとづいた会話から始めることです。
事実といっているのに、「感情」や「理屈」に囚われてしまう人は少なくありません。入り組んだ状況ほど、「見たいように見ている」自分に気づかないのです。
事実やデータに基づくコミュニケーションは、偏見や先入観を排除し、クリアな認識を形成する手助けとなります。

タフな状況になったときほど、冷静さを取り戻すためにも、「まずはファクトを並べよう」ということから始めましょう。
ファクトは、誰にも否定することができないからです。

例えば、
「午前中におこなったプロジェクトの会議で、あなたは一言も発言をしませんでしたね。会議のトピックスのひとつは、あなたのタスクに関係のあることでした」といった具合です。
これらは、すべて「誰もが認める事実」ですから、否定のしようがありません。
リンゴを見て、「ここにリンゴがある」と言ってるだけですから。

②私の理屈や背景を話す

本では、ストーリーという言い方がされていますが、私はそれを「自分の理屈や背景」と言い換えて伝えています。

みずからの優先したい基準や価値判断、どんなことがあってその結論にいたっているのか、などをオープンに共有することで、相手から理解を引き出し、より深い関係性に発展させられます。

例えば、
「私には、あなたがこのプロジェクトにあまり協力的ではないように見えます。この会議をあまり重視していないように思えて、すごく不安になったのですが」
と自分の背景を伝え、
「実際、あなたはどう思ってるでしょうか?」といった言葉で、次のステップへと進みます。

③相手の背景について質問する

聞いているようで聞いていないのが、「なぜ相手はその結論にいたったのか」という、相手側の背景です。
こちら側が見たままの理屈しか持っていない人なんて、実際はそんなにいません。
相手の視点や視点や価値観を理解することで、より協力的で共感的なコミュニケーションが可能となります。

④合意に向かう

こちら側が「あなたが発言したいことを責めたいわけではない」ことを共有し、
相手が「なぜそうしたのか」を共有した、ということは、
双方にとって、認識すべきファクトがたくさん出てきて、判断すべき材料が良いに見つかる、という状態でしょう。

互いに譲歩すべきところ、議論すべきところが見えたところで、合意を形成していくわけです。

一見複雑だったことも、こうして互いがニュートラルに認識できる材料を、どんどんプールしていくという作業を怠ってはいけません。

以上が、ポイントをサマリーにしたものです。

■クルーシャルカンバセーションに必要なスキル

一見、スキルを並べると、じつは平凡です。

  1. 傾聴

  2. 質問

  3. フィードバック

  4. アサーション

しかし、これらが「高度に発揮」される必要があることを、認識しなければなりません。
それぞれを熟知したうえで、ダイナミックに使いこなすことが必要なのです。

機会があれば、このコラムでもケーススタディなどを通して、紹介したいと思います。

また、トレーニングなどについて詳しくは、お気軽にメッセージをください。

このクルーシャルカンバセーションは、さまざまな利害関係が絡み合うタフな状況で、絶妙なバランスを取るための鍵となります。
そのテクニックを磨くことで、チーム・組織の持続的な成長や、革新を支える強固な基盤を築くことができるでしょう。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<今週の箴言>
人に退屈だと思われないようにすることを大切だと思っている人々にかぎって、きまってわれわれを飽きさせる。

ラ・ロシュフコー

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