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2022年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

ウィズ・コロナ時代から、ポスト・コロナ時代へ。数々の大規模ツアーやフェスの復活が象徴的なように、今、各国のライブシーンは、一昨年と昨年の試行錯誤の積み重ねを経て格段に前進し始めている。こと日本においても、2022年は、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」をはじめとした海外アーティストを中心に迎えたフェスや単独の来日公演も次々と復活を果たした。

また、各国で続々とリリースされる作品を聴いていくと、それぞれの世代のアーティストがそれぞれの方法論で新しい音を鳴らし始めていることに気付く。混迷のコロナ禍を経て、いよいよ本格的に2020年代という新しいディケイドが始まる気運を感じる。Z世代アーティストの大躍進を含め、この先のシーンの動向への期待は、日々高まるばかりだ。

今回は、2022年に、僕が特に強く心を震わせられた洋楽10曲をランキング形式で紹介していく。この記事が、あなたが新しい音楽と出会う一つのきっかけとなったら嬉しい。




【10位】
Beabadoobee/Talk

2020年のデビュー作『Fake It Flowers』の時点で、既に彼女が誇るメロディーメーカー&シンガーとしての才能は完全に開花していたが、今年リリースされた2ndアルバム『Beatpia』においては、その2点が前作以上に際立っている。また、独自のフィルターを通して、90年代のグランジ/オルタナティブロックを現代ポップスへと昇華させる方法論は更に洗練されていて、何より今作には、R&Bやボサノバのテイストも加わり、音像がよりカラフルに進化している。単なるノスタルジーとは完全に切り離された境地において、全く新しい自らの空想世界「ビートピア」を創り上げる。その、自由で、軽やかで、そして大胆な音楽的冒険に、強く惹かれた。


【9位】
Yungblud/Don't Feel Like Feeling Sad Today

いよいよコロナ禍が明けようとするタイミングで、全世界的に加速し始めた「ロック復権」の潮流。そのムーブメントを堂々と牽引するような気概を放つYungbludの最新作が、とにかく最高だった。ポップパンクを軸とした上で様々なエッセンスを軽やかに取り入れた作品ではありつつも、痛快な疾走感がアルバム全体に貫かれていて、その溢れ出るようなエネルギーは、ロックが誇るプリミティブな可能性を私たちに思い出させてくれる。今、数々のZ世代のアーティストたちが、それぞれの方法論で新しいロックを鳴らし始めているけれど、これほどまでに直球で爽やかな解放感に満ちた作品は稀だと思う。ここから更なる勢いと多様性を獲得していくであろう新たな「ロック全盛期」は、もう目の前まで来ている。


【8位】
Muse/Compliance

僕にとってMuseとは、壮絶な轟音ギターサウンドによる弩級のカタルシスを教えてくれた大切なバンドで、そんな3人が、脱・ギターサウンドを志向した前作『Simulation Theory』を経由して、再び王道のギターロックへと回帰したことが何よりも嬉しかった。もちろん、作品を重ねるごとに絶え間なく変化/進化を重ねてきたMuseだからこそ、今回の新作『Will Of The People』が単なる原点回帰作になるはずもなく、セルフプロデュースによって生み出された同作のサウンドは、ロックの獰猛さを失わないままに新たな洗練を獲得している。数ある収録曲の中でも、この抑圧の時代に轟く渾身のロックアンセム"Compliance"が特に胸に突き刺さった。


【7位】
Black Midi/Sugar/Tzu

ポスト・ブレグジット・ニューウェイブの潮流を最も象徴するバンドの一つ、Black Midi。彼らから届けられた最新作『Hellfire』は、やはりと言うべきか、今回も最高に狂い散らかしていた。業火のように放たれる無数の音と言葉。過剰な熱量、過激なスピードで暴発していく全10曲39分間の音楽体験。明らかに狂いまくっているのに、しかし今作には一貫して冷めた覚醒感が通底していて、まるで、混沌を突き詰めながらも、同時にその先に待つ洗練を目指しているかのよう。そして最後には、とてつもない境地へと至る。まだチェックしていない人は、騙されたと思ってぜひ聴いてみてほしい。このアルバムは、あなたが今抱いている想像を軽々しく超越していくと思う。


【6位】
Arctic Monkeys/There'd Better Be A Mirrorball

この記事のタイトルにおいてエクスキューズしているように、このランキングは他でもない「僕の」価値観をダイレクトに反映させたパーソナルなものであり、特に今年は「ロック復権」の流れを受けて、ベスト10の中にロック作品を数多く選出している。歪んだギターが轟音で鳴り響くだけでガッツポーズしたくなるような気分ではありつつ、一方で、ロックの更なる「深化」を目指したArctic Monkeysの4年ぶりの新作『The Car』にも強く魅了された。今作は2018年の前作に続き「脱・ギターロック」を志向した作品であり、随所にソウル&ファンクの要素を取り入れたバンドサウンドと豊かなオーケストラサウンドが有機的に溶け合っていく展開が、言葉を失うほどに美しい。シネマティックとも呼ぶべき(まるで『007』シリーズのテーマソングのよう!)、極上の音楽体験をもたらしてくれる至高のアルバムだと思う。


【5位】
Kendrick Lamar/Count Me Out

5年ぶりに届けられた待望の新作『Mr. Morale & The Big Steppers』は、あまりにもシリアスで、そして、かつてないほどに内省的なアルバムだった。今作は、ラッパーとしての成り上がりをテーマとした前半パート「The Big Steppers」を経て、自己セラピーを通して、後半パート「Mr. Morale」へと向かっていく構成となっている。その過程で、自らの心の深淵と向き合い、アメリカの黒人社会で生きる一人の生活者としての傷を打ち明け、そして癒していく。そうした極めてパーソナルにして重厚なテーマをポップ・カルチャー・シーンに向けて表現するために、彼は、フィジカルに直接的に訴えかけてくるようなトラックを求め、また、自身の超絶技巧ラップに更に磨きをかけた。前作『DAMN.』とは性質が大きく異なる作品であるが、いずれにせよ、今これほどまでに圧倒的な気迫と鋭さを兼ねた作品を生み出せるアーティストは、やはり彼の他にいない。


【4位】
Taylor Swift/Anti-Hero

ジャンルの細分化とクロスオーバーが加速的に進んだ反動として、各ジャンルのアーティストたちがポップという究極のテーマを同時に目指し始めた2010年代。そうした多様なポップの時代を牽引し続けてきたTaylor Swiftは、『Red』から10年を経た2022年、コロナ禍の連作『folklore』&『evermore』という深い森を経由して、再び王道のポップ路線へと回帰を果たした。それも、過去一とも呼ぶべき極上のポップフィーリングを放ちながら。何より感動的なのは、過去の作品の焼き直しではなく、30代前半を迎えた現在のリアルな心境をありのままに反映させたポップソング集となっていることだ。アルバムのセールス面においてもライブ動員の面においても鮮やかにキャリアハイを更新し続ける彼女は、今、何度目かの覚醒モードに突入している。向かうところ敵なし、最強だ。


【3位】
The Smile/You Will Never Work In Television

Thom YorkeとJonny Greenwoodが結成した新しいロックバンド、The Smile。本流のRadioheadやソロ活動と一度切り離すことで得た軽やかな自由を存分に謳歌しながら、ギターをかき鳴らすトムの姿が眩しい。SNSで呟かれていた「僕らが再び楽しめることを思い出させてくれた」という言葉は、間違いなく心からの本音なのだろう。もちろん、初のフルアルバム『A Light For Attracting Attention』に収められた楽曲たちは、どれも、Radioheadのギターサウンドを基軸としたナンバーと同じように、変則的なリズム&構成を用いたジャズテイストの強いものではあるのだが(3人目のメンバーとして、UKジャズシーンを代表するドラマーであるTom Skinnerを迎え入れたのは、それ故だ。)、今作に通じる無邪気な快活さは過去の作品群とは比較にならないほど突き抜けている。あらゆるエクスキューズを取っ払って、人と人が直接向き合いながら音を奏でる純粋な歓びや興奮を伝えた同作は、2022年のシーンに風通しの良さを取り戻してくれたと思う。


【2位】
Rina Sawayama/Hold The Girl

「しかるべき愛や謝罪の言葉に恵まれなかったあなたのために歌う」今年のロンドン公演でRina Sawayamaがオーディエンスに投げかけたこの言葉が、彼女がマイクを持ちステージに立つ理由、そして今、国や世代を超えて彼女が圧倒的な支持を集めている理由の、全てなのだと思う。新作、および、リードトラックのタイトルとして冠されている「Hold The Girl」という渾身のメッセージ。それは、「過去の自分を抱きしめてあげてほしい」という切実にして懸命な呼びかけである。その言葉が、アリーナやドームで鳴り響くことを見据えたアンセミックなダンストラック&流麗な歌のメロディの上に重なることで、このメッセージは、かつてないほどの射程の広さを獲得している。そして、それは言うまでもなく、今、この世界のどこかで、孤独や葛藤に苛まれながら生きる人たちに届くように愛の言葉を送るためだ。この現実を蝕む不条理との闘いが続く限り、この歌は、時代のアンセムとして求められ、輝き続けていくのだと思う。


【1位】
The 1975/Happiness

海岸に打ち捨てられた車(Music For Cars)が映ったアルバムジャケットが示唆しているように、The 1975の最新作『Being Funny In A Foreign Language』は、彼らの新章開幕を告げる大きなターニングポイントとなる作品となった。これまでの計4枚のアルバム制作を通した長い旅路を経て辿り着いた今作においては、まず、メロディの書き方が大きく変わっている。あえて一言で言えば、まっすぐにポップを目指すようになった。また同じように、歌詞の書き方も大きく変化していて、一切衒いのない愛の言葉を堂々と歌い届けるようになった。日々の生活の中で、誰もが気軽に口ずさめるようなポップソング。これからの未来を築いていく次世代に向けて鳴らされる肯定と希望のメッセージ。今作におけるこうした大きな変化は、あまりにも感動的で、そして正しいものであると僕は思う。かねてより彼らは、「ROCK & ROLL IS DEAD/GOD BLESS The 1975」と謳っているが、ロックバンドにこの時代を勝ち抜く道が残されているとしたら、それは真正面からポップと向き合うことである。そう彼らは信じているはずで、そして、その確信を今作を通して全力で体現してみせた。あくまでもロックバンドとしての矜持とサウンドスタイルを保ちつつ、同時に、時代のポップと向き合う覚悟を、必然性を、そして可能性を、彼らは私たちに全11曲の輝かしいポップ・アンセムを通して教えてくれた。それが、2020年代を生きる一人のロックリスナーとして、何よりも嬉しく、勇気付けられる思いがした。まだまだロックは死なないし、それを証明し続けていくバンドこそがThe 1975であると、改めて強く思う。


2022年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】The 1975/Happiness
【2位】Rina Sawayama/Hold The Girl
【3位】The Smile/You Will Never Work In Television
【4位】Taylor Swift/Anti-Hero
【5位】Kendrick Lamar/Count Me Out
【6位】Arctic Monkeys/There'd Better Be A Mirrorball
【7位】Black Midi/Sugar/Tzu
【8位】Muse/Compliance
【9位】Yungblud/Don't Feel Like Feeling Sad Today
【10位】Beabadoobee/Talk



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