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《こんな魔法のような夜に 君と一緒で良かった》 BUMP OF CHICKEN、「ホームシック衛星2024」最終公演を振り返る。

【4/25(木) BUMP OF CHICKEN @ 有明アリーナ】

2008年に開催されたツアー「ホームシック衛星」。そのリバイバルツアー「ホームシック衛星2024」が、2月から4月にかけて開催された。その開催の裏には、少しだけ複雑な経緯と、メンバー4人にとっての切実な想いがあった。

順を追って整理していくと、まず、2007年、メンバー全員が28歳になる年に、5枚目のアルバム『orbital period』がリリースされる。遡ると、藤原基央は、自分が28歳の誕生日を迎えるタイミングで、「特定の日の曜日がその28年後の同じ日に同じ曜日になる」という事実に気付いた。「今自分は自分の人生における、とある一つの周期の『一周目の終わり』と『二周目の始まり』の節目の瞬間にいるんだ」という気付きは、2007年にそれぞれが28歳の誕生日を迎える他のメンバー3人との間で共有され、そして彼らの中で、藤原の言葉で言う「形容し難い興奮と感動」が生まれたという。(経緯の詳細は、バンドのホームページの中で語られている。)そして、その年にリリースされるアルバムに、惑星が恒星の周りを周期的に回ること、つまり公転に準えて、「orbital period=公転周期」というタイトルが付けられた。アルバム『orbital period』をリリースした当時のインタビューの中で、藤原はこのように語っていた。

漠然とはしてるんですけど、確実に揺るぎない事実を否が応でも叩きつけられた感じがありました。28年なんだな、って。4人で28年、同時なんだな、みたいな。それは.........なんかこう、否定しようのない事実でしたね。圧倒的な事実だった。

「bridge」(vol.55 WINTER 2008)

まず1個、信じられるものの最低条件として、無限であってはいけないってのがあります、僕ん中で。だから時間は信用できない。orbital periodって周期ってことで、 28年周期になってひとつの区切りがあったおかげですごく信用できた。冒頭の話につながりますけど。だから感動があったんだと思う。自分たちの歩んできた歴史を信じることができた。人間は不老不死じゃないから人間なんだと思いますね。だから信じられるものの最低条件として、限界があるもの。終わりがあるもの。物語もそうだし。ものでもそうでしよ。コップとか大事にしてたとしたら、割ったらおしまいだし。割らなくたってね、何万年も(笑)何十万年も、どんぐらいで風化するか分からんけど、いつか絶対崩れていくし。最低条件としてそれがあります。

「ROCKIN'ON JAPAN」(2008年2月号)

当時のインタビューの言葉を紐解いていくと、28年という具体的な数字そのものというよりは、一つの周期を迎えたという事実にこそ意味がある、ということが分かる。他の人にとっては些細なことかもしれないが、メンバー4人の中では「形容し難い興奮と感動」が生まれ、いつしか「公転周期/28年周期」という概念は彼らにとってとても大切なものになった。そして、その概念を色濃く背負ったアルバム『orbital period』を携え、2008年にスタートしたツアーが「ホームシック衛星」であり、あれから16年の時を経た2024年、同ツアーのリバイバルツアーが開催された。2024年は、バンド結成28周年を迎える年、つまり、BUMP OF CHICKENそのものが28歳を迎えた年である。4人でバンドを続けてきた必然として、このタイミングで、次はメンバー個々人ではなくバンドにとっての一つの周期が巡ってきたのだ。今回、彼らにとって初のリバイバルツアー「ホームシック衛星2024」を開催するに至った経緯について、藤原はこう語っている。

その時に、ふと思ったんですよね。「もうすぐ28周年か......あ、28か! しかもそうだ、この”メーデー”が入ったアルバムだよ」って。それで、「ホームシック衛星」をやるのはどうだろうかって話をみんなにしてみたら、「すげえいいじゃん! やろう」ってなったんです。僕たちはBUMP OFCHICKENだから、やるんです、28周年。僕たち以外の誰ひとりとして BUMP OF CHICKENのメンバーになったことがないからわかんないだろうけど、BUMP OF CHICKENのメンバーになったことがあるやつだったら、28周年、そんなのやんなきゃダメでしょって。そこでそういうテンションになれないやつはいないんです、やっぱり(笑)。そういうバンドなんです。

「ROCKIN'ON JAPAN」(2024年2月号)


前置きが非常に長くなったが、今回の「ホームシック衛星2024」は、4人にとってとてもパーソナルで切実な理由をもって開催されたものである、という大切な前提を押さえておくことができたのではないかと思う。ここから、バンド結成記念日の2月11日から幕を開けた同ツアーの最終公演について振り返っていく。

まず、ライブ全編を通して、不変の輝きを眩く放ち続ける『orbital period』の楽曲たちに強く心を震わせられた。短い言葉で表すのがとても難しいが、『orbital period』というアルバムは、「音楽とはコミュニケーションである」という深い確信が全編に滲む作品だった。例えば、”ひとりごと”は優しさについて、”飴玉の唄”は信じることについて、”カルマ”は生まれてくることについて、リスナーに向けて懸命に問いかけ、必死に語りかけてくる曲で、その意味で、このアルバムには決して軽く聴き流すことのできない切迫感や重みがある。一人でアルバムを聴いている時は、深い内省、つまり、自分自身とのコミュニケーションを促されるような感覚を覚えるが、しかし、ライブの会場で『orbital period』の楽曲を受け取る体験は、それとは似て非なるものであるように感じる。言うなれば、大切な過去曲を目印に待ち合わせて、出会う/再会することができたリスナーに向けて、その一人ひとりの存在を無防備なまでに信じ抜くBUMPの4人が、懸命に問いかけ、必死に語りかけてくるかのよう。音楽の送り手であるBUMPと、受け手の観客による対話、その純度と深度を極限まで高め続ける、そうした切実な気迫を全編から感じるライブだった。

「誰か」ではない、「みんな」ではない。目の前の一人ひとりの「君」へ向けた4人の想い、その揺るぎなさと深さに、この一夜を通して幾度となく触れることができた。オープニングを担ったのは、”星の鳥”から連なる形で披露された”メーデー”。藤原は、《寂しさを知った時に 今ここで出会えたんだ》と歌詞を替えて「君」と出会えたことの歓びを伝え、ドラムソロパートでは「ハロー、有明。応答願ウ!」「君を探してた4人組だ、俺たちがBUMP OF CHICKENだ、会いたかったぜ!」と渾身の力で叫び上げた。そして、ラストサビでは、《再び呼吸をする時は 絶対一緒に》と歌詞を替えて歌い、深く揺るがぬ想いを余すことなく伝えていく。なんてドラマチックな幕開けだろう。

中盤のハイライトを担ったのは、”ひとりごと”からの連なりで届けられた”花の名”だった。藤原は、ライブが始まったことと、やがてライブは終わってしまうことは同義であるという切ない事実を深く噛み締めながら、まるで、即興で綴った手紙を読み上げるようにしてこの曲を歌い上げた。1番では、《一緒にいた事は忘れない》を《一緒に歌った今を忘れない》へ。《あなただけに 聴こえる唄がある》を《あなたとだけ 繋げる唄がある》へ。2番では、《僕がここに置く唄は あなたと置いた証拠で》を《僕が今日置く唄は あなたを見つけた証拠で》へ。《生きる力を借りたから 生きている内に返さなきゃ》を《歌う力をくれたから 今夜の内に唄にするよ》へ。サビの最後を《あなただけを 目指してここにいた》《あなただけを 探してここにいる》へ。ラストのサビでは、《いつか涙や笑顔を忘れた時だけ 思い出してください》を《いつか涙や笑顔を忘れた時には 必ず隣にいるよ》へ。そして最後は、《迷わず一つを 選んだあなただけに 聴こえる唄がある あなただけに聴こえる声がある あなただけに聴こえる音がある あなたとだけ掴める音がある》と「あなた」への想いを何度も繰り返して歌い届ける。もともとライブで歌詞のアレンジが施されることが多い曲ではあるが、歴代のライブの中でもこれほどまでに歌詞が替わるのは稀である。つまり今回は、藤原の、そして4人の中に、それほどまでに熱く、深い想いがみなぎっていたということなのだと思う。

そして、そうした並々ならぬ想いの爆発は、まだまだ続く。”真っ赤な空を見ただろうか”では、《そんな心馬鹿正直に 話すことを馬鹿にしないで》を《そんな心馬鹿正直に 話せるあなたに会いにきたよ》と替えて歌い、《だからせめて続けたい 続ける意味さえ解らない》を、会場の観客を指差しながら《だからせめて続けたい 続ける意味ならそこにいる》と歌う。”望遠のマーチ”では、《いこうよ いこうよ その声頼りに 探すから 見つけてほしい》の末尾を《見つけてくれ》と高らかに叫び上げ、”ray”のラストサビ前では、「さぁ、せっかく会えたんだ、君の声を聴かせてくれ!」と力強く呼びかけ、それに応える形で《生きるのは最高だ》の大合唱が巻き起こる。”fire sigh”のアウトロにおける温かな大合唱も本当に感動的だった。

本編終盤の”カルマ”では、《必ず僕らは出会うだろう》という希望へ満ちた結論へと力強く向かっていき、そして、今回のツアーならではの特別なハイライトとなった”voyager,flyby”(「voyager」と「flyby」を繋ぎ合わせた新曲)では、《キットマタ巡リ会エルト心ノ奥ガ信ジテル》と再会を確信する力強い言葉が送り届けられる。アンコールのラストを飾ったのは、”流星群”。《真っ直ぐな道で迷った時は それでも行かなきゃいけない時は 僕の見たかった 欲しかった 全部が 君の中にあるんだよ》の末尾を《全部を 君の中に探す 見るんだよ》と替えて歌い、その後のアウトロでは、《こんな魔法のような夜に 君と一緒で良かった》というサビのフレーズを繰り返し歌い上げる。音楽を目印にしてライブの場で出会うことができた歓び、同じ時間・空間を共にできたことの感動、いつか再会する日がきっと来ることを伝える晴れやかな予感。そうした熱く、温かな余韻が、いつまでも胸の中で残り続けている。


藤原は、ステージを立ち去る前の最後のMCで、胸の内の感慨の全てを余すことなくまっすぐに語った。『orbital period』の収録曲の多くがそうであるように、古い曲は、日々新しい曲が生み出されていくことによって、居場所を少しずつ奪われていく。それでも、その中に、未来まで連れていってもらえる曲もある。それは、藤原いわく、「聴いた人に大事にしてもらえる音楽」であるという。また、古い曲が新しい輝きを放つことができる今回のようなツアーを開催できたのは、その輝きを大切に受け止めてくれる「君」のおかげであるという。「君の生きている時代にいられて幸せです。」「君がいる世界がここにあって本当によかった。」「生まれてきてくれてありがとう。」そして、4人の個人的な「形容し難い興奮と感動」から始まった今回のツアーを終えた感慨について、「一緒に大事にしてくれて、バンドのメンバーがいっぱい増えた気分だった。」と言い表した。そのMCの言葉を聞いて、かつて藤原が、『orbital period』リリース時のインタビューで語っていたことを思い出した。

世の中の全ての音楽は聴かれるために生まれてきたんですね。絶対そうなんですね、これは。だからね、きっと聴いてもらえて完成っていうか、その感覚がすげぇ強いんですよ。これはだから一緒にレコーディングしてるメンバーとかにとっては、中には異論を捉える人もいるかもしれないです。「いやいや、俺たちがここで完成さしてなんぼでしょ」みたいなのもあるかもしれないし。だからこれはなんの責任も取れないけど、俺はほんとにそう思ってる。だからライヴの時にお客さんが必要なんだと思うし。だからアルバム聴いて下さいって気持ちが強いんだと思う。リスナーはひとつのプレイヤーであり、だから人それぞれのスタイルがあり、得意ジャンルもアリっていう。だからそういういろいろな、そういう感想とか解釈があるわけでしょ。僕らの曲聴きたいって思ってくれる人がいるっていうことは、バンドのメンバーみたいな気持ちになってしまいますよね、その相手のことをね。そういうふうに思ってしまいますよね。

「ROCKIN'ON JAPAN」(2008年2月号)

BUMPのリスナーに対するメッセージ、スタンスは、やはり徹底的に一貫している。改めて、そう強く感じた。今回のライブの最後、藤原は、次に28年周期が巡ってくる頃には自分たちは70歳を超えている、という話の後に、「くそじじいになっても、例えキーを下げても、あんまかっこつかなくても、それでも君に会いたい。」と告げた。流れゆく時の中で、BUMPのメンバーも、一人ひとりのリスナーも、きっと否応もなく変わっていく。それでも、その中に変わらないものがきっとある。温かく豊かな実感をもって、そう信じさせてくれるような、あまりにも感動的な幕締めだった。

結成28周年を迎え、新しい周期へと突入したBUMP OF CHICKENは、きっとこれからも周回軌道上を周り続ける中において、これまで大切にし続けてきたものから決して離れることのないまま歩みを続け、同時に、新しい進化を重ね続けていくのだと思う。今回の初のリバイバルツアーを終えた彼らの次のアクションは、約5年ぶりのニューアルバム『Iris』のリリース、そして、ドームツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2024 Sphery Rendezvous」の開催だ。期待して、その時を待ちたい。



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