見出し画像

《今君が"そこ"にいることを 僕は忘れないから》 BUMP OF CHICKEN、「be there」ツアーファイナル公演を振り返る。

【5/28(日) BUMP OF CHICKEN @ さいたまスーパーアリーナ】

BUMP OF CHICKENにとって、そして僕たち一人ひとりのリスナーにとって、ライブとは何か。先に結論から書いてしまえば、この日の公演は、その問いに対する確信をお互いに深め合うような、あまりにも輝かしい時間・空間となった。

僕自身、今まで数え切れないほどBUMPのライブを観てきたけれど、その本質が、これほどまでに深く鮮やかに浮き彫りになったのは、今回のツアーが初めてだったかもしれない。もちろん、昨年7月に敢行された約2年8ヶ月ぶりの有観客ライブも、コロナ禍を経て4人と僕たちがついに再会を果たすことができたという意味において非常に感動的な公演であった。その翌月の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022」のステージも、年末のライブハウスツアーのステージも、長きにわたるコロナ禍で失われてしまった出会いや再会の機会を懸命に取り戻すような、とても特別な意義を持つ公演であったと思う。昨年、僕はその3つのステージを通して、いかにBUMPのライブが大切にして切実なものであるかを、豊かな実感を通して確かに感じ取った。

それでもやはり、ついに声出しが全面解禁された今回の全国ツアー「be there」は、あまりにも格別なものであった。昨年末、今回のツアータイトルが「be there」であると発表された時、このツアーは間違いなく、BUMPのライブ史において非常に意義深いものになると予感した。そして、実際にツアーファイナル公演を観て、それは揺るぎない確信へと変わった。前置きが長くなってしまったが、今回は、あの夜に起きた出来事を一つずつ振り返っていきたい。



今回のライブは、会場の中央にセッティングされた小型ステージから幕を開けた。きっと、少しでも近くに観客一人ひとりの存在を感じ取りたかったのだろう。こうしたライブ冒頭における驚きの展開からも、改めて「be there」というツアータイトルに込められたメンバー4人の深い想いが伝わってくる。

1曲目は、コロナ禍にリリースされた楽曲の一つ"アカシア"だ。昨年のライブにおいても必ず披露されていた楽曲ではあるが、その上に観客の声が重なるのは今回のツアーが初めてである。ついに成立した熱烈なコール&レスポンス。4人も僕たちも、この曲がリリースされた時から、ずっとこの時を待ち望み続けていた。曲中、藤原基央は、「声出していいんだぜ。だから聴かせてくれ、埼玉! 君に会えた証拠をさ!」と高らかに叫び、その呼びかけを受け、一人ひとりの観客の歌声の熱量がさらに高まっていく。圧巻のオープニングだ。

"天体観測"では、昨年は「空席」として空けられていたコール&レスポンスのパートに、ついに観客の声が重なり、その瞬間、フロア全体が明るく照らし出され、そして勢いよく銀テープが発射された。そうした演出は、まさに観客こそがこの日の主役であることを謳っているかのようであった。藤原は、曲のラストの《君と二人追いかけている》のパートでマイクをフロアに託し、そして観客は渾身の大合唱で応えていく。まだライブは始まったばかりであるにもかかわらず、まるでクライマックスのような高揚感が会場全体を満たしていく。

前方のステージへと移動した後、藤原は、「ライブに、君の声が帰ってきたんです。」「もっともっと求めると思いますよ。欲しがると思いますよ。存分に応えてくださいね。」と胸の内で昂る想いを伝えた。"アカシア"の途中でも叫んでいたように、一人ひとりの声とは、つまり「君に会えた証拠」である。そして、4人と僕たちにとってのライブとは、一つひとつの音楽を通して、その輝かしい実感をお互いに深く噛み締め合う時間・空間である。それは、これまでもずっと一貫していた共通認識であったが、コロナ禍を経て、その確信がさらに深まったのは間違いないだろう。いつにも増して、観客とのカジュアルなコミュニケーションを重ねる4人の姿からも、今この瞬間、同じ時間・空間を共にすることの歓びが存分に伝わってきた。


この後も、BUMPのライブの真髄を凝縮したような温かくも熾烈な展開が続いていく。新旧の楽曲が、「be there」という一つの大きなテーマのもとに次々と紡がれていく中で、僕たちは、メンバーたちが胸に抱く《君》への想いの深さを何度も繰り返して感じ取ることができた。"クロノスタシス"では、モダンなエレクトロサウンドに乗せて《いつか君に伝えたいことがあるだろう》と切実な想いを歌い届け、"Small world"では、深く心に沁み入るような温かなメロディと共に《君を見つけて  見つけてもらった僕は/僕でよかった》という揺るぎない確信を共有する。また、"魔法の料理 〜君から君へ〜"では、2番サビ前の歌詞を《僕らが音を出したら  聴いてくれるような》と替えて歌い、ラストにおいても《こんな風に  僕と説くのかな》と替えて歌うことで、同じ時間・空間を共にする実感を改めて深めていく。

一人ひとりの《君》がいるから、それが新しい音楽を生み出す理由になる。こうして《君》がライブ会場に足を運んでくれるから、それが新しくツアーを周る理由になる。BUMPの活動原理は、昔も今もずっと変わらない。そしてだからこそ彼らは、こうして《君》と出会えた今この瞬間の大切さを、誰よりも深く理解している。僕たちは、自分とは異なる人生を生きる他者の昨日を知ることはできないし、また、明日も今日と同じように一緒にいられる絶対的な保証はどこにもない。だからこそ、今この瞬間が切ない輝きを放つことを、この日も4人は、いくつもの楽曲を通して僕たちに教えてくれた。

中央ステージで披露した"新世界"では、《昨日が愛しくなったのは  そこにいたからなんだよ》というパートを《"ここ"にいたからなんだよ》と替えて歌い、"SOUVENIR"では、《どこからどんな旅をして/見つけ合う事が出来たの/あなたの昨日も明日も知らないまま/帰り道》と、今こうしてお互いを見つけ合えたことの輝かしい意義を伝える。そして"Gravity"では、《今日が明日  昨日になって  誰かが忘れたって/今君がここにいる事を  僕は忘れないから》というサビの一節の最後を《今君が"そこ"にいることを  僕は忘れないから》と替えて歌った。これまで繰り返して聴き続けてきた歌たちに、ライブ特有の切なさが添えられていく展開に、思わず何度も胸が熱くなる。


そしてついに、今回のツアーの途中からセットリストに加わった新曲"窓の中から"が披露された。僕たちは誰しも、本質的に孤独である。それでも、一人ひとりがそれぞれの心の窓の中から、音楽を通してお互いを見つけ合うことができる。この《同じように一人で叫ぶあなたと  確かに見つけた  自分の唄》は、まさに、かつてないほどに高い精度でポップ・ミュージックの本質を射抜いた渾身の楽曲であり、またこの曲は、ライブの場において一人ひとりの観客の声が重なることで初めて真価を放つナンバーであるとも言える。藤原が歌う主旋律に、そしていくつものコーラスラインに、数え切れない声が重なっていく。その圧巻の光景を前にした時、かつてないほどの無類の感動が押し寄せてきた。

《ああ  君と出会えて良かった/きっとずっと出会いたかった/ほんの一瞬だけだろうと/今  今  重ねた声》

《これからの世界は全部/ここからの続きだから/一人で多分大丈夫/昨日  明日  飛び越える声》

《ああ  もっと話せば良かった/言葉じゃなくたって良かった/すれ違っただけだろうと/今  今  重ねた声》

ライブが終わってしまったら、僕たちはそれぞれの日常へと戻っていく。それでも、豊かな音楽的コミュニケーションを通して得た《一人で多分大丈夫》という温かな確信を胸に、その先に続いていく自分だけの人生を力強く生きていくことができる。"窓の中から"のパフォーマンスを通して、そうしたポップ・ミュージックの眩い可能性を感じたのは、きっと僕だけではないと思う。約6分半にわたる超大作である同曲を披露し終えた後、藤原は、「この曲、書いて良かった。」と胸の内の想いを伝えた。今回のツアーにおけるライブパフォーマンスを通して、メンバーが得た手応えは相当に大きかったはずで、今後この曲が、"ray"と並ぶ新たなライブアンセムの一つになっていくことは間違いないと思う。


いよいよライブはクライマックスへ。"HAPPY"では、藤原が「さぁ、君が、君の声で、君に言うんだよ、俺が手伝うからよ!」と叫び、壮大な《Happy Birthday》の大合唱が巻き起こる。一人ひとりの《君》が生まれてきたことを、今こうして生きていることを鮮やかに祝福してみせたこの曲は、"窓の中から"に並び、終盤における感動的なハイライトの一つとなった。そして"ray"では、藤原の「君の声を聴かせてくれ!」という力強い呼びかけを受け、一人ひとりの観客が《生きるのは最高だ》と高らかに歌い上げ、本編ラストの"supernova"では、藤原は《忘れたくないんだ  君と歌った今だけは》と歌詞を替えて歌うことで、この日のライブが終わりへ向かっていく切なさを共有していく。

アンコール1曲目の"embrace"では、ラストを《生きてることに気付けただけ/生きてる君に出会えただけ》と替えて歌い、続く"ガラスのブルース"では、《あぁ  僕の前に  暗闇が/立ち込めても/あぁ 君と今も  精一杯  唄を歌う》《君を探す》と歌詞を替えながら、胸の内の想いを全て振り絞るような渾身の歌声を届けた。「君がいることが、歌う理由になる。27年、ここまで来たのは、君の存在があったからです。本当にどうもありがとう。」最後に藤原は、メンバー4人の総意を伝え、そしてラストの1曲として"宇宙飛行士への手紙"を歌い始めた。次第に重なっていく升秀夫のドラム、そして、増川弘明のギターと直井由文のベース。広大なスケールを誇るバンドサウンドに乗せて、藤原は《そしていつか星になって  また一人になるから/笑い合った  過去がずっと  未来まで守ってくれるから》というサビの一節の後半を、《笑い合った  "今日"がずっと  未来まで守ってくれるから》と替えて歌い、この日のライブは美しい大団円を迎えた。

BUMP OF CHICKENにとって、そして僕たち一人ひとりのリスナーにとって、ライブとは何か。あの日、あの時、あの会場にいた誰しもが、その答えを、温かく豊かな実感と共に確かに感じ取ったのではないかと思う。そしてそれは、きっとメンバー4人も同じで、今回のツアーを通して今まで以上に深まったリスナーとの信頼は、間違いなく次の制作活動にポジティブな形で還元されていくはずだ。このツアーにおける《君》との出会いや再会を糧に、これから4人は、また新たな音楽を作り始めていく。やがてリリースされるであろう新作アルバムへの期待が高まる。







【関連記事】

●ライブレポート

●ディスクレビュー

"クロノスタシス"

"SOUVENIR"

”窓の中から”


いいなと思ったら応援しよう!

松本 侃士
最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。 これからも引き続き、「音楽」と「映画」を「言葉」にして綴っていきます。共感してくださった方は、フォロー/サポートをして頂けたら嬉しいです。 もしサポートを頂けた場合は、新しく「言葉」を綴ることで、全力でご期待に応えていきます。