《エピソード7・1人の死と人殺しという呪縛》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。
1人の死と人殺しという呪縛
S子は高校卒業を間近にしていた。僕との関係は何度も繰り返し別れるくらい浅く、それでもまた元に戻るくらい深く、関係は切れずにいた。家を飛び出していた僕はS子の家に居候することになる。S子の母は病気で入院していた。癌の進行は止まることなく悪化していく一方だった。そんなある日、車で出かけていたS子と僕に一本の電話がかかってきたんだ・・・
会えずに会った最期の時
「もしもし、何?」
ぶっきらぼうに電話に出たS子。着信の相手が憎む父親だということは声色でわかった。と同時に、S子の表情がみるみるうちに曇り始める。
「わかった。すぐ戻る」
そう言って電話を切ると、S子は泣きながらすぐに病院に向かうように僕に言った。母親は危篤だった。東京駅そばで車を走らせていた昼過ぎ。病院までは相当な時間がかかりそうだった。
病院に着いた僕とS子。僕の立場は彼氏とはいえ自慢できるような生き方なんかしていなくて、親族の中には堂々と入っていけない。気持ちを抑え切れず急ぐS子とは真逆で、病室に向かう僕の足取りはどうしても遅くなっていた。
S子の弟の泣き声が病室から聞こえてきた。母親はS子の到着を待たずに息を引き取っていた。
最愛の母の死
足取りは遅くとも追いかけなきゃいけなかった僕も、S子に少し遅れて病室へ入った。どうしようもない生き方をしていた僕をS子の彼として迎え入れてくれたS子のママ。一緒にカラオケに行ったり、ご飯食べたり。僕がS子の家で熱を出した時は家まで送ってくれたり。荒れくれた日々の中にも少しの温かさを感じさせてくれたママは、もう言葉を発することなく温かさの余韻を残して二度と覚めない眠りについていた。僕は親族が集まる場所から少し離れた部屋の隅にいた。他人の母親なのに、なぜか涙が流れた。
S子にとっては1番の理解者だった母。芸能に憧れていたS子を応援してくれて、いつもそばにいてくれた。そんな母親の生前に間に合わなかったことに後悔があったのかもしれない。泣く弟を抱き寄せながら、涙を流さずに泣いていた。父親との関係が悪かったS子には親と呼べる人がいなくなる瞬間だった。
隅にいた僕は見えない責任に押しつぶされそうになる。いや、もう押しつぶされていたに違いない。死の悲しみを超えて自分勝手に自分のことしか考えていなかった僕は、S子のこれからに寄り添える自信がなかったから。人を傷つけるような上辺だけの優しさしか僕にはなかった。そんな錆びついたナイフのような優しさでは到底S子を守れなんかしない。
悲しみと同時に逃げたい気持ちでいっぱいだった。
そして僕は1人の人間を殺す
時は経つ。どんなに悲しい出来事があったとしても、時間は無情にも時を進め、ものや景色、人でさえも形を変える。S子と僕は母親の死を境にして依存度が高まった反面、喧嘩も増えていった。僕とS子はまた別れを告げあった。もう付き合ってから何回目だっただろう。
そんな何ヶ月か後にS子から着信があった。お互い忘れられず、手放すことができないでいるがゆえに番号やアドレスは消せずにいたんだと思う。
久しぶりのS子からの電話に、緊張と説明できない不安のようなものが入り混じっていた。
「もしもし・・・」
電話に出るとS子は静かに言った。
「もしもし・・・。妊娠した・・・」
「えっ?」
僕は聞こえていたはずなのにもう一度聞き直した。何度聞いても答えは一緒だった。
S子は僕の子供を妊娠していた。状況をうまく把握できない僕は、何も考えられずに呆然とする。その時借金は1000万近くまで膨れ上がっていた22歳。
うまくその場を切り替えせず、
「ちょっと考えさせて」という空洞化した言葉を投げかけて電話を切った。それでも僕の中には「人を1人殺さなきゃいけない」という思いでいっぱいだった。僕に子供を育てる自信があるわけがなかったんだ。借金を背負い、夢も希望もない、やる気も自信も何もないただのクズのようなヤツに子供とS子を守れるわけがないじゃないか・・。
続きはまた・・
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