ep.6 先生。
僕に師匠はいない。師匠ではないけれど先生はいる。
僕くらいの世代のカメラマンにとって、業界の入り方として弟子入りやアシスタントは割とポピュラーだ。プロフィールに「写真家の○○氏に師事」て書いてある人も多い。僕は事情があって弟子やアシスタントをする余裕がなかったけれど、その代わりに写真塾に通った。
その先生との出会いは出版社を辞めてからお世話になったフォトエージェンシーでのことだった。先生は月に1度か2度、会社にやってきた。
「おう、元気か? そうか元気か、良かった良かった」
社員に声をかけながらやってくると、みんなが手を止めて挨拶をする。社長まで席をたって「先生」とこうべを垂れる。それをみて僕は思った。
「な、何者だ、このひと!?」
先生は写真界では知らない人がいないくらいの超有名な写真家だった。
当時、僕の最大の悩みは答えがわからないことだった。今、自分が撮っている写真が正しいのだろうか、、と出口の見えない迷路に入り込んでいた。だから藁にもすがる思いで、機会があれば色々な人に写真を見てもらっていた。しかし、友達や身内の意見だと素直に聞けないことも多い。そんなとき先生が写真塾を開講すると聞き、入塾を決意した。
いつも捻くれた写真を提出していた僕はある日の授業でこうアドバイスされた。
先「タカスくんはズバッとストレートな写真を撮ったほうが良いゾ」
それならばと自分的にかなり正直な写真(トップ画)を提出した。
僕「ど真ん中のまっすぐなイメージですっ」
先「写真の教科書に載りそうな写真だなぁ。面白いか、これ?」
僕「(えーーー!)先生がストレートにって仰った、、んですよ、、」
先「お? そんなこと言ったかぁ?笑」
失礼を承知で言ってしまえば、当時、先生のことは気さくなお父さんと思っていた。かなりフランクに接してくださったこともあるけれど、実父と同い年だと後に知ってなんとなく納得した。
しかし、ある日を境にその見方が一変した。それは僕がカメラマンとして独立して少し経った頃の話だ。先生が過去の作品を中心とした個展を開催したのだ。
僕は驚愕した。その前年に初の個展を開催していたのだけれど、そのとき柱とした作品のコンセプトやアイデアがほとんどすべて、そこにあったのだ。渾身の作品として発表したつもりだったけれど、20年前にすでに撮られていたと気がついたときの衝撃は、、。
「先生、凄いっっ」
この日から僕のお辞儀はそれまでより少し深くなった。
最後に授業で一番印象に残っているエピソードをご紹介したい。
先生がよく話していたことがある。それは写真家としての生き方について。
「写真家の財産は作品だけだぞ」
当時はピンと来なかったし「それは先生だからですよ、、」とすら思っていた。でもその言葉はずっと心の中にあって、今も息づいている。「写真家にとっての財産」を考えたときにそれは「作品」という考え方はひとつの正解だと思っている。
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