見出し画像

ep.12 代表作。

「カメラマンには代表作が必要だ」と教えてくれたのはN山さんだった。N山さんは僕ら世代のサッカー好きなら絶対に見たことがあるNumberの表紙「We did it !」を撮った人だ。

「代表作ってちょっと大げさなんじゃ?」と思っていたけれど、今になって思うとこの写真が僕にとっての最初の代表作になった。荒川静香さんのバタフライ。2005年6月に撮ったこの一枚によって、僕のカメラマン人生は一気に動き始めた。

この写真は「VS.(バーサス)」というスポーツ総合誌に掲載されたのだけれど、掲載までの道のりは険しかった。S原さんに紹介された雑誌は2つあって、そのうちの1つがバーサスだった。対応してくれたのがN山さんだ。

「いい写真なら誰の写真でも掲載する巻頭ページを用意しているから送ってきてよ」と言われたので、僕は月末になると撮りためた写真を送った。

ところが現実はそんなに甘くなくて、不採用の日々が続いた。最初は簡単な感想が添えられた返信もあったけれど、途中からはそれすら途絶えがちになっていた。

「カメラ小僧が調子に乗って写真送ってきてるよw」

きっとそんなふうに思っているんだろうな。相手は有名カメラマンだし、大手出版社だから僕のことなんて初めから相手にしていなかったんだろう、、、写真を送り始めて半年あたりで、僕の脳内は被害妄想に蝕まれていた。

そんな僕を救ってくれた言葉がある。

「焦るな。腐るな。諦めるな」

この言葉がなかったら僕は写真を諦めていたかも知れない。そして、再び写真を送り続けて半年たったある日、見覚えのない番号からの着信があった。

僕「もしもし?」
編「バーサス編集部のH原です」
僕「あー、はいご無沙汰しています」
編「今朝送ってもらった写真、採用になったので、、、、」

このあとH原さんは掲載に必要な情報を送るように言っていたと思うけれど、もう僕の耳には届いていなかった。

勤務中だった僕は非常口にむかって走りはじめた。たぶんスキップしていたと思う。そして、誰もいない非常階段の踊り場に着くなり小躍りした。人間はどうしようもなく嬉しくなると小躍りするものだと知った。

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

スポーツ写真のオンラインサロン始めました。
写真について語り合いましょう。
ご興味のある方はこちらをご参照ください。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?