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久々に再開した人生の好奇心

妻は言う。「サーフィンのために朝4時でも目覚まし1回で起きられるなら、毎日永遠とスヌーズを鳴らし続けるのをホントにやめて欲しい」

たしかに、やりたいと自分から強く思うことは、眠気や食欲を差し置いて前に出てくる。この感覚、小学校時代のサッカーがまさにそれだった。

僕は5歳からサッカーを始めた。小学生の頃、毎日ボールを蹴るのが楽しみで、週末の試合前日はワクワクして眠れない程だったのを良く覚えている。週末の天気予報が雨だと、テルテル坊主を作って晴れを祈ったりもしていた。

そんな大好きだったサッカーへの好奇心は、人生のある転機とともに少しずつ消え去っていき、かわりに義務感やプレッシャーに飲み込まれていった。

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小学5年生の秋、僕はよみうりランドの裏側にある、東京ヴェルディ1969の練習場にいた。目的は『週刊サッカーダイジェスト』のモノクロページで見つけた「ヴェルディジュニア・小学5年生のセレクション」に参加するためだった。

セレクションが始まると、ヴェルディジュニアのスタッフがグループを2つに分けると言った。

「今日はたくさんの人に集まってもらっていますが、この中で本気でヴェルディジュニアに入りたいと思って来た人は右へ、自分の実力を試しに来たという人は左へ」

僕は迷わず左の「お試し組」のグループへ進んだ。当時11歳、僕にとっては所属していた地元のサッカークラブで楽しくプレーをすることが一番大切だった。この日参加したのは、単に自分と同世代にどんな上手い選手がいるのかを見てみたいという「好奇心」からだった。

「お試し」で参加したはずの選考だったが、たまたまその日調子が良くスタッフの目に留まり、ヴェルディジュニアに合格してしまった。それから3ヶ月間ほど入団するか悩んだ末、父親の「本気でプロサッカー選手を目指すなら、このチャンスを無駄にするな。単純にサッカーを楽しみたいなら、地元でやれば良い」という一言が決め手となり、ヴェルディジュニアへの入団を決めた。

入団後の現場は、想像以上に厳しかった。周りの選手は全員自分よりサッカーが上手いし、絶対にプロになってやると鼻息が荒い。自分が試合に出るためにはなんでもする、といった雰囲気があった。

また、入団から約1年後には、同い年の半数が「戦力外通告」を言い渡され、チームを去ってく。更にその1年後には、また半分の選手が「明日から来なくて良い」と言われて他のクラブへ移っていった。入団から2年で、それまで一緒にプレーしていた仲間の3/4がいなくなっていた。

そういった競争環境に晒される中、僕自身の心も大きく変化していたようだ。当時は気づきもしなかったのだが、いつの間にか「サッカーが上手くなりたい」「こんなプレーができるようになりたい」といった純粋な好奇心が消えていた。かわりに生き残るための焦りから「ミスをしてはいけない」「もっとに努力しなくてはいけない」という義務感に強く縛られるようになっていた。

結局、僕は入団から3回目の関所である高校生カテゴリーへの昇格のタイミングで、「君はもういらない」と言い渡され、4年半在籍したヴェルディの下部組織を退団した。アスリートの成長にとって、ゴールデンエイジと呼ばれる11歳から15歳の期間、僕は無意識のうちにサッカーを楽しむことを忘れ、競争に心を削られ、以前は持っていたサッカーに対する「探究心」や「好奇心」を失ってしまったのだ。

当時を振り返ると、毎日こんなことばかり考えていた。

「今日の紅白戦でスタメン組に入れなかった」
「週末の試合はメンバー入りできるだろうか」
「同じポジションの〇〇が一つ上のカテゴリーの練習に呼ばれた」

ヴェルディをクビになった後も、高校・大学とサッカーを真剣に続けた。人並み以上に努力できる性格ではあるものの、その努力の根底にあるものは成長への「好奇心」ではなく「義務感」であった。だからいつも心の中は「やりたい」ではなく「やらなくちゃ」という思いが先行し、結果的にそれが自身を追い詰めてパフォーマンスを下げていたのだと思う。

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僕にとって商社からスタートアップへの転職は、新たな世界への好奇心に向き合った結果だ。スタートアップもサッカーと同じように現場は厳しい。今でも義務感やプレッシャーに飲み込まれそうになることがある。

ただ、焦っても現状は何も変わらない。自分にプレッシャーをかけたり、他人からの評価を気にしたり、義務感で努力をしたところで、自身の実力は一朝一夕では向上しない。

好奇心を持って日々を楽しむこと、実はそれが成長への近道なのだとサッカーが教えてくれた。人生の半分以上を捧げた本当は大好きなサッカーが与えてくれた貴重な学び。もう同じ過ちは犯したくない。

気づけば、最近はスヌーズを鳴らし続けて妻に怒られることもなくなった。明日の朝もサーフィンに行くのと同じように、スッと目が覚めだろう。

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