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「どこの部位でもよい」鶏もも肉

卒業旅行先のドイツでプレッツエルに開眼した友人が、ここ数ヶ月の鍛錬の成果をTwitterに上げている。
それに触発されて私も何かを捏ねようと思ったのだけれど、あいにく我が家にオーブンはない。
だから、フライパンで焼けるチャパティを作ることにした。幸いにして私は週末にインドカレーを作ることが日課になりつつある。これを機に米以外の主食もレパートリーに加えたい。

ワクワクと図書館へ自転車を走らせ、ナヴィ インターナショナル編著『本格カレーを作ろう!ーー家庭で楽しむインド・スリランカ・パキスタン・タイ・インドネシアのカレーのレシピ47』(ナツメ社)を借りてきた。この本は、読めば読むほど奥深い本だった。

まず素敵なのは、国ごとの作り方が紹介されている点だ。
チキンカレーひとつ取っても南インド、北インド、スリランカ、パキスタン、タイ、インドネシアと6地域ものバージョンが載っている。北インドのカレーはトマト、南インドはトマトジュース、パキスタンはトマトピューレ使用、タイカレーにはココナッツミルクとナンプラーが必須でトマトは入れない。インドネシアのカレーには砂糖が入ることが多いなど、各地の材料の違いを見比べるのも楽しい。
ひとつ謎だったのは、スリランカとタイのチキンカレーのページに書かれた「鶏もも肉(どこの部位でもよい)」。「もも肉」と限定しつつ「どこの部位でもよい」とは…?

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スリランカやタイにはももをさらに細分化した部位の名称が存在するのだろうか。しばらく「鶏もも肉(どこの部位でもよい)」から目が離せなくなってしまった。とりあえず精肉コーナーのショーケースを覗いてみたが、やはり日本の肉屋では「もも肉」以上の情報は得られない。「どこの部位でもよい」に甘えて、何の変哲もないもも肉を買う。

個人的な思い入れが強すぎる感のある「カレー食材&下ごしらえ」のページもいつまでも読んでいられそうなおもしろさだ。
「カレーには欠かせない野菜、玉ねぎ」、同じく「カレーに欠かせない野菜である」とレギュラー格として持ち上げられるにんじんに対して、「なすはこれといった栄養成分があるわけではないが、糖質が多いため、カレーに甘味を与えてくれる」と冒頭からいきなり貶されるなす。

ベジタリアンには欠かせない材料となっている」(レンズ豆)
ベジタリアンにはもってこいのカレー食材といえる」(ほうれん草)
ベジタリアンには最高の食材といえる」(かぼちゃ)
と、その野菜がベジタリアンにとってどれほど重要な地位を占めるのかを如実に表す三連発も興味深い。ベジタリアン向けと聞くとついほうれん草や小松菜のような濃い緑の葉もの野菜が浮かんでしまうので、かぼちゃが最高と評されているのが少し意外だった。

一通り読み終えて、いよいよチャパティ作りに取り掛かる。
4人分の材料は、全粒粉3カップ、溶かしバター大さじ2、水 適量、ギー 適量。以上。なんだかかなりアバウトな気がするけど、大丈夫かしら。
手順通りに小麦粉をボウルに入れバターを加え、水を少量ずつ入れて練り始める。小麦粉の塊を黙々と捏ねていると、ここ最近蓄積してしまった胸のもだもだが少しずつ薄れていく気がした。何も考えずに何かに没頭できる時間は、思いのほか大切なのかもしれない。

まとまった生地を30分ほど休ませながらクックパッドでチャパティを調べてみた。するとバターを使ったレシピは出てこず、塩と油で作っているレシピばかり。チャパティのためだけにわざわざバター買ったのに!!幼少期に『ちびくろサンボ』を読んでからというもの、バターは私にとって至高の品だ。
たとえ今後万が一富豪になろうとも、バターには敬意を払い続ける自信がある。
これから先、残ったバターをどう使えばいいのだろう。恐れ多くて軽率には扱えない。ホットケーキを焼く予定も特にない。買っておいて持て余すなんて、失礼な話だけれど。

クックパッドを見たことを後悔しながら、寝かせた生地を等分に分けて麺棒で平らに伸ばす。そして、フライパンで焼く。焼いているとバターのいい香りがしてきて、やっぱりバターを買ってよかったと思った。残ったバターで、またチャパティを作ろう。

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焼きたてのチャパティと何の変哲もない鶏もも肉が入ったカレーが、ただひたすらに暑いだけの埼玉のワンルームに一瞬だけインドを見せてくれる。カレーを食べていたら、西葛西で暮らすインドの人たちや一昨年のインド旅行で出会った人たちとの思い出が蘇ってきた。
また気軽に海外に行ける日は、いつ戻ってくるのだろう。それだけの心のゆとりや安心・安全の確証は、いつ取り戻せるのだろう。

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