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やる気がほしいも

さすがに社会に出てから二年余りが経過しているからか、面と向かって「やる気あんのか? おお?」と凄まれることは少なくなった。
ま、皆無ではないのが悲しいところではあるんすけど。

しかしここ数日、我ながらほれぼれするほどにやる気がないのだ。
それも仕事や家事だけではなく、「朝起きたら顔を洗う」的な人間としての最低ラインですらも。もう億劫で仕方がない。

寒いからかなぁ。
布団から出るのがつらいなぁ。
それも大きな原因ではあるものの、実はもっとどぎつい元凶がある。
それは、「普通の人の三分の一くらいの白血球と鉄の量」と先日医師に診断されたこと。
それまで自称元気いっぱいだった私はいきなり強烈な病人意識を植え付けられ、正直かなりいじけているのです。
診断を受けたその日から、私はレバーやプルーンをわしわし食べて、アサイージュースまで飲み始めた。
再来週の血液検査では血中に白血球と鉄分をギンギンに漲らせ、医師をびっくり仰天させる予定だ。

とはいえ血中記録を塗り替える日まで幾分ゆとりがあるせいで、いつの間にか電車で向かい合う人や道端で見かける働く人に出会うたびに「私よりやる気がありそうかどうか」を見定めることが癖づいてしまった。

スマホを抱え込むように背を丸めて熱心に動画を観るおじさん、俊敏な動きでトラックにダンボールを投げ上げるごみ収集のお兄さん、ピシッとまっすぐに腕を伸ばしてタクシーを呼び止めるおばさん。
……みんな私より、ずっとずっと元気で、やる気に溢れて見える。
あーあぁ。

今まで日常になんの疑問も抱いていなかったくせに、私のフルパワーが常人の半分にも満ちていないらしいと知るや否や、にわかに不公平感が湧き上がってくる。
私だって動画に没頭したいし、機敏に動きたいし、腕一本で颯爽とタクシーを停めてみたいわよ!
ちなみに私は今まで一度だってタクシーをタイミングよく停められたためしがない。
ため息。

いかんいかん。
人と比較することが、どうも卑屈さアップにつながっているような気配がする。
やる気度を人と比べるのはあまりに不毛なので、個人競技へと移し替えることにした。
私の、私による、私だけのためのやる気度算出。
朝起きてから夜寝るまでの動作すべてに、10段階でやる気度数をつけてみる。

〔朝〕
家を出る一時間前に起床する…1
米、ぬか漬けをタッパーに詰める…2
ぬか床をひっくり返す…2
家を出る20分前まで二度寝する…5
顔を洗って着替える…1
化粧水と日焼け止めを塗る…1
眉毛と唇を塗る…1
自転車で駅まで行く…1
電車に座って本を読む…4
最寄り駅から歩く…1
会社の階段を上る…1
(後略)

朝10、日中9、夜13と、起床から就寝までの合計は32項目。
日中業務は細かくしようとすればいくらでもできるのだけれど、面倒だったので「メール」「電話」「来客」「仕事①」「仕事②」「突然の巻き込まれ案件」などとざっくり分けた。

さて注目のやる気度数は、
朝…2点
日中…2.8点
夜…3.5点。

一日の平均が2.7点と激低なのは置いておいて、朝の弱さが圧倒的すぎません?
そういや「家を出る20分前まで二度寝するなんて」と、以前友だちに絶句されたことがあったっけ。
でもしょうがないじゃないか。起きたくないんだもの。

当然といえば当然だが、休日の平均値は平日をはるかに上回る。
アラームの鳴らない朝(昼?)の目覚めはすっきり爽やかで、一日を通してみても6〜7点の間をキープしている。

しかし、ここ数日で一番やる気度が高かったのは、干し芋作りの10点満点
地元の友だちが鍋と一緒に、新米やかぼちゃや里芋、そしてたくさんの安納芋を送ってくれたのだ。

己のやる気のなさに絶望しすぎてつい前置きが長くなってしまったけれど、実は今日書きたいと思っていたのは、他でもない干し芋のこと。
せっかくこんなにお芋をもらったから、蒸す以外の食べ方も試してみたいと思ってクックパッドを開いたら、干し芋の作り方が載っていたのだ。
手順の少なさに安心して、秋の実りを前に合掌したのち、腕をまくる。

作り方は以下の通り。
①よく洗った芋を炊飯器に敷いた蒸し器に置いて、35分蒸す。

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↑蒸す前。

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↑蒸しあがり。

②芋の皮を「あちちちち」と一人騒ぎながら剥く。けっこう皮に身が引っ付いてしまうので、皮ごと口に放り込む。

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③細いテグスで繊維に沿って薄く芋を割く。集中力と素早さが求められる作業だ。
テグスを芋の繊維に入れることに手こずって、分厚すぎる芋と薄すぎる芋と、ぼろぼろに崩れた芋が大量に生まれた。販売品並みのほどよい薄さにできたのは、20枚中わずか1枚。それほど干し芋作りが難しいのか、単に私が不器用なだけなのかは、よくわからない。

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④百均の干し網(150円)に慎重に並べてベランダに出せば、準備完了。

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無心で芋を割き尽くし、干し網いっぱいに並べ尽くすと、言い知れぬ充足感がこみ上げてきた。

その時の私は、やる気と元気に満ち満ちていた。

結局完全に乾燥するのが待ちきれず、干し始めたその日の夜からセミドライ状態のものを食べ始めてしまった。
友だちの家の芋だから、余計に愛おしく、尊いものに感じられるのかもしれない。
今度彼女に遊ぶ頃までに上手に芋を割けるようになることが、今の私のやる気の源泉だ。
これからやる気が枯渇しそうになったら、何度だって干し芋を作ろう。
作って10点、食べて10点。
干し芋の頼もしさは、満点である。

お読みいただきありがとうございました😆