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ボカロ曲の長期変化をSpotifyデータで可視化してみる

「初音ミク」誕生は2007年8月31日。それから15年が経ち、ボーカロイド楽曲はどう変化しているのでしょうか?

そこでSpotifyのビッグデータを使って、「vocaloid」に分類されている楽曲の長期時系列変化を可視化してみました。

すると浮かび上がってきたのは、楽曲が徐々に短くなる一方、歌詞の言葉の数は増えてきてるようだ…ということなのです。

YOASOBIさんのAyaseさんに代表されるようにボカロP出身のアーティストさんがポップシーンでも活躍されることが増え、ボーカロイドによって出現した楽曲様式は、音楽シーン全体に少なからぬ影響を与えている様に思えます。

今回は、Spotifyのジャンルデータで「vocaloid」(ボーカロイド)に分類されている無数のアーティストさんの楽曲データを、各年最大1000件ずつ取得して、「長さ」「言葉の多さ」の時系列推移を視覚化してみました。

その散布図がこちらです。

時間軸の起点は「初音ミク」さんが誕生した2007年以降に設定しています。

点の一つ一つは一曲を示し、左右で斜めに走っている点線は時系列回帰直線です。P値<0.0001となっているので、データは、曲の長さは徐々に短く、そして言葉の多さは徐々に多くなっている可能性を示唆しています。

Spotifyは配信している世界中のあらゆる楽曲を独自の指標で解析してします。その中でも今回使ったのは「そのアーティストのジャンル」「曲の長さ」「話し言葉の多さ(speechness)」というデータです。

「長さ」グラフの一番左上のあるAV TechNO!さんの「AV Dog-01」は2010年のリリースですが、なんと26分の大作となっています。

こうした長い楽曲は徐々に減少していく様子がグラフから見て取れますね。
一方、右のグラフは「言葉の多さ」(speechness)です。

speechnessというのは和訳するのが難しいですが、ラップミュージックにおいてその値が高くなるようなので、ざっくり「言葉数が多い曲」とでも理解できそうです。

言ってみれば、松任谷由実さんや槇原敬之さんやカーペンターズさんの様に一音一音を時間をとって歌い上げる楽曲というよりは、ラップバトルのように、一音の中に密度高く歌詞を載せるような滑舌の良い楽曲とでも言えそうです。

曲の短化傾向はYoutubeやサブスクリプションでのスキップ対策として生じる一方で、言葉数が増えていくのは、機械だからこそ可能な高速な歌唱のアドバンテージを生かそうとした結果なのかもしれません。

言葉の多さグラフの中で最も高い値を示しているのは、こちらの楽曲です。

Spotifyで聴いてみましょう。なんと1分56秒しかない時間の中に、初音ミクさんの歌声が響き渡ります。

また近年でこのスコアが高いのは、傘村トータさん「LIFE」です。

スピード感あふれるギターチューンですね。3分34秒の中にミクさんの歌がぎゅっと凝縮されています。

いずれにしましても、徐々に短くなる曲の中で、歌詞の言葉数は多くなってきている様が窺えますね

そしてそのようなボーカロイド楽曲からの影響や、それらを作っているボカロPの皆さん達のJ-POPへの進出によって、J-POP全体が近しい傾向になっていると想像します。(時間ができたら可視化してみます)

ちなみにSpotifyの楽曲特徴データには「テンポ」もあるのですが、これを時系列分析してみても、とくに加速している様子は見られませんでした。

全10,054曲のBPM中央値は、132でした。なのでちょっとテンポが早いですね。だけどそれがあまり変わらない。

もしかしたら、BPMをひたすら早くすればボーカロイドの特性が生きるわけではなく、逆にBPM=132くらいのテンポの中に早口の密度高い歌詞を入れ込む方が、かえってよいのかもしれません。

あるいはもしかしたら、これからはBPM=200くらいの超速テンポでこそ生きるボーカロイドの歌唱法も開発されるのかもしれません。

さらにはこの傾向が加速すれば、30秒くらいの楽曲に3分くらいの分量の歌詞を超速で歌い込めたボーカロイド楽曲が誕生するかもしれません。

それはもはや人間の聴覚では知覚できず、ヘリコプターの羽根がゆっくり回って見えるストロボ効果みたいに、あまりに早くて、逆にゆっくり歌っている様に聴こえる前衛的な楽曲様式になるやもしれません。

そして最後は、ジョン・ケージの作品みたいに、人類の可聴領域を超えた高周波がひたすら流れる無音空間で、私たちはただ概念としてのボーカロイドの歌唱を永遠に味わうというSF的世界が待っているのかもしれません。

それでは聴いてください、ジョン・ケージで「4分33秒」。以上、徒然研究室でした。


今回、Spotifyのデータから「ジャンル」をキーにして、そのジャンルに分類されているアーティストの楽曲の特徴データを各年最大1,000件まで取得できるコードをPythonで組むことができたので、2007年から2022年までで「vocaloid」に分類されているアーティストの楽曲をfor文でループしてデータを取得しました。

2017年だけが何回取得してもちょっと少ないので、原因がわかったら追記しておきたいと思います。

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