見出し画像

毎朝のウォーキングの際、ひそかな楽しみがある。公園にある自動販売機の占いだ。自販機上部の電光掲示には、時事ニュースに紛れてランダムに、星座ごとの占いが表示される。例えば、こんな具合である。

「牡羊座 ◎ 購入の決断」
「蟹座 〇 テキパキ働く」
「乙女座 △ 油断は禁物」
「獅子座 × 優柔不断」

こういう、占いの言葉としては、よくある感じに思えるものもあるが、この占いの大抵は、意味をとるのが難しい。

「× ストレス」

当たり前ではないか。「望まぬ、過度なストレスがだめ」、なのはおそらく誰でも知っている。ストレスを完全に避けて生活することはできない。出勤途中のビジネスマンが、これを見たらどうすればいいのか。

「今日はストレスが×なのか…。よし、今日の会議は欠席しよう。部長に相談だ!」

そんなこと、できるものか。

「〇 ワクワクする」

これは、そもそも「結果」である。「よーし、じゃあ今日はたくさんワクワクするぞ!」と、思ったところでそうもいかない。ワクワクは「してくる」ものだからだ。どういう行動をとるかは選べるとしても、感情の状態は選べない。

似た表現に「× くよくよする」というのもある。それができるかは置いておいて「○ クヨクヨしない」と言う方が一般的な感じがするが、やはり自動販売機占い独自の表現である。「くよくよ」が平仮名なのも、なんともいい。

「× 迷惑をかける」

わざわざ迷惑をかけようとは、あまりしないだろうし、思わず結果として迷惑をかけてしまうということはよくある。迷惑をかけるのが「×」だと言われても、それはそうだろう。そもそも「迷惑」というのがネガティブな言葉だからである。

「あれ?先方に、謝罪のメールまだ送らないの?」
「『ご迷惑をおかけしました』って書けないんです。今日は『×迷惑をかける』なんで」
「じゃあ仕方ないか…」

これでは仕事が進まない。

「○ ひたむきな態度」

「ひたむき」というのは、なんともすがすがしい。だが、「態度」だけでいいのだろうか。

「△ こだわらない」

もっとこだわった方がいい、ということなのか、こだわらない方がいい、ということかわからず、途方に暮れる。「△」というのもまた難儀である。

中には、なかなか凝った表現もある。

「◎羨望の眼差し」

羨望の眼差しを人に向けるのがよいのか、向けられるのがよいのか。人をうらやましく思ったら、自分も何かやってみると吉。いや、羨望の眼差しを向けられるくらいよいことを、今日あなたはできるよ、という予言かもしれない。

「○腐れ縁の精算」

あの人との関係、「腐れ縁」なのだろうか。今日こそ、清算すべきなのか。朝から「腐れ縁」と書かれたのをみて、私はなんだか自動販売機の前で考え込んでしまった。朝から重すぎやしないか。


「◎磁力的魅力」

ものすごく惹きつけられる、ということだろう。私もこんな魅力を身に着けたい。みんなが自分の方に磁力で引き寄せられるとしたら、歩きにくくて仕方がない。

しかし、それこそが「磁力的魅力」だ。周りにたくさん人をくっつけて歩いている人を見たとしたら、きっと「磁力的魅力」が発生している。なんという秀逸な表現であろうか。


占いは、誰が考えているのだろうか。「4-7文字」という厳しい制限の中、工夫しようとしているのが伝わってくる。どう思って作っているかを、是非とも聞いてみたい。

私たち夫婦以外に、その公園の自動販売機の占いの前で足を止めている人を、見たことがない。

受験の合格発表のように、人だかりができて、朝から自分の星座の占いに悲喜こもごも、というのも見てみたい気もするが、それではゆっくり見られないので、このままでもいい気もしている。

(追記)
心理士として一応書きたくなったのだが、「ストレス」は必ずしも悪いわけではない。

自分が望まない状況でストレスを受け続け、心身の反応が長期間続くことは健康によくないが、自分が望んで挑戦するストレスは、充実した人生を送るのには必須だ。ストレスがあると、大変な状況を乗り越える力が湧いてきたり、学習が促進したりする。大変な状況では、周りの人との絆が深まるとも言われている。

とはいえ私は、「×ストレス」という表現が、ストレートで好きである。

(追記2)
 ある日のてんびん座の占いは「○ 昇給運」だった。昇給は、運なのか。

「今日のあなたは昇給よ。ラッキーね」と上司。
「ツイてるな!」と同僚。
「自分、てんびん座なんで」

…そんなことが、あるわけないではないか。

妻は「公務員は、絶対今日あがらないけどね」と言った。

2023年10月24日執筆、2023年10月30日投稿

こんかいのエッセイが好き方におすすめです↓

プロフィール、自己紹介はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?