「神様のボート」を読んで

先日、江國香織さんの「神様のボート」を読みました。
今回はその感想を書き留めます。


ーあらすじー


この物語の主人公は2人、ママである葉子と娘の草子。
大学時代の先生と結婚していた葉子はある日、既婚者の男と「骨ごと溶けるような恋」に落ち、草子を授かります。すると男は「必ず戻る」と言ったきり、どこかへ消えてしまいました。
葉子はその言葉を信じ、その男に再会することを生きる目的とし、草子を連れて関東の街を移り住みます。草子は転校を繰り返し様々な思いを抱きつつ、盲目的な恋をする母親の隣でゆっくりと成長していきます。母娘の何気ない日常と、その中で少しずつ移り行く心情が鮮やかに描かれた、旅する2人の物語です。

ー感想ー

「こんな風に誰かを愛せたら」と思わずにはいられませんでした。
物語の中盤までは、「母親でありながら過去の男に囚われて、娘が可哀想」だとか、「既婚者同士が互いに体を許し、いい年して恋に溺れるのはどうなのだろう」と思っていました。しかし読み進めていくうちに、
「一生のうちにこれほどすべてを捧げる恋を、私はできるだろうか」
と感じました。

 娘の草子が次第に成長し、ママの恋がどういうものかを理解し始める年齢に達した時、徐々に自分自身の意思をママに打ち明けます。このあたりから母娘2人が、「ロマンティスト」と「リアリスト」にはっきりと分かれます。もちろん私は草子(リアリスト)の考えと全く同じだし、もし自分が草子の立場だったら、母親の勝手さに耐えられません。だって、「いつか会えるかもしれないあの人」のために、2年ごとに各地を移り住み、転校を繰り返すはめになるから。母親のそんな理由で転校を強いられ、せっかくできた友達ともすぐにお別れする幼少期はきっと辛いと思います。
 そう思う一方、「ここまで恋することって、人は一生のうちにできるのかな」とも感じます。一読者として、その男はきっと「クズ」だと思いました。しかしそんな彼の言葉を心から信じ、彼のために生きる道を選んだ葉子は、なんだか「幸せ者」な気もしました。大抵の人は、もしこんな恋愛をしたら、「あの人は最低だ」とか、「あの人のせいで苦しい」と、逃げ出した相手の事を悪者認定するでしょう。しかし葉子は一度も相手を疑わず、強い信念を持って何年も待ち続けるのです。十年以上たっても彼が夢に出てきたり、抱きしめられる感覚を思い出したり。笑っちゃうくらいのロマンチストですが、とても魅力的な女性にも感じます。
こんなふうに、どっぷり浸かる、骨ごと溶けるような恋もしてみたいな」と思わせてくれる物語でした。

ーこんな人におすすめー

  • 鮮やかな情景描写を、しっとりと楽しみたい人

  • とろけるような大人の恋がしたい人

  • ゆったりとした時の流れを感じたい人

とにかく江國香織さんの魅力は、言葉が綺麗なところ。難しい表現が使われておらず、シンプルかつ素直な言葉が並んでいると感じます。しかしその言葉たちから、それぞれのシーンの景色が鮮やかに浮かびます。今回の作品では、母娘2人がよく海辺に散歩に出かけるのですが、その時の海や砂浜、風や気温などがきめ細やかに描かれています。そんな、江國香織さんの作る世界に潜り、ゆったり、そしてしっとりと読書を楽しんでほしいなあと思います。

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