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ふたしかな時間とたしかな夏至

vol.86【ワタシノ子育てノセカイ

人はそうそう変わらない。「わかる」ステップがないと変われないから。

自分に落とし込んで納得すれば、不安が安心になり、人は変わっていけるんだ。自分の中に「ある」という感覚をしっかりと味わいさえすれば。

「ある」とは価値観で、今の「自分」なんだ。わからないときはだいたい、ないのにある、と勘違いしちゃってるんだろうな。

ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

6月はなんだか感情が忙しくなる。父の命日があったり、私と次男ジロウの誕生日があったり、学校行事もあったりして、家族についてつい思い耽ってしまうんだ。

2024年6月12日、ジロウのオープンスクールがあり、午前中の授業が解放された。1時間目から参観する約束をジロウとしていたので、私は8時半ごろには学校に到着する。

一時間目は音楽教室での授業で、入室が子どもたちの正面からとなり、否が応でも参観者は目立った。しかも私は一番のりだったからか、子どもたちの反応は機敏で、ジロウに知らせようとする声があちこちで響く。

だけどジロウは頑として私のほうを見ない。教室の出入り口に一番近い席のジロウは、実は誰よりも早く気がついて、廊下にいる私とすでにもう目を合わせていたんだ。

クライメイトの視線が一瞬で私に集まったおりに「教室で話しかけるんなしな」と5年生のジロウからもらった、参観日への注意事項がふとよみがえる。話しかけちゃいけない理由をジロウに尋ねたけど、当時のジロウは適した言葉を見つけられなかった。

そして「なんでジロウはそう思うのか」を母子で探す時間も見つからなくて、6年生の今にいたっている。ジロウは音楽室で、何を感じていたんだろうか。

授業が終わり、音楽室から出てきたジロウに声をかけると、照れながらも授業の感想を伝えてくれた。どうやら嬉しいらしいとわかる。

2時間目から4時間目までは教室移動がなく、一番後ろの席に座るジロウの真横だか真裏だかに私は陣取った。

どうやら嬉しいらしいジロウだけど、真近での参観はいかがなものか、いまいちよくわからない。2時間目が終わったときに「お母ちゃんは別の場所でも参観できるけど、ジロウはどう思う?」と質問してみると、瞬時にジロウは答えてくれた。

そこで4時間目までずっと観てたらええで。

休み時間でザワザワする教室なのに、なんだかあたたかく静まり返って、時間が止まっているような気がした。

法改正により誕生した共同親権法は、日本社会を体現している。

たとえば、非親権者が共同親権者になる手段について。改正民法をよんだ私の解釈だと、単独親権から共同親権への変更は簡単ではない。一方で親権者になれる可能性が最も高い方法も見つけた。

国によって親を奪われた子どもが、親を返すように国にお願いすればいいんだ。

子どもが原告となって申立てると、親が親権者になれる可能性がどうやら高い。ここまで子どもを侮辱できる潔さが、豊かに熟しきった日本の現在地なんだろう。

ちなみに国が掲げる法改正の理由は「子どものため」で、国がだした法案も発布した改正民法も、単独親権制度という子どもの奴隷制度。子どもへのリスペクトが、仕組みから現れるはずがない。

3月「共同親権を申立てたらどうなる法案なん?」と質問した長男タロウに、私は「法案からはわからへん」と返事した。「会えるかわからんってことやな」と苦笑ったタロウは「でも7年もたってるし、さすがにもう慣れてるから大丈夫やで」とエクボをみせた。

あるはずだった親子の時間に、どうか我が子が未来で足元をすくわれず、実りある人生を歩んでいけますように。

2024年6月17日火曜日。15歳のタロウからひょっこりと夕食のお誘いLINEがやってきた。ジロウと私の誕生日だから金曜日に焼肉屋さんに行こう、という趣旨である。21日が私、22日がジロウの生まれた日。

珍しく改行のあるLINEには、10%割引の旨が添えられていたので、10%に言及して返事すると「!」で終わる、珍しいメッセージが返ってきた。

どうやらタロウは食事できる金曜日に心躍っているらしい。縛られている日常から解放される促しがあったんだろうと私は察した。子どもたちはいつだって、父からも母からも愛されたい。

我が家においては、一日違いのジロウと私の誕生日が、偶然にもほそぼそと母子を繋いできた。今となってはタロジロが束縛からの自由を感じて、なんなら愛されている、と勘違いできる貴重な瞬間となっている。

翌18日。ジロウとの密会サブプランの発動日で、下校中に迎えに行くと、ジロウは約束日をちゃんと覚えていた。

密会日を一緒に決めた帰宅後、カレンダーにしるしをつけたという。忘れてしまった前回↓↓から、覚えておくための工夫をジロウなりにしたようだ。

失念してしまった前回の密会日はマクドの日で、ジロウは今回を振替日にするつもりだったらしい。助手席に座るやいなや「今日はマクドやな」と屈託のない笑顔をふりまいた。

マクドまでの道すがら、ジロウは金曜日の確認をはじめる。「お母ちゃん、金曜日のこと知ってる?一緒にご飯食べれるねんで。タロウから連絡きたやろ?」

マクドからの道すがら、ジロウは金曜日までの確認もした。「金曜まではもう会わへんからな」

とにかく金曜日にオオワラワらしい。ほほえましいのだけれど、会わない理由は見過ごせないので尋ねてみた。するとジロウは「会うのがもっと楽しみになるやろ」と太陽みたいな顔をする。

すっかり普通の親子じゃない現実と、未来を創りだす眩しい想像力に、私はやや迷子になってしまった。オープンスクールといい、惑ってばかりの日々である。

「金曜日は3時半に学校の駐車場に迎えにきてな!」と密会でない母子時間にジロウもどうやら心躍らせる。

離婚するまでの面会交流では、集合場所は学校の駐車場だったんだ。

面会交流がなくなってからのジロウは、面会交流してた時期みたいに、私と会いたいとしばしば訴えていた。一方で面会交流していたジロウは、一緒に暮らしてた時期みたいに、私と会いたいとしばしば訴えていた。

私との懐かしいジロウの記憶は今や、一緒に住んでいた頃ではなくなりつつある。苦笑いしてエクボをくれた3月のタロウとおんなじだ。

7年という月日は長いらしく、子らはちゃんと変化している。

21日金曜日の朝7時台、タロウからのLINEがはいった。「ジロウが学校に迎えに来ずに家におってやって」。約束していた3時半、ランドセルが歩いているようなジロウと、幼い弟を見守るように歩くタロウの姿を想い馳せる。

時刻がいつのまにか夕刻の5時に近づいた。
夏至だから、嘘みたいに、まだ陽が明るい。




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ドリンクМをシェイクSに変える注文で
力を使い果たしたジロウさま

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