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あなたとわたしの存在が確かな今を繋いでいくんだ

vol.94【ワタシノ子育てノセカイ

今、理解できることは、ほとんどが過去。理解の範疇を実行したとて、未来は創造できやしない。

朽ちゆく過去を支えることは、今という瞬間を過去で覆い、輝く未来を閉ざす営み。世界を朽ちさせるのはいつだって、過去という今にしがみつきたい心なんだ。

「自分」という今さえあれば、過去は未来となっていく。

ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

2024年8月19日、夏休みのいとこ会にて。総勢9名のいとこで賑やかしい1階を脱出し、最年長の長男タロウと私は2階の一室へ逃亡する。

タロウも私も賑やかなのは楽しめるけど、ざわつきが続く場所に長時間いるのは苦手なんだ。一緒に暮らしていなくても、似ているところくらいはあるらしい。

2階に落ち着くやいなやタロウはスマホとにらめっこして「全国模試の結果見る?」と私にお知らせしてくれた。訳すと「お母ちゃん、僕を愛して!」となる、と思っている。

部屋にはいつのまにか逃亡組が揃い、中1の姪とその母である私の妹もまじり輪となる。1階から流れてくる子どもたちの声がほどよいBGMとなって、2階は和やかな時間に包まれた。

同じ場所で、異なる空間に、繋がる今を、確かに味わっている。

タロウは数学が好きだ。求めていくといつか解に辿り着くから、が理由らしい。なんやかんやと解いてるうちに、答がひとつ見つかる点がよいそうだ。

一方で国語のテストは好きじゃないらしい。解釈は人それぞれなのに、なんで答がひとつになるのか納得いかないという。

2024夏休みの15歳のタロウは、模試の結果を微笑みながら披露してくれた。姪と妹にも見せていいよ、というので女性陣でのぞき込む。

数学の偏差値を見て、国語と英語に目を移すと、みんなして総ツッコミする羽目に。好きこそものの上手なれ、とはまさに、の数字となっていた。

数学と国語で真逆の理由を述べたタロウ。実は一貫していると私は感じているけれど、親子で語らう時間は、まだない。

社会は矛盾だからこそ、世界はひとつになれるんだ。

凸凹が過ぎる成績からタロウの個性を改めて堪能し、夏山の合宿の話へ移る。タロウはワンダーフォーゲル部に所属していて、今夏に人生初めての山籠もりをしたばかり。

8月上旬に、北アルプスの立山を11時間かけて14.8㎞の登山をしたという。

7月にも2回の合宿をしている。おそらく立山合宿に向けての助走だったんだろう。1回目の初合宿に際しては、前日にタロウから突然に呼び出されて、各種備品を一緒に買い出す奇跡のような時間を過ごせた↓↓

タロウの通う高校は私の母校でもあり、私が在学中のときからワンゲル部は全国大会常連の強豪校だった。どうやら今もそうらしく、校舎にはしばしば垂れ幕がたなびいている。

いとこと叔母がいるからか、いつもより控え目な調子で、タロウは立山合宿についてお喋りしてくれた。

先輩が作ったという動画も見せてくれるタロウ。部活のYouTubeチャンネルがあるらしく、限定リンクで視聴できるらしい。姪と妹と一緒に、小さな画面に私が張り付いていると「後でお母ちゃんにリンク送るわな」と背中越しに、タロウの穏やかな声が響いた。

女子会になんなく馴染んでいたタロウは、視聴が終わるとすぐさま私にLINEする。その2時間後、次男ジロウと一緒に、私のもとから去ってった。

いとこたちの声の中にタロジロの声はもうなく、気がつけば夏のいとこ会は終わりを迎え、みながそれぞれの日常に戻っていく。

こだまするような鈴虫の音色が、夏の終わりを告げてくる。3日ぶりのひとりの夜に、タロウがくれた動画をひらいた。

凸凹の山道で上り下りをくりかえし、タロウが仲間とともに登山した足跡が映っている。山頂に近づくほど、日常でない景色が拡がり、私の知らない世界が刻々と描写。

いや、似たような景色が存在することは知っているけれど、あくまでわたくし事じゃない世界で、綺麗だとか険しそうだとかの他人事で知ってるだけ。

タロウが眺めた世界は、私の知らない世界だと、なぜか動画が突きつけてくる。

実子誘拐から7年目の今年、タロウは16歳となる。共に暮らした8歳のタロウはもういない。9歳のタロウも、10歳のタロウも、11歳のタロウも、12歳のタロウも、13歳のタロウも、14歳のタロウも、いない。

だけど16歳になる15歳のタロウは、今をちゃんと生きているんだ。

穴ぼこだらけの親子の時間は、きっと、登るためにあるんだろうな。



2024夏の北アルプス
15歳タロウが眺めた世界

声をあげることさえ諦めなければ
いつか世界に響くと信じています

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