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これまでの子育てが「今」となる。親子分断6回目の誕生日、14歳編

vol.18【ワタシノ子育てノセカイ

学ぶほど学びが足りないことに気づく。足りなさをくり返すほど学びは難解になり、ときに絶望的な不足に悶えるけど、満ちる足りなさは人の希望になるはずなんだ。

ーーー

お母ちゃん、きたで。

読書中の手から本が落ちる。
母を見おろす頬にやわらかい夕日。

警察事変から約3ヵ月後の2022年12月。
制服を着たタロウがひょっこり表れた。

13歳の彼が、ひとりで闘っていた葛藤は、どれほどのものだったんだろう。

ーーー

タロウと繋がれない傍らで、ジロウとの密会は細々とつづいていた。

11月のある密会にてジロウが鼻息荒く喋りだす。

お母ちゃん、
朝、家の前に立っといて。
そしたら毎日会えるやん!

ジロウと私は週5で朝3分も会えることになった。

登校班の集合場所と私の家は一直線上。
白壁の前に赤い上着で立つ私。
ジロウはタロウが着てた青い上着。

決行から1週間後にやってきた密会日で、ジロウは頬を紅潮させて口をひらく。

お母ちゃんの服、赤やろ!
見えてんで!

集合場所と自宅の距離、500m。

親子で毎朝会える幸せに、私は震える。
とりあえず、青い服の子、全員我が子←

ーーー

実は2017年からの5年間、私はほぼ毎朝、窓からタロジロを見送っていたんだ。だからこそジロウの言葉に猛省する。

なんで私はこっそり見送ってんねん。

毎朝3分もあれば、2017年から今まで3600分、60時間もの親子時間になる。タロジロに知らせない見送りは、ただの自己保身に過ぎないから、幸せが循環しない。

私は「想いを伝える意味」を改めてジロウから学ぶ。

望むことをやめない限り、願いが叶う可能性はいつまでもあるんだ。

ジロウが毎朝、お母ちゃんと会えるようになったみたいに。

ーーー

ひょっこり現れたタロウはいつもみたいな弾丸お喋りをしない。口調だけは穏やかで、頬はなんだかこわばって、目は助けてほしいと叫んでいる。

目の前のタロウの姿に、私は鼻の奥がどんどん熱くなってくる。宙ぶらりんの警察事変が煮えたぎってくるみたいだ。

私には、親子で壁にぶつかったとき、いつもより意識することがある。

感じたことを吐き出して
なんでそう感じたのか考えて
どうしたかったのか確認して
そのために何ができるか考えて

今の痛みを吸い込んで、ただ未来に繋げるんだ。

だけどひょっこりタロウの滞在時間は15分くらい。タロウが勇気を振り絞った時間を粗末にはできない。

傷つかずに今だけ楽しむか、傷ついても今を未来に繋げるか。

なんか考えがまとまらない。
時間が「今」にチクチク刺さる。

ーーー

バイバイの時間がやってくる。

腰が抜けそうなタロウのリュックで、私たちはケラケラ笑う。たわいもない笑い話がこのうえなく幸せすぎて、後悔の津波が覆いかぶさってくる。

15分間も親子で会える日は、次はいつになるかわからない。

次のなさなんて知っているんだから、未来に繋げる話をすればよかったんだ。タロウを信じていないのか?自分を信じていないのか?

気がついたらこの5年間で一番、後悔するタロウとの時間を過ごしてしまった。今、ただ、ここにある時間を味わえばいいだけなのに。

タロウがヘルメットをつけながらこっちを向く。

お母ちゃん、
また来るから!
LINEするな。

私は何に不安なんだろうか?

だけどやっぱり、翌週の密会前日になってもLINEはなく、当日も現れなかった。タロウのお喋りの少なさに、私は想像を巡らせた。

ーーー

お母ちゃん、
スマホ壊れてしもた。
密会予定日の翌日、タロウがほろっと現れる。

お母ちゃん、
明日もくるわ。
翌16日、マカロンお茶会で一年ぶりの外出。

お母ちゃん、
部活はよ終わったで。
翌週21日、サンタがスマホを直す話で沸く。

お母ちゃん、
明日はいっつもよりゆっくりできるから。
22日、30分もの親子時間にただ感謝する。

お母ちゃん、
明日はいちご大福食べにくるから。
23日、いちご大福と成績表の甘酸っぱさに笑う。

会えなかった時間を回収するようなタロウの行動に、夢みたいな時間と現実のやるせなさが音速で交差するみたいで惑う。

いつのまにか、タロウの弾丸お喋りは、すっかりもとに戻っていた。だけど目の奥の叫んだまま。ついた傷をまだ、タロウは見つめきれていないんだ。

お母ちゃん、
誕生日は会えへんと思う。

12月はタロウの誕生日。穏やかな口調でタロウは、繰り返し私に「会えへん」と伝えつづけた。自分に「しかたない」と言い聞かせるように。

密会の2週間、ずっと。

ーーー

学校の終業式の23日。
長期休みになると密会は難しい。
リュックを背負いだすタロウに私は口を開く。

お母ちゃんに、
会えるのも会えへんのも
タロウやねん。
他の誰でもないねん。
だからタロウが、
会いたいか会いたくないかが
お母ちゃんは大事やと思う。
お母ちゃんは会いたいと思うから、
26.27.28日はいつでも
会えるように家おるな。
てかタロウが8歳のときから、
会いたいって毎日思ってんで。
ほんで会えへんでも、
お母ちゃんはタロウを大好きなままやで。

タロウが私を見上げる。
ヘルメットの奥にエクボ。

まもなくタロウ、14歳。

そういや10歳ジロウが、興味深いことを密会で話してくれた。

「お母ちゃん、ジロウはな、自分の気持ちを言うのは苦手やねん。どんな気持ちなんかよーわからん

思春期タロジロ、母の「なんで?」に戸惑いはじめる。

つまり、単独親権家制度の今の世界に心が馴染みはじめた。

ーーー

2022年12月26日昼過ぎ。
ウトウトしてると、階段を駆け上がる音で脳が覚める。

お母ちゃんきたで!
誕生日もこれるで!

お母ちゃんは信じてた。
ひょっこり現れるのも。
誕生日にやってくるのも。

何もしなければ深く傷つきはしないけど、何もしないと何も変わらなから膿みたいな傷をずっと抱えつづける、ことにすら気づけなくなる。

深い傷も膿の傷も、
好きな方を選んでね。
タロジロが、
深い傷に立ち向かえるよう、
膿の傷に気づけるよう、
お母ちゃんは、
精一杯の愛を細々と拡げています。

ーーー

27日朝、タロウ誕生日。
10歳ジロウがいきなり窓から侵入してくる。

お母ちゃん、おはよ!
今日タロウ誕生日やで?
部活終わったらくるで!
ケーキどうする?
バナナケーキ作ろ!

ひとりで会話をすますジロウ。

朝から優雅にケーキ作りがはじまる。
気がつけばお母ちゃんはアシスタント。

ほとんどジロウひとりで作ったバナナケーキは、過去一うまく膨らんで、まるでタロジロの成長が詰まってるみたいだった。

しょっちゅう焼いたバナナケーキ。
一切れずつお皿に盛ったおやつタイム。
ジロウはいつも「チャーチャン、ドージョ」
そしたらタロウもジロウにはんぶんこ。
だからお母ちゃんもタロウにはんぶんこ。

グルグルめぐるバナナケーキはきっと愛だったんだ。

だって親子の心にずっと宿っているんだもの。

ーーー

お母ちゃん!お腹空いた!
ん!?バナナケーキ焼いたん?

お昼過ぎ、甘い香りが漂う。
タロウが息を弾ませ登場する。

4時間半でできることをタロウが計画し、メインはケーキタイムに。

真昼間。
「電気消して!はよはよ!」
と、ろうそくをつけたジロウ。

「消えとるわ!カーテンや!」
と、笑って太陽光を遮るタロウ。

ジロウがマッチすりにてこずって、
歌をうたいながらケーキ運んで、
ろうそくの火がタロジロの頬に揺れて、
お母ちゃんは撮影にワタワタして、
消していい?ってタロウが微笑み息を吹く。

あ、タロジロとの5年間にも、繰り返す風景があるかも。

惑わず勝手に動くタロジロの姿に、私にも積みあがっている家族の日常があるんだと気づいた。日々の繰り返しを「日」単位でしか眺めていなかったみたいだな。

紅茶係の私が席に戻ると、みっつに切り分けられたケーキが、ちょこんとお皿にのっていた。

お母ちゃんの小さめにしといたから!
おっきい?食べれる?大丈夫やろ?

まさかの三人食べきり分配。2歳ジロウみたいに、手で割ってのはんぶんこは難しそう。だけど私はタロジロにはんぶんこを打診する。するとふたりは頬膨らませて、お母ちゃんのを増やそうとする。

ええで。
お母ちゃん食べない。
チョコあげよか?

ちゃうねん、めっちゃおっきいねん←

私の雑念でめぐらないバナナケーキには、タロジロの愛がたくさん詰まってて、バナナとメープルシロップで甘いのに、なんでかしょっぱかった。

ーーー

希望を叶える歩みが学びで、学びは満ちる安心を疑えて、足りなさの不安を掻き立てて求めを欲せる。望みが自分を深めて学びとなるんだ。

ーーー

ジロウ
バナナケーキ作ってくれて
ありがとう
タロウより
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