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生活に、ひと手間を。木製品を介してサスティナブルな日常をつくる/山本 瑞穂さん - &CRAFTS

足を踏み入れると、木の温もりに包まれる店内。床も、壁も、テーブルも全て木でできたこの場所は、「&CRAFTS」という木製品のブランドショップです。販売されている可愛らしいお箸や家具などには、木に乗せて届けたい若きオーナーの熱い思いが込められていました。

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山本 瑞穂(やまもと みずほ)さん
&CRAFTS ブランドディレクター兼創設者。
高校卒業後、就職、留学を経て祖父母が創業した製材所にて木材の勉強を行い、現在は山梨を拠点にブランドディレクターとして自社商品の開発や製造の管理を行う。首都圏の“サスティナブル”や“エシカル”に特化したセレクトショップを中心にFSC®認証製品を販売。企業とのコラボ商品の企画提案も積極的に行っている。デザイナーによる製品からパッケージのトータルデザイン、製造まで一貫して担うことができる点が強み。その他、ノベルティ製作を通して環境活動やPR活動のサポートも行う。

ひと手間から価値が生まれる

「パッと手に取ったものが、実は環境にいいものだった。そんな日常に寄り添った木製品を目指しています」

というのは、オーナーの山本瑞穂さん。山本さんは2018年、お母様が運営する「株式会社シェア・ハピネス」の自社ブランド「&CRAFTS」を立ち上げました。

ブランドの大きなテーマは、「ひと手間加える」。木の天然素材ならではの経年変化を付加価値として捉え、メンテナンスをしながら使うことを”育てる”と表現しています。

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「育てるうちに木の色味にも深みが増し、自分だけのオリジナルなものになります。そこで生まれる「愛着」や「思い出」にこそ、値段以上の価値があると思っています」

メンテナンスというと大変そうに聞こえますが、実はとても簡単なもの。スーパーで手に入るオイルなどを塗ってあげるだけでいいそうです。商品はあえてトレンドを追わないシンプルなデザインにすることで、買い手が加える「ひと手間」の余白を残しています。

手間を加えることで、新たな価値が生まれるーーこの考えは、&CRAFTSの加工そのものにも反映されています。変形や傷がついた規格外の木を活用することで、捨てられるはずだったものに新たな命を吹き込んでいるのです。

「規格は、その業界のルールで定められているだけ。業界の中では受け入れられなくても、戦うフィールドを変えてあげれば、規格外のものも流通させられることを知ってほしいです」

規格外品の加工は通常より手間がかかるため、あえてやる人は少ないのだそうです。しかし、「自然からのいただきものは、最後まで手をかけるべき」というのが山本さんの考え。人間の都合で処分してしまえば楽ですが、手間をかけることで、画一的ではない、木の個性豊かな商品になります。

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「製品化した木には、長い歴史が詰まっています。木は植えてから伐採するまで60年、その後も7,8年の時を経て、ようやく加工できる状態になるんです。だからこそ買い手の皆さんにも、できるだけ無駄なく、一つのものを長く使うことを大切にしてほしいと思っています」

職人ありきの商品づくり

分業制が多い木工業界ですが、&CRAFTSでは製材〜加工〜販売を一貫して行っています。丸太の状態で運ばれてくる材を目利きするところから始まり、製品を作り上げるまで、すべてが手作業です。

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そこで大事にしているのが、各工程に関わる職人の存在です。山本さんとの会話の中にも、職人に対する敬意と尊敬心が溢れ出ていました。

「私の頭の中のデザインを形にすることができるのは、職人さんがいてこそ。商品からその存在を感じて欲しくて、さりげない工夫をしています。生産背景が見えると、そのものに対する価値観も変わってくると思うんです」

第一弾として考えたのが、商品に職人のイニシャルを刻むことでした。職人にとってその刻印は、製品に自分の名札をつけて売るようなもの。パーツごとの分業ではなく、一つの商品を一人の職人が責任を持って作り上げるからこそ、可能なことでもあります。

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これは買い手が作り手を意識するきっかけとなるだけでなく、職人のモチベーションにも繋がることです。

「職人さんの中には、小さい頃から私の成長を見守ってくれている方もいます。恩返しの意味もこめて、自信を持ってもらえるような環境を整えたいと思っています」

木の家で生まれ育ち、工場が遊び場だったという山本さん。身近で接してきたからこそわかる、職人の苦労や技術があります。それらを汲み取り、密にコミュニケーションをとりながら、より良い商品のあり方を共に考えているようです。

「せっかく職人さんが持っている技術を、まだまだ活かしきれていません。もっとポテンシャルを引き出して、私だからできるプロデュースをしていきたいですね」

ベテラン職人の技術を若い職人へと継承していくことも、山本さんのミッションの一つ。子供の頃は木に囲まれた生活が嫌だったそうですが、「今はとても楽しい」とやる気に満ち溢れた笑顔で語ってくれました。

日本の環境意識を変えたい

&CRAFTSのもう一つのテーマは、「サスティナブル」であること。そのためにも、商品の95%以上はFSC認証の県産材を使用しています。

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FSC認証は自然そのものや森の生き物、労働者など、森に関わるあらゆるもの・ひと・ことの権利を守るため、1994年に制定されました。取得するには森林管理から売買までの過程に設けられた、たくさんの条件を満たさなければなりません。

「この認証は、SDGsの17目標のうち14目標を満たすことができます。おそらく一番信用度の高い、世界基準の森林認証です」

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日本では海外産の安い材が輸入されるようになってから、木製品は大量生産大量消費の波に乗せられ、100円ショップなどでも手に入るようになりました。しかし、その木は適切に管理された森のものなのか、どこの誰がどういう労働条件で働いているのか、不透明な部分が多くあります。

その点、FSCの厳しい審査をくぐり抜けた商品は透明性が高く、それを買うことで森を守ることにも貢献できます。しかし、FSC商品を手に取ってもらうのは簡単なことではないようです。物の価値の判断基準が値段でしかないと、どうしても高く感じてしまいます。

「そもそも、日本人は森林や環境に対する意識が低いのが問題です。2017年の統計では、日本人のFSC認知度は約18%しかありませんでした。その後21.9%に改善しましたが、70%を超える国もある中で、日本が世界の平均を押し下げていることになります」

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企業の認証取得や維持には膨大な費用がかかる一方、消費者のFSC認知度が低ければ、FSC商品をつくっても売れません。ゆえに、企業が認証を持ち続けるメリットはあまりないのが現状です。環境への意識が低いためFSC商品は出回らず、環境を考える機会が一つ失われ、環境意識は高まらないまま……このような負の循環が起こっています。

「安く大量に、を追求してきた企業がいきなり変わるのは無理ですが、商品タグなど小さなところからでいい。色んな企業の考え方が少しずつ変わっていって、FSCが日本人の目に触れる機会が増えたらいいですね」

「木製品」というフィールドを超えて

「誰かがやらなければ、一生広まりません。だから、私がやる。どうしたら伝わるのかを日々考えて、実行していきます」

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環境問題という大規模な問題に向き合うために、山本さんはできるだけ多くの人と連携することを大切にしています。一緒に仕事をすることで、元々はあまり興味のなかった環境問題を自分ごととして捉えるようになった人もいるのだそうです。

「誰かの力を借りることで、自分の知識と能力以上のことができるようになります。木というフィールドにとらわれることなく、周りを巻き込んでいければ、FSCには満たせないSDGsの残り3目標をクリアできるかもしれません」

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木工業界とは違うジャンルとのコラボにより、多方面から環境問題へのアプローチも可能になります。例えば、飲食店とコラボをして作った木の箸や爪楊枝入れ。店内でそれを使ってもらうことで、お客さんは無意識にも環境問題との接点を持つこととなります。山本さんはそうした意図せぬ接点を日常に散りばめるべく、これからもファッションなど、業界を超えたコラボを進めていくそうです。

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持続可能な社会が実現するまでには、まだまだ長い道のりがあります。今はまだ、人々をスタート地点に立たせる段階です。山本さんは作り手と買い手の間に入り、何十年後を見据えて、目指す未来へと導く道をコツコツと整備し続けています。

&CRAFTS(アンドクラフト)
山梨県山梨市小原東248-1
TEL:0553-39-9783
http://andcrafts.s-hp.co.jp

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&CRAFTSの商品は、TSUMORIのWEB STOREでもお買い求めいただけます。環境に優しい雑貨類を取り扱っていますので是非チェックしてみてください。


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連載「土地と想像力」
本連載はTSUMORIと山梨市観光協会が協働で取り組む情報発信事業です。「土地と想像力」をテーマに、記号的な山梨とは異なる領域で土地を支えているヒト・モノ・コトを発信していきます。山梨県全域を対象に、自治体圏域に捉われない「山梨らしさ」を可視化することを目指しています。


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取材・執筆:おがたきりこ
写真撮影:田中友悟
協力:山梨市観光協会

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