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『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』 和田泰明

【前文】

 為政者という立場である以上批判はつきものである

 『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』横田一

 『女帝 小池百合子』石井妙子

 『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』和田泰

 2020年に出版された小池百合子に関する本は強烈だ。タイトルで好意的でないことがわかる。

 『女帝 小池百合子』は、小池百合子の凄まじい権力欲と、虚飾の経歴を克明に描いた傑作だった。

 以前に書評を書いたので、詳しい内容は、そちらを参照してほしい。

 さて、そんな『女帝本』とは違うアプローチで小池百合子に差し迫るのが『小池百合子 権力に憑かれた女 ドキュメント東京都知事の1400日』である。

 女帝本は、「小池百合子はどんな人間か?」という問いかけだったが、本書は「小池百合子は何をしたか?」と問いかける。

 強く取材を重ね、かなり細かい事実まで調べ上げている。著者の成果詰まった素晴らしい内容だ。女帝本ほど有名ではないが、かなりの良書であるため紹介したい。

【要約】


 小池百合子は常に仮想敵を生み出してきた、戦い続ける自分を演出し、有権者の支持を得るために。

 自民党東京都連のドン、内田茂。東京オリンピックにおける森喜朗やIOC。築地移転問題における石原慎太郎。コロナ禍においては菅政権を敵とした。

 仮想敵を一応『見かけ上』倒したのは見事だった。

 しかし、小池百合子はただ仮想敵を倒すことしかできず、その後の政治は混迷を極めた。

 得られた結果はほとんどない。むしろ時間的な空転を生み出したという面ではマイナスが大きいのかもしれない。

 そもそも小池百合子は具体的な公約の実現のために、立候補したわけではない。彼女の掲げたキーワードが「ブラックボックス」という言葉である。

『「東京都連の一員に名を連ねてきたが、正直申し上げて、ブラックボックスのような形でございました」  と、オフレコの場で口にしてきた都連への不満を一気に爆発させたのだ。
 小池は都連会長代理の職にあったが、都連の方針がごく一部で決まり、口出しができなかった。それを小池は陰で「ブラックボックス」と揶揄しており、やがてこれが知事選、翌17年の都議選のキーワードとなっていく。』(Kindle版946頁)

 具体的な公約の実現したいわけではなかった。パワーゲームの実現のために、東京都連のドン、内田茂に戦いを挑んだのである。

 彼女が手始めに標的にしたのは築地市場である。

  1935年に開場した築地市場は施設は老朽化しており、取扱量及び運搬車両の増大から、限界を迎えていた。

 1986年には築地市場の再整備計画が立ち上がるが、営業続けながらのの改修に業者から強い反発があり、96年に頓挫した。

 しかし、石原慎太郎都知事時代に再び議題にあがる。

 石原の計画に、当初民主党・社民党からの反発が強く、またしても頓挫するかと思われたが、この時に暗躍したのが、内田茂である。

 民主党の「移転に関する特別委員会」委員長花輪智史には東急系の会社への就職斡旋、相川博は自民党都議会の幹事長の用意させる。

 内田の敵を抱き込む巧みな戦術により、豊洲移転の予算案について議会の承認を得たのだ。

 しかし、小池百合子の登場により豊洲移転は大きく風向きを変える。

 『小池は築地市場の移転をストップさせた。それは内田が調整に調整を重ねた〝芸術作品〟に小池が一太刀を入れたことでもあった』(Kindle版1,084頁)


 その後、千代田区長選挙にて内田の応援する候補者が、都民ファーストの会の候補者に敗北した。この責任を取るとして内田は都議の引退を発表した。

 ただ、この一件で内田に恨みを買った小池百合子は、煮え湯を飲まされることになる。


 公共工事の入札不調。地方消費税の配分見直しによる東京都の税収の減額。芸術文化プログラム「Tokyo Tokyo FESTIVAL」のプロデューサーであるドワンゴ川上量生との関係の指摘。

 小池百合子は内田茂に接触し、助けを求めようとしたが、うまくいかなかった。


『小池は人を介して内田への接触を図ったようだが、内田は無視したという。
 「オレたちは『おっさん政治』だからな。応援のしようがない」
 内田はそう語り、腰を上げることはなかった』(Kindle版1,195頁)

 
 小池にとっては、単なる政争の具でしかなかった築地問題だが、都の調査により豊洲の建物に大きな欠陥があることがわかった。

『豊洲市場の土壌汚染対策として都の専門家会議が示していた「盛り土」がなされていなかったと明らかにしたのだ』(Kindle版1,610頁)

 
 小池に運が味方した。13年振りに百条委員会設置され、当時の石原都知事や浜渦副都知事の証人喚問が行われた。


『百条委を通じて明らかになったのは、幹部らの無責任体質だけで、都と東京ガスの水面下交渉の実態解明には至らなかった。……空振りの印象はぬぐえなかった。……この百条委員会が、市場問題という「劇場」のピークとなった。』(Kindle版1,719頁)

 

 その後の小池百合子は緊急会見の際に「築地は守る、豊洲は生かす」と述べる。


 『具体的な内容は、豊洲市場の追加の安全対策をした上で市場を移転し、物流センターの拠点とする。築地市場は売却せず、5年後をめどに再開発して「食のテーマパーク」とする。
 「(五輪後に)食のテーマパーク機能を有する新たな市場として、東京をけん引する一大拠点とする」
 この緊急記者会見での映像が繰り返し取り上げられることになるが、この「新たな市場」という一言は小池のミスだった』(Kindle版1,755頁)

 
 この発言は、根回しなど全くされず、側近である安藤立美すらも会見の一時間前に初めて知った。

 『記者から「築地は守る、豊洲を生かす」発表の経緯が情報公開されていない点を追及された時のことだ。
 「それはAIだからです」
 AI?
 「回想録に残すことはできるかと思っておりますが、その最後の決定ということについては、文章としては残しておりません」
  つまり、議論の積み重ねなどなく、自身の〝勘〟に頼ったものだと胸を張ったのだ。』(Kindle版1777頁)

 
 結局、小池の掲げた食のテーマパークは現在にも実現の予定はない。
 予定通り豊洲市場へ移転された。


 その後、小池百合子は、自身作った都議会の会派をベースに若狭勝や細野豪志らと希望の党を立ち上げる。
 しかし、衆院議員選挙では議席数50人に留まり、立憲民主党の55議席にも及ばなかった。
 その後、希望の党の代表は玉木雄一郎が務め、小池は、国政選挙からは身を引いていく。


【評価】


 小池百合子の第一期都政が表も裏も明らかにされている。
 レトリックに頼らず、事実の積み上げに終止しており、この点は、石井妙子の『女帝 小池百合子』よりも印象操作が少ない。客観的な立場からできるだけ描く、というスタンスは非常に好感が持てた。
 おそらくこれは著者が過去に山陽新聞で働いていたことも影響しているのだろう。山陽新聞時代にしていた県警取材で鍛えられたのだと思う。
 本書が初の著書となるが、次回作も楽しみである。本作のような扇情的ではない、職人気質な1冊を是非また読んでみたい。
 

 内田茂に関する記述は非常に良くまとまっていた。表に全く姿を表さない男の動きがわかった。まあ、内田茂を取りあげれば軽く本1冊かける程の男なので、面白いのは当然だけど笑
 また、要約では触れなかったが、東京オリンピックにおける小池百合子は、ある意味被害者でもある。まさに「ブラックボックス」である東京オリンピック関連事業予算は強い不信があったが、どうしようもなかった。開催国の東京には何の決定権もないことが改めてわかった。
 東京オリンピックにおける小池の「誤算」は、おそらく、民意があれば何でもできるという考えから来ているのだろう。実務能力の弱さが現れた形だ。

 また、量はなかったが上杉隆に関する記述も面白かった。

 『上杉は民進党幹部に接触を図った。ある国会議員が小池と直接話をしたいと言えば、上杉が小池に電話し、その場で代わって話してもらうこともあった。
 国政と距離を置いた野田数に代わり、紛れもなく小池の肉声を知る一人だった。
  私はそんな最中、取材現場で顔を合わせた上杉に「いろいろ動いているらしいじゃないですか」と話を振ったが、 「全く動いてないよ」 ととぼけられた。
 上杉は一部のメディアに情報提供する一方、自身の名前を出さないよう釘を刺し、黒子に徹した。』(Kindle版2,690頁)


 上杉隆は、記者クラブ批判で一躍脚光を得たものの、その後のTwitterでの発言や疑惑の経歴から世間的には高い評価を得ていない。NHKから国民を守る党の幹事長に就任したというニュースは驚きを通り越し、失笑してしまった。
 どこか胡散臭さの感じる上杉であるが、常に存在感の強さがあり、どうも不思議に感じていた。
 本書のおかげでそのあたりの疑問を少し解決することができた。小池百合子に関する情報源を持ったジャーナリストとしての力を発揮してるのか、とよくわかった。



【批判】


 本書に欠点らしい大きい欠点はないが、しいてあげれば少し読みにくい印象があった。
 章の並べ方に統一性があるようには感じられなかった。時系列順というわけではない。かといって連続するテーマで並んでいるわけでもない。
 例えば第3章の末尾には、内田茂に絡めて築地市場の話題に触れている。そのままの流れで、第4章で築地市場について語られるか、と思ったが、築地市場に触れるのは、次の次の第5章である。
 著者の意図も理解できるが読者のモチベーションとかも予想して章立てしてほしかった。



【感想】


 2020年11月。コロナウイルス第三波の流行を本格的に迎える最中。ある問題が立ち上がっている。
 小池都知事が東京でのGotoトラベルの中止をしない点だ。
 東京と同じ感染流行地の大阪の吉村知事や北海道の鈴木知事は、早々と決断し中止を決定した。
 他方の小池は、『Gotoトラベルの中止は国の権限』の一点張りで、中止の要望すらしない。
 
 国の権限である以上、たとえ国の活動に問題があっても、中止すら要望しない。
 これは為政者が取るべき立場なのだろうか。

 「Gotoイート」や「もっとTokyo(都民の都内限定宿泊割引)」を中止する一方で「Gotトラベル」を国の権限として黙認するダブルスタンダードには呆れて言葉も出ない。


 さて、小池百合子はなぜこのような行動を取るのか?
 理由を推察してみたい。


【小池百合子がGotoを止めない理由】


 1つ目『過去に東京だけGotoトラベルを除外された恨みがあるため。』

 Gotoトラベルキャンペーンが始まった当初、国は東京都をその対象から除外した。これは東京都に一切の相談なくされたことで、小池百合子は強い恨みを抱いていた。
 

 2つ目『東京都は2020年11月末段階では、まだ大阪や北海道と比較してコロナの流行が弱いため』

 これは数値上は事実である。東京都は単純な感染人数こそ人工規模から大きいものの、陽性率等の数値では大阪や北海道よりも低い数値である。
 それゆえ、観光業者のために経済政策を優先させた、ということである。


 3つ目『自民党幹事長の二階俊博に恩を売りたいため』

 二階俊博は全国旅行業界(ANTA)の会長を30年近く務めており、旅行業界とは蜜月の関係である。
 事実、Go Toキャンペーン受託団体が二階幹事長や自民党議員にに4200万円献金も行っている。

 『Go Toキャンペーン受託団体が二階幹事長らに4200万円献金』
https://news.yahoo.co.jp/articles/a4120e5b3bdc6be47183d25fd9d530ae3e04c731

 また小池は自民党出身ではあるものの、防衛大臣時代の勝手な行動やその後の都民ファーストの会の騒動等で自民党とは相当不仲である。
 そんな中、唯一小池の連絡が取れる自民党の権力者が二階なのである。
 

 『小池は2月4日、二階を自民党本部に訪問。その際、二階から防護服を中国に輸送するよう要望書を出され、即座に実行に移す。だが受け取ったのは、中国政府ではなく、世界有数のIT企業、アリババであった。アリババ創業者のジャック・マーが、中国と深く付き合ってきた二階に連絡をとり、防護服提供を要請していたのだった』(Kindle版521頁)
『自民党は、小池への対抗馬擁立を断念した経緯がある。党幹事長・二階俊博の側近、林幹雄幹事長代理が都議会自民党幹部に「エジプトに喧嘩売ることになるぞ」と待ったをかけた。要は二階の圧力である。前のめりの一部都議や共産党との調整に手間取り、開会時間が遅れたというわけだ』(Kindle版116頁)
『19年度予算で「小笠原航空路調査」が財務局査定より3億7000万円も増額されたのだ。……運輸族の二階は……かねてから空港設立尽力させており15年に「小笠原を守る会」を発足させたほどだ。それに答える形で小池は多額の予算をつけたのだった』(Kindle版3,077頁)



 二階の要望が出ているのは容易に想像できる。
 もちろん、これは考えられる最悪の理由だが、可能性は強く残る。
 このあたりが真実かどうかは数年後に記者が暴けるかによります。
 まあ、現在の二階俊博のGotoトラベルに対する態度が一つの答えだとは思いますがね。



『小池都知事「GoToは国の責任で判断を」』 https://www-tokyo--np-co-jp.cdn.ampproject.org/v/s/www.tokyo-np.co.jp/amp/article/69873?amp_js_v=a6&amp_gsa=1&usqp=mq331AQFKAGwASA%3D#aoh=16060961872892&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&amp_tf=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9%3A%20%251%24s&ampshare=https%3A%2F%2Fwww.tokyo-np.co.jp%2Farticle%2F69873

 

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