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ツキノベルス一気読みマガジン

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【小説】noteに投稿した小説をまとめました
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記事一覧

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第八話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第八話

 佳乃が通う高校の制服はセーラー服と学ラン。

 翼の隣に立つアヤトは学ランの前を開けている。中に着た白いシャツのまぶしさに翼は目を細めた。戒めるように。

 そしてセーラー服のリボンを指でトントン、と叩いた。

「アヤト」

「はいはーい……。君は家でもそうだよな」

 アヤトは苦い顔でボタンを留めた。下校途中の女子生徒の視線を感じると、彼女たちをウインクで射抜いた。

「今回はどうするの? 俺

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第七話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第七話

 睦月のクラスでは最近、例の魔女と手下の話題で度々盛り上がる。

 彼が何の話をしに行ったかは言えなかったが、実際に会ってみた感想を話すとクラスメイトが食いついた。

「いい人だったぜ。お茶もうまかったしお菓子も出してくれたし」

 朝のホームルーム前の教室。

 生徒のほとんどが睦月の席を囲んでいる。皆一様に魔女のことに興味津々だ。

「そのお茶って庭で採れたハーブティーとか? お菓子は魔女の手

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第六話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第六話

 この日も夕方に相談者が現れた。

 今日も雨が降ったが、時間が経つにつれて雨が止み雲がちぎれ、今は綺麗な夕暮れの空が広がっている。家の中にオレンジの光が射しこんできた。

 この日の相談者はいつものような高校生ではなく、翼より年上のOLだった。

 黒髪を後ろでぴっちりとまとめ、黒いジャケットにパンツ、ブラウスを合わせている。随分真面目そうな人だ。

 彼女は丸椅子の上で一礼した。

「妹から不

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第五話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第五話

 翼は秋の雨が嫌いではない。

 色づき始めた木々をしっとり濡らし、物憂げな秋の匂いを濃くする。その切ない香りでノスタルジーになるのが好きだ。

 今日も秋雨の中で散歩をしようと家を出た。しかし、帰ってきたアヤトによって押し戻されてしまった。

 彼はおもむろにジャケットとネクタイをとると、二階へ上がった。

 なんだかいつもと様子が違う。翼は上着を脱ぐと彼の後を追った。

 自室で寝たかと思いき

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第四話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第四話

 ある日の夕方。翼が晩御飯を考えていたら、チャイムの鳴る音がした。

 玄関のドアを開けると女子高生が立っていた。ストレートの長い髪が綺麗だ。

「こんにちは」

 翼から声をかけると、彼女は深く頭を下げた。

 ずいぶん大人びた見た目だ。身長もそこそこある。翼は160センチあるが、彼女はもう少しありそうだ。

「相談者さんかしら?」

 問いかけると彼女はうなずき、表情が崩れた。目からは大粒の涙

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第三話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第三話

 アヤトと初めて食べた晩御飯はハンバーグだった。しかも彼の手作り。ハンバーグソースもちゃちゃっと作っていた。ケチャップとウスターソースを合わせ、独自にスパイスを加えていた。

 手作りのポテトサラダにコンソメスープ。ホカホカのごはんもある。

(わ~……おいしそ……)

 翼は久しぶりの上げ膳に激しい空腹を感じた。こんなに手の込んだ料理はここ何年も作っていない。

 仕事のストレスが心に来て、毎日

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第二話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第二話

 仕事の昼休憩。

 今年で27になった翼は公園のベンチに座っていた。

 秋の訪れを告げる爽やかな風が吹いている。翼はこの季節が一番好きだ。暑くもなく寒くもない季節。年がら年中この気温だったらいいのに、と毎朝願ってしまう。

 お腹も空いたことだし、と翼は膝に視線を落とした。

 膝の上に広げたのはコンビニで買ってきたサンドイッチ。ここはオフィス街で、昼間になるとコンビニや定食屋はあっという間に

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気まぐれ悪魔と魔女の孫 第一話

気まぐれ悪魔と魔女の孫 第一話

【あらすじ】
 君はどうしてつまらなさそうな顔をしているの────
 仕事をするだけの毎日。都会での仕事に疲れた翼は、田舎の実家で心穏やかに過ごそうと計画する。
 しかし、実家には悪魔が住み着いていた。
 金髪碧眼の彼は”アヤト”と名乗り、かつて魔女と呼ばれていた翼の祖母の知り合いだと話した。二人はとある理由によって、共に人助けをしていたらしい。
 都会を出てスローライフ……が、悪魔との奇妙な共同

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時の女神の宿命 設定集

時の女神の宿命 設定集

(ネタバレ注意)
 どうも、堂宮ツキノです。

 私には中学生の時からずっと頭に描いている人物がいます。
 それは時の女神、運命(さだめ)。どちらの設定も学校の音楽の授業で知った曲から取ったものです。
 彼女の物語を書きたいと思い立ったのが高校生の時。その時は戯人族と絡めなかったのですが、彼らのことを書く内に「関係ないわけない」と思い立ちました。
 そして書き直したのが今回の作品、「時の女神の宿命

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『レイヤーさんの社内恋愛』設定集

『レイヤーさんの社内恋愛』設定集

 どうも、ツッキーです。
 エブリスタにてリメイク版を公開しました、『レイヤーさんの社内恋愛』。今回はこちらの設定や裏話を語っていきます!

 こちらはツッキーがコスプレを始めてから一年経った頃に書いた作品です。
 休止期間もありましたが、コスプレイヤーになってから”ピー”年が経ちました。
 コスプレ関係の出会いや別れを経験した今だからこそ書けるものがある! と思い立ち、リメイクすることにしました

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『推しのおじさんにガチ恋しない』設定集

『推しのおじさんにガチ恋しない』設定集

 どうも、ツッキーです。
 創作大賞2023に応募しました、『推しのおじさんにガチ恋しない』略して『推しおじ』。
 いろいろと設定や裏話があるので、備忘録として投稿することにしました。
 本編と合わせてお楽しみください!(ネタバレ注意です)

 本編はこちら↓↓↓

 エブリスタではスター特典として後日談を公開しております。こちらもぜひ! ↓↓↓

設定〇地名など

 私は関西が好きです。平均で月

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桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第三話

桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第三話

 桜の精は征司よりも少し年上の女の姿をしている。

 式神を見つけた時の彼女は山姥のように見えたが、今はただの年頃の娘にしか見えない。

 彼女は征司と二人きりになると口をつぐみ、髪色よりも濃い紅を頬に差した。

 征司は地べたに座り込み、彼女を見上げてニカッと笑った。

「噂はよく聞いてたぜ。ウチの義兄弟があんたのことを見たことがあるって言ってた。そいつはサスケっていうんだけど…」

「知ってる

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桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第二話 

桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第二話 

 むせかえりそうな桜吹雪に包まれ、意識を失った小紅は、自分が地べたに寝かされていることに気が付いた。

(ここは……)

 体を起こして周りを見回すと、辺り一面に桜の花弁が散らされている。土が見えないほど埋め尽くされていた。

 空はなく、薄紅色の背景が広がっていた。どこから降ってきているのか、常に桜の花弁が舞っている。

 とても美しい、見たことのない場所だ。

「目が覚めた?」

 彼女のそば

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桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第一話                                                             

桜嵐~古今東西人外異聞録~ 第一話                                                             

 征司(まさし)は幼い頃から神社に通い、神主に会うのが好きだった。いつも簡素な小袖と袴を身につけ、静かで穏やかに笑っていることの多い人だった。いつも征司のことを優しく見つめ、頭をなでる。

 彼は征司にこの世界の不思議な話を聞かせ、小さな村で外の世界を見せてくれた。

────いつかこの村を出なさい。お前にはもっと自分を活かせる場所が他にあるはずだ。

 神主のこの言葉は征司の耳に残り、いつしか外

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