見出し画像

ショートショート。のようなもの#22『食べたくて…食べたくて…。』

 その女は、両手に一つづつ大きな牛の胃袋を持って店の前に立っていました。

 数日前に、この食べ放題のお店で「食べ物をタッパーに詰めて帰るのは禁止。」だと注意されたからです。

 でも、何がなんでも元を取りたい女は、タッパーではなく臓器に収めるなら食べたのと一緒だからルール違反にはならないだろうと考えました。

 そして、女は郊外にある牧場へ出向き、元々胃袋が沢山あると言われている牛から胃袋をもらったのでした。

 ただし、牛のお腹にはお返しに幾つかのタッパーを詰め込んであげました。

 女は辛うじてギブアンドテイクという言葉は知っていたからです。

*****

 ───そして、女は今、身体中に藁屑をつけながら両手に牛の胃袋を持って、この食べ放題のお店に舞い戻ってきたのです。

 あまりの出来事に、店員は目を白黒させながら、渋々、女を席に案内しました。
  
 とにかく元を取りたい女は、席に着くや否や鷲掴みした食べ物を牛の胃袋いっぱいに詰め込み始めました。

 どんどん注文して、どんどんどんどん無我夢中で食べ物を詰め込んでいきます。

 元々、草食動物の牛の胃袋は、ときにお肉が入ってくると拒否反応を起こして吐き出したりもしました。

 それでも、女はとにかくお腹いっぱいに、胃袋を満腹にしたい一心で食べ物をどんどんどんどん無我夢中で詰め込み続けました。

 そして、ついに、食べ放題の制限時間が終わり、満足気な表情を浮かべた女は支払いを済ませて、パンパンではち切れそうになった牛の胃袋を両肩から背負うと、繁忙期のサンタクロースみたいな格好で店をあとにしました…。

 が、しかし女はすぐに向かいのハンバーガー屋さんに入っていきました。

 なんせ自分のお腹が、グーグーと鳴っているのだから…。

            
        
                 ~Fin~

【この物語の即興落語版はコチラから】

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?