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雨音

さらさらと雨の音が響く朝、
耳の奥をくすぐられているみたい。

今日が日曜日であることに心底ホッとする。

まだ布団から出たくない。このまま永遠に雨音を聞いていたい。いつまでも。



そういえば、あの人に会う日もよく雨が降っていた。買ったばかりのスニーカーを履いて会いに行く。白いコンバースが汚れることさえも、心が弾む魔法のように思えた。いつだってわたしの足取りは軽かった。


好きな人にただ好きだと伝えることが、こんなにも難しく、もどかしく、切ないものだったなんて、知らなかった。あの人に出逢うまでは。




恋愛というプロセスにおいて、わたしはなんのスキルも持ち合わせていない。昔から恋愛そのものにあまり興味がなかったから。ただ相手に求められるまま、本当の自分に蓋をして、受け入れるだけの関係。

「毎日、彼に会いたい」
「彼に会えなくてつらい」
そんな友達の悩みには、1ミリも共感したことなどない。


わたしはずっと孤独から抜け出したいと思っていたけど本当は、本当は…孤独を誰よりも愛し、求めていたのかもしれない。
孤独という世界に慣れすぎて、まるでその世界が自分の居場所であるかのように。



でも。あの人に出逢って世界がガラリと変わった。ずっと長い間、閉ざされていた秘密の扉がひらいてしまったのかもしれない。真っ暗闇にただ浮かんでいただけの心臓が動きだした瞬間、すべてが光に変わり始めた。



もうあの人は遠くへ行ってしまったけれど、誰よりも近くにその存在を感じる。いつだってその温かさに触れることができるから、不思議だ。


最後にあの人と会った日。雨上がりの公園で見つけたタンポポの綿毛みたいに、ふぅーっと息を吹きかけたら、あっという間に空へ飛んでいってしまったね。

どこまでも優しかった。

淡い恋心を教えてくれた人。
 



わたしはまだ布団から出られずにいる。


雨は相変わらずさらさらと、優しい音を響かせていた。


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