見出し画像

#04 海の家のような風通しのよさ パリ4区「ル・プロトンカフェ」

こちらのエッセイはパリの珈琲にまつわるetcの連載マガジンです。その他の記事はこちらからどうぞ。


期待しないで入ったカフェがとても心地よくて、よいバイブレーションに溢れていると嬉しくなる。
まとまった書類に目を通しておきたくて、この辺りで…と私のマップに入っている「行ってみたいカフェ」リストを開いた。そんな風にしてマレ地区の入り口にある「Le Peloton Café /ル・プロトンカフェ」を期待せず、そして実は少し躊躇しながら訪れた。


モダンでシンプルな店内

「プロトン」とはどう言う意味か。自転車レースがお好きな方ならピンとくる方もいるかも知れない。そうでない方は読み飛ばしていただいてかまいませんが、レース中に生成される順位がトップの選手を含む集団のことで、よくツール・ド・フランスなどで大勢の選手が連なって走っているのを見かけるあれがプロトンです。

そんな命名からも伺い知れるように、自転車好きが集まるカフェのようである。正直私は自転車に関しては好きでレースは観ることもあるけれど、熱中しているかと言えばそこまでではない。テレビでツール・ド・フランスを観てフランスの各地の美しい景色を堪能するのは楽しいけれど、ウェアを着てレース自転車に乗るほどではない、という程度のゆるい自転車好きだ。

なのでこの手のカフェはいわゆるかなりの自転車愛好家が集まって独特の盛り上がりをみせていて、きっと門外漢には居心地が悪いのではないか…と一見さんのわたしは敬遠していた。
でももう他を探す時間もなかったのでえいや、という気持ちで店に入ったのだ。

レジで先に注文し、名前が呼ばれるのを待つ。こちらも英語圏の店員さんで、フランス語は片言。私もフランス語に関しては同じようなものなので特に気にならない。
チャーミングな看板犬が店内をうろうろしたり、そこらへんで寝ている。

書類を広げて読み始めた頃に名前を呼ばれフラット・ホワイトが運ばれてきた。犬も寝そべるゆるい雰囲気の中、心地よい音楽がかかり、お客さんは店員さんたちと楽しそうに話している。本当に風が吹いているわけではないけれど、なんともいい風が通り抜けるまるで海の家のような空間だ。

もふもふの看板犬くん。次回は名前を聞こう。


店内にはロードバイクかかっていて、簡素で清潔感がある店内も好感が持てる。スーツ姿で一人コーヒーを飲んでいる英国人と思われるムッシュー、犬を撫でている学生さん、通りがかりの観光客、終始パソコンでお仕事中の若い女性。自転車愛好家ばかりかと思っていたらそのような人はその時はおらず、それぞれの人々にはあまり共通点はなさそうで、それが暑苦しくない要素なのかもしれない。

大胆に壁にかけられたロードバイク

こっくりと濃いめでミルクが控えめの好みのフラットホワイト。アロハシャツに足元はビルケンのサンダルというスタイルの店員のお兄さんがほいっとつくった一杯。けれどもその模様の美しさやミルクとコーヒーの配分は完璧に近い精密さだ。

お店の雰囲気とその一杯のコーヒーの味で再訪したくなるかが決まる。その「雰囲気」とはインテリアやメニューのこだわりではない。
パリの街角と同じようにそこに居る人々と誇りを持って作られた美味しいものがさりげなく溶け合う空気感がその雰囲気なのかもしれない。
そしてその「ゆるさ」「風通しのよさ」の類いは、作り出されるというよりも化学反応的偶発性によるものだ。そこがカフェという空間の面白さだったりする。

店をでると、ちょうど数歩先をあの看板犬が店員さんと散歩に出たところだった。
ふたりの後ろ姿を見つめながら、またあの床に寝そべるもふもふの毛を撫でに来ようと思った。


Le Peloton Café
17 rue du Pont Louis Philippe Le Marais, 75004 Paris
mon-fri 8:00-17:00
sat & sun 8:00-18:00


この記事が参加している募集

私のコーヒー時間

サポート代は連載中のパリのカフェ手帖「フラットホワイトをめぐる冒険」のコーヒー代や美術館エッセイ「カルトブランシュ・ミュゼ」の資料代にあてさせていただきます。応援よろしくお願いします!