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村上主義

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村上主義者

村上春樹の文学が日本にとどまらず、世界中で評価され続けているのは死者の存在をもってして現実のリアリティを描きだすからである。

そんな村上文学を崇拝する諸読者を村上主義者という。公認ではない。

ここでは村上主義者の思想を追体験してもらえるように村上文学の魅力を凝縮して説明する。

いま一度言う、村上が国内の人気にかかわらず、世界的文学者と称されるのは、「死者」という存在しないがゆえに消滅すること

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村上比喩

影についての比喩

まず、横顔が浮かび上がってくる。これはたぶん僕と直子がいつも並んで歩いていたせいだろう。だから僕が最初に思い出すのはいつも彼女の横顔なのだ。それから彼女は僕のほうを向き、にっこりと笑い、少し首を傾げ、話しかけ、僕の目を覗き込む。まるで済んだ泉の底をちらりとよぎる小さな魚の影を探し求めるみたいに。(森。

「でも、殺したんだよ、この手で。殺意なんてなかった。僕は自分の影を殺すみた

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羊をめぐる冒険 途

主人公の僕は30を目前に離婚し、一人になってしまう。しかし、その直後「僕」の前に新しい女性が現れる。彼女は耳専門のモデル、出版社のアルバイト校正係、高級コール・ガール・クラブの娼婦という三つの仕事をしている21歳の女の子。「僕」は「彼女」の耳に想像を絶する魅力を感じてしまう。彼女の耳は人を魅了し、未来を予知する特別な力を持っていた。彼女はその能力によって「羊をめぐる冒険」が始まると予言する。
その

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「1973年のピンボール」

主人公の「僕」は社会人になった。三年前に死んだ恋人・直子の事を忘れるために、彼女が住んでいた町を訪れてみた。しかし彼女の事を忘れることはできなかった。そこから「僕」と「鼠」、それぞれの物語が交差することなく、ほぼ交互に描かれている。
「僕」は大学を卒業し、友人と始めた翻訳事務所で働いている。いつの間にか家に住み着いてしまった双子の姉妹と、「恋人のような奇妙だが、平穏な生活を続けている。しかし、ある

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風の歌を聞け

小説を書きたいと思いながら、なかなかうまく書くこと尾ができなかった主人公の『僕』。20代の最期を迎えた年に、ある小説を書くことを決意する。
物語の本編は、当時21歳の「僕」から始まる。東京の大学に通っている「僕」は、夏休みに故郷である海辺の町に帰ってきた。故郷には、高校時代からなじみのバー「ジェイズ・バー」があり、友人の「鼠」がいる。「僕」と「鼠」は、「ジェイズ・バー」で毎晩のようにビールを飲んで

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