死体蹴り #3


「みんなトドみたいじゃない?」

そう言いながら笑う加奈に私は戸惑いを隠せなかった。

32歳。

20代の頃とは違い、体はだらしなくなったし肌だって悩みも増えた。
ああ、歳をとった。最近は人様の目に触れるのでさえ億劫になる。
そんな私とってこの写真はあまりにも衝撃的なものだった。

「5人いるんだけどみんな年齢もバラバラなの。
この人は私の10個上でしょ。この子はまだ20代。そうそう、この人は52歳だよ。あと1人は私と同世代ぐらいだっけ。ラブホテルで撮ってもらったんだけど、ベッドもすごく大きくてさ…」

楽しそうに話す加奈のスマホには
ベッドの上できれいに並んで横たわってる裸の女性が確かに5人写っていた。

「何で…」

「何が?」

「何でみんな裸なの?」

やっと声がでた。

「ビックリさせちゃったね。ごめんごめん。
でもみんな、綺麗でしょ。」

加奈は子どものような笑顔で私を見た。

お世辞にも綺麗とは言えなかった。
当たり前だが体の形はそれぞれだ。
胸が小さかったり太ももが太かったり。
お腹が出ていたり、二の腕が細かったり。

芸能人のような綺麗な体とは決して言えない。

だが、一目で伝わるほど皆楽しそうなのだ。
とびっきりの笑顔とどこか色気のある写真。

これはそうだ。そっち側の人間だ。
キラキラした世界で生きている人たちの目だ。

「AV女優になったの?」

率直な私の質問に目を丸くしすぐに大笑いをしながら否定した。

「違うよ。でもAV女優も素敵だよね。女性はみんな、素敵なんだよ。もちろん、美香も私も。」

「私たちはね、女性である以上宇宙と繋がっているんだよ。子宮があって、産道を通って、生命が誕生するでしょう?簡単に言ったけどこんなに神秘なことは他にはないと思うの。美香はちゃんと体の声、聞いてる?久しぶりに会ったけど、美香、沢山我慢してるでしょう。分かるよ、私もそうだったから。でもね、そのままだと病気になっちゃうよ。」

一体何を言っているのだ。
ゆっくり話してるのに何も入ってこない。何か変な宗教にでもはまってしまったのか。

「美香、今辛いでしょう?そんなに自分を責めなくていいんだよ。私たちは何よりも神秘的で絶対的な存在なの。それからね、」

加奈はコーヒーを一口飲み少し落ち着いてまた話し始めた。

「私たちはね、自分を生きていいの。」

加奈がそっと、私の頬を撫でた。

理解ができない。脳が完全に麻痺したような感覚に陥っている。


なのに私は泣いていた。

時計を見ると午後2時を指していた。

#小説 #短編小説

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