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小学校社会科の授業づくり 教材設定のポイント…というか思うこと ~5年生「我が国の工業生産」を例に~


 前回、「小学校社会科の授業づくり 3つのポイント ~単元編~」の中に、5年生の「我が国の工業生産」を例の1つに挙げました。


 実は挙げた例の中に、自分の隠れたメッセージを入れていました笑
 
 この点については…今回のnoteと照らし合わせて、読み取って下さった方がいたら嬉しいです笑

 

 ここでは、5年生「我が国の工業生産」を例に、授業づくりで教材設定をする際に考えるべき(と自分は個人的に思っている)ことについてまとめてみます。

1 5年生「我が国の工業生産」=自動車産業となっている現状

 

 小学校5年生が「我が国の工業生産」について学習する際、自動車産業を主な教材にすることが多く見受けられます。
 これは、自分の身の回りもそうですが、教科書や資料集などもそのようなつくりになっています。

 もちろん、それ以外の産業も教材になることがありますが、その場合は資料をその都度自作するなど、結構な手間だったりします。

 

 確かに、自動車産業は2020年にトヨタが販売台数世界トップに返り咲き、日産・ルノー・三菱グループが第3位に位置付くなど、今でも日本を代表する産業であることは間違いないです。
 ちなみに、大きな声では言えませんが、自分もトヨタ車に乗っています。学生からしばらくはスバル車に乗っていて…話が逸れそうなのでこのあたりでやめます(笑)

 

 そのため、5年生「我が国の工業生産」=自動車産業というのは、小学校現場では定着している場合が多いです。
 ※地域によります。

 

 ただ、結構前から疑問だったんです。



 自動車産業を学べば、「我が国の工業生産」を学んだと言える??


  澤井 陽介・唐木 清志『小中社会科の授業づくり—社会科教師はどう学ぶか』で、そのことについて少し触れられていました。

社会科の授業で時折見られる課題は、事例そのものが学習内容になってしまうことです。たとえば、「○○自動車工場の仕事を事例にして日本の工業生産の特色を学ぶはず」が、「○○自動車工場の仕事を事例にして○○自動車工場のことを詳しく学んで終わり」となってしまうのが典型例です。

澤井 陽介・唐木 清志『小中社会科の授業づくり—社会科教師はどう学ぶか』p107

 

 つまり、「自動車工場の事例を調べてまとめた」までは良いが、子どもが自動車工場、もっと言えば自動車産業を事例として、日本の工業生産について考え、表現し、概念的に理解していこうとする授業にまで引き上げる必要がある、という指摘です。

 全くもってその通りだと思いました。

(しかしながら、前回記事でも触れましたが、全ての教科について小学校担任が十分に教材研究しようというのは無理な話なので、このような授業になってしまう場合も致し方ないと思っています)

 ただ、実は自分の疑問はもう少し異なりました。

 自動車産業を学べば、「我が国の工業生産」を学んだと言える??


 繰り返しました笑


 ただ、疑問が大きいので、整理して考えていきます。


 疑問①そもそも「我が国の工業生産」とは?

 疑問②「特色」を捉える、とは?


2 疑問①そもそも「我が国の工業生産」とは?


(3) 我が国の工業生産について,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 我が国では様々な工業生産が行われていることや,国土には工業の盛んな地域が広がっていること及び工業製品は国民生活の向上に重要な役割を果たしていることを理解すること。
(イ) 工業生産に関わる人々は,消費者の需要や社会の変化に対応し,優れた製品を生産するよう様々な工夫や努力をして,工業生産を支えていることを理解すること。
(ウ) 貿易や運輸は,原材料の確保や製品の販売などにおいて,工業生産を支える重要な役割を果たしていることを理解すること。
(エ) 地図帳や地球儀,各種の資料で調べ,まとめること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア) 工業の種類,工業の盛んな地域の分布,工業製品の改良などに着目して,工業生産の概要を捉え,工業生産が国民生活に果たす役割を考え,表現すること。
(イ) 製造の工程,工場相互の協力関係,優れた技術などに着目して,工業生産に関わる人々の工夫や努力を捉え,その働きを考え,表現すること。
(ウ) 交通網の広がり,外国との関わりなどに着目して,貿易や運輸の様子を捉え,それらの役割を考え,表現すること。
文部科学省『小学校学習指導要領解説 社会編』(2017)

 

 我が国の工業生産の代表格の1つが自動車産業であることは、その通りだと思います。

 しかしながら、自動車産業を事例に「我が国の工業生産」を学ぶとすれば、

 自動車産業の特色は、(おおよそ)「我が国の工業生産」の特色である


と、子どもが言えるようになる必要があります。

 
 少しだけ整理します。

 現行の学習指導要領に立ち返りますが、全部引用すると長いので、少しかいつまみます。
 
 まず、「優れた技術」についてです。

優れた技術に着目するとは,産業用ロボットなどを活用したオートメーションなど大規模工場の生産システム,消費者の需要や社会の要請に応える生産の仕方,中小工場での技術を生かした生産の様子,新しい分野に挑戦する研究開発などについて調べることである。(同上p.82)


 つまり、「我が国の工業生産」における「優れた技術」の、ざっくりとした定義がこれになります。

 確かに、自動車産業はこれらの定義をほとんど満たしています。

 ただ、職人さんの技術やベンチャー系の取組まではカバーできないかもしれません。
(カバーする必要があるかないかは、また検討すべきことですが)

 


 次に、内容についてです。


(内容の取り扱い)
ア アの(イ)及びイの(イ)については,工業の盛んな地域の具体的事例を通して調べることとし,金属工業,機械工業,化学工業,食料品工業などの中から一つを取り上げること。(同上P.86)


 学習指導要領には、取り上げるべき工業として大きく4種が例示されています。

 必ずしも、重工業に限っていません。「優れた技術」等が学べれば、軽工業でも問題ないのです。

 

 「我が国の工業生産=自動車産業」の構図だと、重工業、とりわけ機械工業が前面に出てくることになり、
理解が浅いと「我が国の工業生産=機械工業」となってしまう可能性もあります。


 化学工業や食料品工業にも、日本を代表する産業はあります。


 しかしながら、化学工業や食料品工業も、立派な「我が国の工業生産」であると実感するには、やはり多少なりとも具体を学習する必要がありそうです。


 ちなみに、教科書とは別に準備する資料集を、数社見比べてみました。
自分が確認できた限りですが、ほとんどが自動車産業にページ数を割いており、それ以外の産業について書かれていたのはわずかでした。


 「我が国の工業生産=機械工業」になりやすい現状かもしれません。



3 疑問②「特色」を捉える、とは?



 「我が国の工業生産」を含め、第5学年の社会の思考力・判断力・表現力等の目標は、次のように書かれています。


社会的事象の特色や相互の関連,意味を多角的に考える力,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断する力,考えたことや選択・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。(同上P.70)


 ここからは、思考の第一目的は、社会的事象の「特色」を考えること、とわかります。
最終的に概念的な知識として獲得することを踏まえると、「特色を捉える」と言い換えてもよいかもしれません。

 

では、「特色」を捉えるとは、どのような状態なのでしょうか?

 「特色」について整理してみます。

 ネット等で「特色」と調べると、

他と特に異なっているところ。他のものよりすぐれて目立つ点。

 とされています。

 今回の場合ですと、「我が国の工業生産」について、「他と特に異なっているところ」が「特色」となります。


 そうすると、自動車産業の事例に着目しすぎると、子どもにとって、

その特色が「自動車産業」特有のものなのか、

「我が国の工業生産」の特色なのか、

見分けることが難しくなる
ように思われます。

 
 

 自動車産業がたまたま 協力工場 と 組み立て工場 で成立している産業なのか、

 それとも多くの工業が、部品や材料を各地から集め、最終的に製品にしているかは、

 自動車産業だけ見ていてはわかりません。

 では、どうすればよいのでしょうか。


 もし、自動車産業を含めた、「我が国の工業生産」の特色が分かる業種を2つ以上扱い、その共通点を見出したとしましょう。


共通点



 そうすれば、その共通点は、「我が国の工業生産」の「特色」といえるかもしれません。


 具体的に深く追究するのは、自動車産業で良いと考えます。

 例えば、自動車産業について学習した後に、

「他の工業についても、同じ所はないだろうか」

として、子ども一人一人が調べてもよいかもしれません。

 せっかく一人一台PCも定着してきていますしね。

 

 そうすれば、疑問①「我が国の工業生産=機械工業」になりやすい現状も、改善されるように思います。


4 教材を設定する際に考えるべきこと

 

 5年生「我が国の工業生産」から、教材の設定について考えてきました。

 小学校社会科で教材を設定する際は、特色を考えることが目標となってきますが、


1つの教材だけに着目すると、その教材だけが、その産業等、つまり社会的事象の全てだと感じてしまう可能性があること

1つの教材だけでは、その社会的事象の特色はつかみにくいかもしれないこと


そのため、複数の教材を設定することで、より社会的事象の「特色」を捉えやすくなることが考えられます。


ぜひ、社会科の授業を考える際の参考にしてみて下さい^^



最後までお読みいただきありがとうございました☆

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