紙幣3148176

MMT(財政赤字は問題無いという理論)は、やはり危険

米国でModern Monetary Theory(現代金融理論、以下MMTと記す)と呼ばれる経済理論が話題となっています。

大胆に簡略化すれば「政府が自国通貨で借金をしても、紙幣を印刷して返済すれば良いのだから、破産する事はあり得ない。だから財政赤字は原則としては問題ない。ただ、財政赤字を無制限に拡大しても良いというわけではない。財政赤字が膨らむとインフレになるので、インフレ防止のためには増税が必要だ」というものです。

伝統的な経済学理論とは大きく異なるもので、経済学の巨頭たちが激しく批判していますが、反対から考えれば、彼等が無視できないほど米国では話題になっているという事なのでしょう。

私は、日本経済に関しては財政赤字楽観論者ですが、それでもさすがにMMTは危険だと思います。その理由は、インフレは制御しにくいものだからです。

仮に「財政赤字が10%増えたらインフレ率が1%高まる」といった安定的な関係があるのであれば、MMTにも一理あると言えるでしょうが、実際にはそうではありません。

財政赤字が膨らむと、世の中に資金が出回ります。人々がインフレを予想していない時は、人々が受け取った金を銀行に預金し、銀行がそれを準備預金するので、何も起きません。今の日本は、まさにその状態にあります。

しかし、これは地震のエネルギーが蓄積されているような状態なので、危険です。ある時人々がインフレを予想すると、一斉に銀行預金を引き出して「買い急ぎ」をするからです。銀行は準備預金を引き出して預金者の払い戻しに応じるでしょう。そうなると、買い急ぎが買い急ぎを呼び、急激にインフレ率が高まって行くでしょう。

もちろん、日銀が引き締め政策等によりインフレを抑制するでしょうから、ハイパーインフレにはならないでしょうが、かなり経済や金融に混乱が生じるでしょう。

問題は、「そうなる場合の被害の期待値」と、「財政赤字を嫌うが故の性急な緊縮財政が景気を悪化させてしまうリスクの期待値」との兼ね合いが重要だ、という事です。「財政赤字そのものには何の問題も無い」と考えるのは能天気すぎるでしょう。

日本は、比較的インフレになりにくいでしょうが、米国は結構インフレになりやすいかも知れません。しかも、米国がインフレになって経済金融が混乱すると、基軸通貨であるドルの世界的な流通に問題が生じて、世界中が大きな迷惑を被るかも知れません。

したがって、日本ではともかく、米国でMMTの「実験」をするのは、危険すぎるので、是非やめて欲しい所です。まあ、「アメリカ・ファーストだから、諸外国への迷惑のことは考えない」と言われてしまえば、それまでですが。


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