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幕引きに突如溢れ出した涙

高校の頃に知り合った同級生のEさんは、生徒会長を務めていた。


彼女は天真爛漫にして明るく、誰にでも慕われる性格の持ち主である。ゆえに成績は常に上位トップに入る勤勉さを誇っており、まさに生徒の鏡のような存在でもあった。

私も一年生の時に出会った当初は、少なからず会話を交える機会はあった。だが進級に伴ってクラスメイトでなくなると同時に、彼女が生徒会長に就任を果たすと、自然と話すことはなくなってしまうのである。

一年に何回か行われた生徒総会で、壇上に立つその姿はいつも凛としている。私にはつい最近まで気軽に話していたのに、いつの間にか雲の上のような存在としか認識することができなくなってしまっていた。

もはやEさんは不動の地位を確立している。それこそ無敵とも呼べるほど曇り顔を一つも見せることなく、ある意味で向かう所敵なしの状態だった。


しかしそんな彼女の、十年以上経った今でも信じがたく、忘れることのない一面を見てしまったのだ。


それは、高校生活最後となる文化祭の最終日のこと。大役でもある生徒会長の挨拶で締めくくり、その場にいる誰もが惜しまれつつも拍手喝采を送り続けるという大団円で幕を閉じた。

その文化祭が終わった直後、彼女は突然泣き出したのだ。

何の前触れもなく膝を落とし、口元を手で隠し、まるで一本の糸が切れたかのように号泣し始める。その姿に驚きを隠せなかっただろう、最前列にいる何人かが騒ついていた。

その後、教師や生徒会の人間に付き添われ、閉会式の会場である体育館を後にしていく。一体彼女の身に何があったのか、そう思わざるを得ないと全校生徒たちに見られながら。

どうして、彼女は急に泣き崩れてしまったのだろうか。彼女とその親しい友人を除き、私を含むその場に居合わせていた同級生を含むほとんどの人間は、その理由はおそらく何もわからないままだろう。


文化祭はみんなで共に作っていくものだと、昔からよく云われている。
けれどEさんは、自分が生徒会長という立場から、他の人に対して自身の弱音を簡単に吐くことができないほど、強大なプレッシャーに追い込まれていたに違いない。

人に囲まれ、人に慕われ続けながら、人に笑顔で振る舞う。一方で誰よりも真面目で勤勉であり、常に誰よりも愛されていたがゆえに、日頃から最前線で戦い続けたその孤独さは計り知れない。


少なくともあの日、壇上のそばで急に崩れていくのを目の当たりにした姿は、嬉し泣きであったと解釈するには程遠いものだと思う。

かといって、悲しくて泣き出したのかと推測するには、彼女自身の表の部分しか見ていない以上、ありきたりな言葉でもって動機を理解するには不十分すぎる。


自らの手で抱きしめたり、そばに寄り添うどころか、たった一人が流した涙ひとつも拭うことすらできないようでは、その一粒に秘められた意味すら語る資格はないのかもしれない。

だからといって、立ち止まらずにはいられないのだ。この先、また同じような場面に遭遇した時、ほんの少しだけでも自らが、その人の支えになってあげられるようにするためには。



最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!