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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座14 DXのラストステップ-デジタイゼーション+デジタライゼーションによるビジネス革新-

前回まででDXのデジタル化は、情報をデジタル化する段階のデジタイゼーションと、業務をデジタル化するデジタライゼーションから成ること、さらに、デジタライゼーションはSoR (System of Record/記録のためのシステム)、SoE (System of Engagement/関係のためのシステム)、SoI (System of Insight/分析のためのシステム)の三つに分けることができることについて説明しました。そして今回は、DXのラストステップでありゴールでもあるデジタルトランスフォーメーションとは何かについて改めて考えてみることにします。
 
 デジタイゼーション+デジタライゼーションがDXのうちの「D」にあたるものであり、IT化と言い換えることができます。しかし、単なるIT化をDXとは呼びません。「X」が実現できなければ、どれほど高度なIT化であってもDX―デジタルトランスフォーメーション―に到達したとは言えないのです。
 
トランスフォーメーションとは、「変身」とか「変質」「変態」という意味です。昆虫の幼虫がさなぎを経て成虫になること、オタマジャクシがカエルになることがトランスフォーメーションです。映画のトランスフォーマーが車からロボットに変身する場面を思い浮かべれば、トランスフォーメーションという言葉が持つ意味がいかにすごいことなのかがわかるかと思います。
 
 DXはデジタル化によって、「トランスフォーメーション」という部署の壁、企業の壁を越えた変態-ビジネスイノベーション-を起こすことをめざすものです。昨今のデジタル技術の発展は目を見張るものがあります。無線ICタグによるセルフレジや、編隊して大空に大きな絵を描くドローンなど、未来社会のものと思われていた技術が次々と現実化しています。こうした高度化したデジタル化技術を駆使すれば、我々もトランスフォーマーのように進化することができるのではないかと考えるのがDXの真実なのです。
 
 残念ながら、DXを高度なIT化として理解している人が少なくありません。DX中の「D」のみの取り組みであっても、情報のデジタル化である「デジタイゼーション」と業務のデジタル化である「デジタライゼーション」に真面目に取り組めば、競争優位を獲得できるでしょう。しかし、それでは業務改善であり経営革新ではありません。
 
営業から見積、受注、仕入在庫、製造、物流、人事、経理など、たとえ社内のあらゆる業務がデジタル化されたとしても、分断していてはその効果は限定的です。現行組織や業務をそのままにしたデジタル化ではなく、部署や企業間の壁を越えた新しいビジネスモデルを構築するためにデジタル化すべきなのです。
 
そのためには、①属人的あるいは部署分断された情報をデジタル共有するような「デジタイゼーション」を進めること、②情報共有によって可能となる「仕事」の廃止や改良、統合など「仕事」事態を革新するような「デジタライゼーション」をめざすことが必要になります。そして、こうした取り組みを行う途中工程がすでに「デジタルトランスフォーメーション」と呼べる取り組みになっているのです。
 
 業務日報をデジタル化する、会計システムをクラウド化するという地味なデジタル化であっても、部署や企業間の壁を越えた全体最適をめざすための一里塚であるならば、りっぱなDXです。反対に、自部署の業務のことしか考えていないAIプロジェクトは単なるIT化にすぎません。今、日本でのDXの取り組みは残念ながら進んでいるようには見えません。むしろ、高度なIT化によって部分最適を加速させてしまうのではないかという懸念を抱いています。担当者に聞かないとわからないデジタル化はDXから見れば本末転倒です。
 
 DXで最大の成功の鍵となるのは、「全体最適」に対する取り組みです。「顧客の視点」を営業担当者だけが持つのではなく、社内の全ての部署や業務を「顧客の視点」から見ることによって、最適化しなければなりません。顧客のために、さらには社会のために、もっとよくするにはどうすればよいのかを考え、取り組んで行く企業が競争優位力も持続性も獲得するのは当然のことでしょう。
 
自部署のことしか考えない、他部署のことまで考えていられない、余計なことはしたくない、現状を変えようとする異分子は排除するといった「ムラ社会意識」をなくさなければなりません。そのためには、トップ自らが「変わる」ことを宣言し、行動していくことが必要なのです。
 
次回からは、DXデジタルトランスフォーメーションの実践編に入っていきます。具体的なデジタイゼーション、デジタライゼーションによるDXの取り組みについてみていくことにしましょう。

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