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政治講座ⅴ1491「海底鉱物資源の争奪戦」

   海底には、ニッケル、コバルト、金、銀、亜鉛、リチウム、銅をはじめ、周期表に記された元素の大半が存在する。
多金属団塊には、多くの種類のレアアース元素(REE)が含まれている。このREEは、今まさに花開こうとしているグリーンエネルギーの生成のほか、半導体やAI(人工知能)のような先端テクノロジーに欠かせない物質だ。まさに世界中でその資源を巡って争奪戦が始まっているのである。今回はそのような報道記事を紹介する。

     皇紀2683年11月15日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

海底鉱物資源の争奪戦が激化、一方で環境への懸念の声も

Ariel Cohen によるストーリー • 2 時間

海底鉱物資源の争奪戦が激化、一方で環境への懸念の声も© Forbes JAPAN 提供

2023年10月にジャマイカで行なわれた国際海底機構(ISA)の会合を前に、環境保護を訴える複数のグループが熱のこもった呼びかけを行なった。その要求の内容は、「深海における鉱物資源採掘の一時停止」という、これまでにない新しいテーマだった。

この要請は、深海での鉱物資源採掘に対する関心が、表面上は静かながら、急速に高まっている状況を受けて行われた。このテーマに関する国際会議も、2024年に開催される予定だ。

このような資源採掘は、かつてはSFで描かれる話に過ぎなかったが、国連海洋法条約に基づいて1994年に設立された国際機関であるISAが認めた海底鉱物資源探査は、すでに30件に達している(そのうち最多の6件が、中国に対する許可だ)。だがこれは、エネルギー市場および地政学上の情勢を大きく揺るがす開発レースの始まりでしかない。

海底には、ニッケル、コバルト、金、銀、亜鉛、リチウム、銅をはじめ、周期表に記された元素の大半が存在する。これらの元素は、多金属団塊(写真)と呼ばれる、海底に転がっているジャガイモくらいの大きさの塊に含まれている。

これらの団塊には、多くの種類のレアアース元素(REE)が含まれている。REEは、今まさに花開こうとしているグリーンエネルギーの生成のほか、半導体やAI(人工知能)のような先端テクノロジーに欠かせない物質だ。グリーンエネルギーへの転換が促される状況を反映して、これらの戦略的鉱物資源の需要は急激に高まっている。そして、まさに20世紀における石油と同様に、激しい地政学的競争や、金銭上の利権を生じさせている。

REEをめぐる争奪戦は、チリではリチウム産業の国有化に発展した。また、中国による電気自動車(EV)産業の支配を覆そうとする米国主導の動きや、米国内でのREE生産に対する莫大な投資などにもつながっている。海底資源の採掘が実行に移されれば、中国によるREE製錬の独占状況を突き崩すのに役立つかもしれないが、これもまた、地政学上の競争の新たな前線となるリスクをはらんでいる。

ハワイ南東の公海域にあるクラリオン・クリッパートン断裂帯では、海底に存在するREEの探査が過熱している。今のところ、深海における採掘は、装置を試験するための限定的なものに留まっている。そんななか、いち早く深海での鉱物資源採掘を開始し、統合型回収機およびライザー掘削システムなどの技術を試験しているのが、カナダのThe Metals Company(ザ・メタルズ・カンパニー)だ。一方の中国も、自国のREE独占を回避しようとするこうした試みに対抗すべく、深海採掘に多額の投資を行い、この分野でも天然資源をめぐる競争で優位に立とうとしている。

ハワイ近海で始まった、この海底に存在するREEの争奪戦が、世界規模の争いに発展することは間違いない。アフリカの海に目を移すと、ナミビアの沿岸海域には、ベンゲラ海流によって多くのREEを含む団塊が堆積している。
ナミビアは、世界で初めて、自国の管轄権の及ぶ海域内における深海採掘権の供与を開始した国だ。さらに同国は、供与ができる範囲を排他的経済水域(EEZ)内にまで拡大し、これを国際的な標準にしたいと考えている。

ナミビアは、未加工のREEを中国へ輸出することを禁じているが、ベンゲラ海流がこの国にもたらした将来性と危険性は、世界を席巻するトレンドになる可能性を秘めている。
一方で、海底採掘によってREEの新たな供給ルートが開かれれば、西側諸国はREEの争奪戦において、より機敏に動けるようになるかもしれない。だがその一方で、海洋における管轄権をめぐる係争に、REEをめぐる対立が加われば、さらに緊張が増すおそれもある。

海洋の主権をめぐる係争は数多い
争いの焦点を、漁業権、もしくは、原油や石炭などの炭化水素エネルギーに限定しても、こうした係争を解決するのは容易ではない。さらにこうした紛争が、防衛やIT、AI、航空産業を含む、最先端のハイテク製造業の鍵を握っているとなれば、事態は解決不可能になる危険性をはらんでいる。

これらの紛争には、中国、ロシア、インド、米国といった世界の大国が関わっているだけでなく、ペルーやチリといった経済規模が中程度の国、さらにはソマリアやケニアをはじめとする世界でも最も貧しい国々も、こうした紛争の当事者となっている。こうして、あらゆる海域で紛争が発生している状況だ。

海底に眠るREEの鉱床は、人間が消費できる莫大な天然資源となる可能性があり、グリーン革命を促進するものだが、これらの資源を際限なく開発すれば、人間の生存にとって重要な周辺海域の生態系を破壊する深刻なリスクが生じる。
海底の採掘は、生態系の断片化を招き、海底に固有の種の絶滅につながるおそれがある。

海底の採掘はまた、粒子状汚染物質を大量に発生させる
これが沈殿するまでにはかなりの時間がかかり、海洋生物に害をもたらす、毒性のある「プルーム(雲状の塊)」が生じる。さらにこうした採掘は、多大な騒音被害をもたらし、これが海洋生態系に相当の悪影響を与えるはずだ。これに関連して、海底における際限のない産業活動は、生物多様性や世界の海の健全性を危機に陥れるだろう。

深海採掘の悪影響は、人間にも及ぶ可能性が高い。
粒子状汚染物質によって、多くの二酸化炭素を吸収するのに役立っていた微生物が死に絶える可能性がある。
さらには、水産資源にダメージを与えるほか、欧州に暖気を供給しているメキシコ湾流など、世界規模の海流にも影響を与えるだろう。

人間による自然破壊はこれが初めてではない。工業生産により、我々人間はすでに多くの災厄をもたらしている。だが、海底採掘によって生じ得る環境への脅威は、この産業が飛躍的に発展する前の今こそ、考慮する価値があるはずだ。

適切な配慮をしなければ、深海におけるREEの採掘は、これによって開発が進められるグリーンテクノロジーが守ろうとしているはずの地球環境に害を及ぼすという、皮肉な結果を招くおそれがある。

海底採掘はすでに始まっている。たとえ西側諸国が権益を確保しなくても、西側諸国に対立する国々が権益を確保しようとするのは間違いない。そしてそれらの国が、海底開発に関する環境基準を形作ることになるだろう。西側の各社がとるべき唯一の道は、技術開発と資本投資において協力することだ。また、ISAに対して、2025年に最終合意に達するよう促すことだ。そして、米国の採掘企業が、深海で中国と競争できるような規制の枠組みの作成に着手することも必要になる。(forbes.com 原文)

中国「レアアース輸出管理強化」の背景には何があるのか?その効果と企業が取れる対策とは

ニューズウィーク日本版 によるストーリー • 1 時間

中国「レアアース輸出管理強化」の背景には何があるのか?その効果と企業が取れる対策とは© ニューズウィーク日本版

中国は世界最大のレアアース供給国(江蘇省の港に運搬されるレアアース) REUTERS

<突如、「レアアース外交」を再発動した中国。だが過去には日本の自動車メーカーが対抗策を取り、中国の輸出規制が中国に裏目に出たこともあった>

中国政府がレアアース(希土類)などの輸出管理強化を打ち出した。この措置により、アメリカ企業はもしかすると、電気自動車(EV)やミサイルを製造するために欠かせない重要資源の確保に苦労することになるかもしれない。

中国商務省は11月7日、輸出業者に対し、レアアースの輸出先などを報告するよう義務付けると発表した。ただし、現段階では輸出数量制限は導入されていない(どの種類のレアアースが報告義務の対象となるかは明らかにされていない)。この措置は、今後少なくとも2年間継続する。

今回の中国政府の措置は、アメリカ政府が先端半導体などに関して対中規制を強めていることへの対抗措置との見方が強い。要するに、中国政府がその気になれば、アメリカの特定の産業を狙い撃ちにしてダメージを与えられるのだというメッセージを発することを意図した動きとみられているのだ。

輸出管理強化のタイミングにも意味がありそうだ。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は11月15日開幕のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するために米サンフランシスコを訪問し、その際にバイデン米大統領と会談することになっているのだ。

レアアースは、電気自動車や太陽光発電パネル、兵器製造で用いる半導体など、最先端技術に欠かせない17種類の鉱物資源の総称だ。

その最大の供給元が中国なのである。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、中国は、レアアースの採掘で世界の60%、加工で87%という圧倒的なシェアを占めている。

中国政府はこの夏にも、先端半導体の製造に不可欠な2種類のレアアース(ガリウムとゲルマニウム)の輸出規制を導入している。この措置は、アメリカ政府による対中規制への対抗措置なのだろう。

しかし、中国がレアアースの輸出規制によってアメリカに打撃を与えられるかどうかには懐疑的な見方をする専門家も多い。レアアースの輸出規制は、むしろ中国の国内産業の首を絞める結果を招きかねないと考えられているのだ。

中国はこれまでも、レアアースの圧倒的なシェアを国際政治の武器に使っていると批判されてきた。

2010年には、東シナ海の尖閣諸島の領有権問題をめぐり日本との緊張が高まったとき、日本へのレアアース輸出を停止した。

この中国の措置に対しては、日本だけでなく欧米諸国の間でも懸念が高まったが、14年にはWTO(世界貿易機関)が中国の輸出禁止措置をルール違反と認定し、中国政府は最終的にこの措置を解除した。

ジャーナリストのジェレミー・シューは、19年にサイエンティフィック・アメリカン誌に寄稿した記事の中で、日本へのレアアース輸出規制は中国にとって裏目に出たと指摘している。

「トヨタやホンダなどの日本の自動車メーカーはこれをきっかけに、新しいハイブリッド・モーターを開発し、レアアースへの依存を大きく減らしたり、完全になくしたりしている」

アメリカ政府も同盟国と協力して、レアアースでの対中依存を減らすべく努力している。テキサス州フォートワースなどで国内のレアアース生産を再び増やすための取り組みも強化している。

一方、中国側も内モンゴル自治区などで国内のレアアース埋蔵地を探す手を緩めていない。中国政府は今後も、レアアースを国際政治の武器として利用し続けるつもりなのかもしれない。

参考文献・参考資料

海底鉱物資源の争奪戦が激化、一方で環境への懸念の声も (msn.com)

中国「レアアース輸出管理強化」の背景には何があるのか?その効果と企業が取れる対策とは (msn.com)

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