政治講座ⅴ757「宇宙空間の時代」
ウクライナがロシアからの攻撃に対抗できているのは、GPSなどの人工衛星などの活用によるとされている。ロシアの軍事活動も衛星写真でほぼ把握されているという。今回は報道記事からその内容を紹介する。
皇紀2683年1月10日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
宇宙のサイバーセキュリティ--衛星に対する攻撃や脆弱性悪用の懸念
2022/12/28(水) 7:30配信
「宇宙時代が私に何かしてくれたことはあったか」。そう問う人もいるかもしれない。だが、電気通信、GPS、そして世界中の膨大な数の人々がアクセス可能なインターネット接続の提供など、衛星とそれが提供する宇宙ベースのサービスは、現代社会が機能するうえで不可欠なものだ。 しかし、軌道に乗っているからといって、衛星に攻撃が届かないわけではない。セキュリティは継続的な懸念事項であり、今後はさらに深刻な問題になる可能性が高い。
ジャミングとスプーフィング
よくある問題の1つは、衛星自体ではなくサービスを標的とする攻撃だ。2022年には、ジャミングやGPSスプーフィングなどのサイバー攻撃が、ウクライナのインターネットサービスである「ViaSat」と「Starlink」に対して仕掛けられた。これらの攻撃は、ロシアによるウクライナ侵攻と時期が重なる。西側の諜報機関は、ロシアがこれらの攻撃を実行したと考えている。ロシアは長年にわたりこうした手法を使用しているとして非難を浴びてきた。 「これは現代の戦争の一部であり、新しいものではない。ウクライナでのGPSスプーフィングは、2014年から確認されている」。こう語るJuliana Suess氏は、安全保障分野のシンクタンクである英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)で、軍事科学チームの一員として宇宙安全保障の研究アナリスト兼ポリシーリーダーを務めている。「ジャミングとスプーフィングは、衛星と地上局の間のリンクを直接狙う」 Starlinkの接続をジャミングすれば、情報の流れが遮断され、紛争において非常に重大な影響が及ぶ能性がある。 「誰がインターネットブロードバンドサービスを攻撃しようと思うだろうか。Starlinkは、ウクライナ軍が利用するツールとなった瞬間に、標的となる」(Suess氏) 衛星攻撃兵器 衛星攻撃兵器(ASAT)と聞くと、映画「007」シリーズに出てきそうな兵器だと思うかもしれないが、範囲が限定されているとしても、これは実在する兵器だ。オックスフォード大学の衛星のサイバーセキュリティに関する研究論文が指摘しているように、「宇宙は難しい」。軌道宇宙能力を有する国は9カ国しかない(欧州連合を含めると10カ国)。 それでも、「打ち上げプログラムだけで、有意義なASAT能力を運用するために必要なリソースと精度を確実に得られるわけではない」。だが、ASAT能力を有する国がこれらの技術を使用して自国の力を誇示することが増えており、実際の衛星を破壊するライブテストを実施することもある。
中国は2007年に初めて自国の衛星の1つを破壊している。
弾道ミサイルに運動エネルギー兵器を搭載し、老朽化した気象衛星「風雲1号C」を標的とした。これを受けて、他の国々は安全保障の面でも、軌道上の他の衛星に損傷を与えかねない宇宙ゴミの面でも、懸念を表明した。
最近では、ロシアも2021年11月に衛星攻撃兵器を使用し、機能しなくなった自国の衛星の1つを破壊したとして非難されている。このテストでは、弾道弾迎撃ミサイルがASAT兵器として使用され、低軌道衛星を破壊した。これによって大量の宇宙ゴミが発生し、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士が万一に備えて避難を余儀なくされたほどだ。 米国はこのテストを「危険かつ無責任」と非難し、宇宙ゴミが軌道上にとどまる期間は数年単位、あるいは数十年単位になると警告した。 他国の衛星にミサイルを発射した軍はまだないが、米国を含む複数の国がその可能性を実証したことは、今後の紛争でそうした衛星攻撃の危険性を無視できなくなったことを意味する。
ミサイルによる衛星の爆破は、有効な戦略であることは間違いないものの、非常に露骨なアプローチだ。しかし、攻撃者は電子戦とサイバー攻撃の使用によって、それと同じくらい相手を弱体化させることのできる手段を得られるかもしれない。 衛星のハッキング オックスフォード大学の研究論文には、「宇宙システムの相互接続と計算の複雑化が進む中で、サイバー攻撃の脅威に対する新たな懸念が生じた」と書かれている。この論文はさらに、「長年続いてきた軌道上の平和の構造的な脅威となる」可能性があるとしている。
米国防総省によると、そのような脅威の1つが中華人民共和国だという。同省は中国の軍事力に関する詳細な研究論文において、宇宙が検討事項となっており、「電子戦」がそのアプローチの一部で、中国政府は「危機や紛争の際に敵国による宇宙へのアクセスや宇宙での活動に対抗する、または拒否することができる」技術の開発を目指していると指摘した。ただし、この技術が具体的にどのようなものになるのかは説明されていない。
衛星に対するサイバー攻撃が成功した場合、重大な影響が生じる可能性がある。たとえば、衛星との通信が遮断されると、地上にいる膨大な数の人々が重要な通信とサービスを利用できなくなるかもしれない。衛星への妨害工作や恒久的な損傷を目的とするサイバー攻撃によって、衛星の軌道が変わってしまう可能性もある。 「どこか映画『スター・ウォーズ』のような話だが、衛星を乗っ取ったとしたら、思いどおりに操ることができるだろう。もちろん、実行できることはその衛星が持つ能力によって決まる」とRUSIのSuess氏は述べた。 「それは、通信リンクの完全な遮断など、比較的単純なことかもしれない。あるいは、限られた燃料供給を使い果たして、衛星を宇宙ゴミにすることも考えられる。衛星を軌道から逸脱させて、他の衛星と衝突させることも可能だろう。正しい角度をつければ、ソーラーパネルを破壊することもできるかもしれない。選択肢は無限にある」Suess氏によると、これらの戦術の多くは、特に他の標的を誤って破壊してしまう潜在的なリスクがあるため、成功させるのが難しいという。 「この攻撃を実行する主体も国家である場合は、衛星への攻撃において、他の衛星と衝突させる方法や、宇宙ゴミにする方法をとれば、自国の宇宙資産も脅威にさらすことになりかねない。だからこそ私は、自国も宇宙空間を利用している場合、この攻撃の究極的な目標は軍事的な観点から達成不可能だと主張したい」(Suess氏) だが、規則や協定によって、政府に対し、他国が宇宙で運用する衛星への本格的なサイバー攻撃の実行を制限できる可能性はあるものの、ウクライナ戦争は、衛星通信への攻撃が決して検討の対象外ではないことを示している。 老朽化する技術 衛星は永遠に使えるように作られているわけではないが、10年かそれ以上にわたって軌道上にとどまることができる。それに加えて、衛星プログラムや宇宙プログラムは往々にして長期間実施されるため、多くの衛星は老朽化した技術を使用している可能性がある。 また、ひとたび衛星を宇宙に打ち上げると、衛星を動かすコンピューターシステムをアップグレードするのは難しい。不可能と言ってもいいだろう。地球にある通常のシステムにセキュリティ更新プログラムを適用することが、依然としてサイバーセキュリティの大きな課題であることを考えてみてほしい。さらに、システムにアクセスできない状態でこの問題に直面するという困難を考慮に入れなければならない。 こうした状況は、サイバーセキュリティの脆弱性が発生した場合に、その脆弱性が衛星の運用期間全体を通じて存在し続ける可能性があることを意味する。宇宙に接続された技術が私たちすべての暮らしに一段と取り入れられていく中で、悪意あるサイバー攻撃者がサービスの妨害や不正操作の方法を見つけた場合に、その点が問題になる可能性がある。 北大西洋条約機構(NATO)は、この問題を放置すると世界の安全保障に深刻な影響が及ぶと警告した。2019年の研究論文「Cybersecurity of NATO's Space-based Strategic Assets」(NATOの宇宙戦略資産のサイバーセキュリティ)には、「サイバー攻撃は戦略兵器システムに壊滅的な打撃を与え、不確実性と混乱を生み出すことによって抑止力を弱体化させる可能性がある」と書かれている。 この論文は、古いIT機器を使用し、既知の脆弱性を取り除くパッチでソフトウェアを更新せず、サプライチェーンの潜在的な弱点を放置していると、衛星システムが攻撃に対して無防備な状態になると警告している。 「最初の設計でそれをセキュリティに織り込んでいなかったのを彼らのせいにするのは、あまり公平ではない。この点を強調しておきたい。というのも、設計当初は懸念事項ではなかったからだ」。サイバーセキュリティ企業TrellixのAdvanced Research Centreでプリンシパルエンジニア兼脆弱性研究担当ディレクターを務めるDouglas McKee氏はこのように述べた。 一方で、サイバー犯罪者が自身の能力を高めるにつれて、新たな標的と機会を求めて宇宙に目を向ける可能性がある。 サイバー犯罪者が宇宙に進出か かつては政府の領域だった分野において、今では民間企業が宇宙への進出を容易にしている。では、将来のある時点で、犯罪者が自前の衛星を打ち上げて採算が取れるようになる可能性はあるのだろうか。 「攻撃対象領域を拡大できるとしたら、攻撃者は50万ドルを払って宇宙にハードウェアを送ったり、自分で宇宙に行ったりするだろうか。これは単純な投資利益率(ROI)の計算だ」とMcKee氏。「攻撃に50万ドルかかるとしても、何億ドルも手に入る新しい攻撃対象領域にアクセスできるなら、その費用対効果分析は非常に理にかなっている」 衛星やその他の宇宙テクノロジーの保護は困難な作業ではない、という幻想は存在しない。それを支えるソフトウェアとハードウェアの一部が現時点でも時代遅れになっている可能性があることを考えれば、なおさらだ。しかし、他のどんなネットワークも、サポートされていないネットワークでさえもそうであるように、基本を正しく実践すれば、効果的なサイバーセキュリティ戦略の達成は可能だ。 それは、衛星との通信や制御に使用されるコンピューターシステムと地上局を確実に保護することを意味する。 「視野を広げて、個々の衛星ではなく、衛星群について考えてみてほしい。大半の電波妨害装置は特定の周波数にしか機能しないので、複数の衛星を用意して、すべて異なる周波数帯域で動作させれば、そのうちの1つが突然機能を停止した場合や侵害された場合も、他の衛星を利用できる」とSuess氏は語る。
「サイバー攻撃についても同様だ。地上の端末の1つが侵害されても、衛星と地上局の多様なネットワークがあれば、それほど重大な問題にはならない」 未来に目を向けると、自動車から家電製品まで、さまざまな製品のメーカーが、サイバーセキュリティを最初から構築プロセスの一部として組み込む必要があることを学びつつある。それがサイバー攻撃に対するレジリエンスを確保する最良の方法であるからだ。 衛星に対するサイバー攻撃が非常に近い将来に起きる可能性は低そうだが、IoT接続機能を組み込んだものはすべてインターネット経由でアクセスできるし、衛星もそうなる可能性がある。この点を宇宙への打ち上げのはるか前に念頭に置くことが、今後は重要になるだろう。 「やはり、セキュリティアーキテクチャーを開発当初から確実に組み込むという点に尽きる。これは、われわれがコンピューター業界やセキュリティ業界の他の分野で学んだことだ。そして、参考にできるプロセスやポリシーがすでに豊富にある」とMcKee氏は述べた。 この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
AIの防衛利用具体化 民間技術取り込み加速 進まぬ兵器規制
毎日新聞 2023/1/9
防衛省向けに開発中のシステム「海洋監視プラットフォーム」でAIによる画像解析を確認する技術者たち=東京都昭島市のIHIジェットサービスで2022年12月27日午前9時7分、山下智恵撮影(画像の一部を加工しています)
岸田政権は2022年に安保関連3文書を改定し、「盾」だけでなく「矛」を持つ方向にかじを切った。「平和国家」はどこへ向かうのか。【「平和国家」はどこへ取材班】
船舶の情報、衛星データで瞬時に解明
会議室に置かれた大型モニターに、宇宙から人工衛星が撮影した東海地方沿岸の海上の画像が映し出された。画像の範囲は500キロ四方。「IHIジェットサービス」(東京都昭島市)が、防衛省への提供を目指す開発中のシステム「海洋監視プラットフォーム」の試作画面だ。
2022年12月23日午後、同社の担当者が画面をマウスでクリックすると、システム内の人工知能(AI)が画像解析を始めた。
「検出実行中」「AISマッチング実行中」と表示される。20秒ほどで解析が終わると、画像のエリア内で航行する船舶が小さな「点」で表示され、瞬時に赤、黄、白の3色に色分けされた。
AISとは船舶自動識別装置のことだ。海上の安全を守るため、500トン以上の大型船には船名や位置情報などを含む信号を常時発信して周知するよう義務付けられている。AIS信号は海保などが衛星や陸地の受信局で受信している。
ジェットサービス社のシステムは、地上の画像を撮影する光学衛星、レーダーで画像を撮影する衛星、AIS信号を受信する衛星などから送られたデータを組み合わせ、AIで解析した結果を表示する仕組みだ。
「赤色の船は、AIS信号を発信していない不審船のため『警告』、黄色の船は登録された情報と大きさなどが異なるので『要注意』という意味。不審な点がない船は白色になる」。担当者はこう説明した後、システムを操作し、赤と黄の船の詳細なデータをさらに調べていく。
防衛省は現在、AIS情報や衛星画像、哨戒機の警戒監視活動などで不審船を確認しているほか、中露など各国軍の艦船の動きも追っている。同省はジェットサービス社のシステム導入に前向きだ。AI技術によって、船舶の動向を確認する作業が飛躍的に省力化され、精度も増すためだ。
画像解析はAIが得意とする分野。大量に送信されてくる衛星画像を人間が1枚ずつ目視で不審点を確認していた作業を一瞬で終わらせることができる。同社のシステムでは、事前に「学習データ」という画像情報を読み込ませておくと、航行する船の画像を瞬時に、タンカー、漁船、木造船など6種類に分類することができる。
民間船舶に加え、防衛分野でも活用できるように、各国軍の艦船について空母、巡洋艦、潜水艦など数種類を追加で分別できるように改良を進めている。将来的には数十種類の識別を目指す。
戦局を一変させる「ゲームチェンジャー」。自民党は22年4月、政府に提出した国家安全保障戦略の改定に向けた提言で、AIと無人機をこう表現した。これらの技術革新で他国に対し優位に立つことが安全保障上で「死活的に重要だ」とも記した。防衛装備庁技術戦略部の担当者は「AIを防衛装備品にどう応用できるかを研究している。そのためには民生分野の情報を詳しく知らなければならない」と強調する。防衛省は日々進化を遂げるAIを徹底的に活用しようと、民間の最先端技術の取り込みを加速させている。
参考文献・参考資料
宇宙のサイバーセキュリティ--衛星に対する攻撃や脆弱性悪用の懸念(ZDNet Japan) - Yahoo!ニュース
「平和国家」はどこへ:AIの防衛利用具体化 民間技術取り込み加速 進まぬ兵器規制 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
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