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「笑いの社会学」

皆様は最近、「頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動」してますか?


私は最近、難しすぎて放置気味だったとある本と再会しました。こちら。

「笑いの社会学」です。


こちらは、「笑い」を学術的観点から徹底的に論じていこうというすんばらしい本なわけですが、前出の通り、この本の中で「笑い」とは、こうあります。


「頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動」


こうなってきますと、僕らの職業も、「頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動、導き人」になるわけです。改めて聞きましょう。皆様は最近、「頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動」していますか?こんな世の中です。できるだけ「頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動」していきましょうよ。また、リモートで久しぶりに再会した友人が、「なんかさー、最近さー、頬筋の緊縮と呼吸筋のリズミカルな収縮を中心とする特有の生理、情動的表出運動してないんだよねー」と言っていた場合、会っていない期間で学問に努めていたことを察した方がいいです。

こちら、本書をしまうためのケースに収められた帯には「笑いの統一理論」とあります。過去の学者さんが発表した笑いに関する記述が載っているわけですが、これがもう、めくるめく理論の数々で。


「笑いの原因は、『生命』が機械的な『こわばり』を帯びるところにある」(ベルグソン)

「滑稽なものが生じる必要条件は、われわれが同時にもしくは瞬時に、ひとつの同じ表象作用に二つの異なった表象方法を適用するよう仕向けられるということである」(フロイト)

「矛盾し合う二つの見地(Ḿ1・M2)から、ある状況ないし観念を認識する事を『異元結合』と呼び、二つの常に相入れないマトリックスが突然異元結合すると、思考は一つの連想から他の連想へと不意に移り、その時理性は置き去りにされ、緊張はそのはけ口を笑いの中に見い出す」(ケストラー)


激ムズです。三回読んでもラビリンス。なんてったって文言がすごいです。「生命が機械的なこわばりを帯びる」「滑稽なものが生じる必要条件」「矛盾し合う二つの見地(M1・M2)」…一体なんなんだ。映画以外で「マトリックス」が登場するのは初体験です。「緊張はそのはけ口を笑いの中に見い出す」なんてもう、惚れ惚れしちゃうよ。バカカッコいいじゃん。そうか、我々は日々、理性を置き去りにさせて、そのはけ口を笑いの中に見い出させるためにあれこれ考えていたのか。恐れ入りました。


このようにひたすらに難しい言葉が続くわけですが、しかしながらこの本のすごいところは、こんな我々にも、数回粘って読めば「あれ?なんか、分からなくもないぞ?」と感じさせるところなんです。確かに表現は鬼ですし、「はいはい、そういうことね」なんて読み進めることはできず、今だって途中で一息入れている状態なんですが、中で書かれていることは、今でも使っているような手法の「お笑い」を、ただただ難解な言い回しに「吹き替えている」ような、そんな風にもとれるほど、根本的には変わっていないことを教えてくれるのです。


たとえば、「『生命』が機械的な『こわばり』を帯びるところに笑いの原因をみる」のも、「緊張はそのはけ口を笑いの中に見い出す」のも、今でいう「緊張と緩和」、コントでいえば「フリとツカミ」の部分が分かりやすい気がします。「上司にしこたま怒られている時に、突然、空から鳩のフンが落ちてきて上司の頭に乗った」とかだと想像しやすいでしょうか。怒られているこちらは「あ、」と思うものの、上司は鳩フンに気づかずにまだ怒り続けていたら、立派なコントイン、緊張と緩和です。だからこれは「鳩フンの理論」とメモしておきました。他にもこんなのがありました。


「突然の得意(sudden glory)は、笑いと呼ばれる顔のゆがみを起こさせる情念である。それは時に、他人の中に何か醜悪なものを認め、それと自身との比較から、突然みずからを称賛することによって引き起こされるのである」(ホッブス)


「笑いと呼ばれる顔のゆがみを起こさせる情念ねー、はいはい」とか、「あ、よく言うsudden gloryのやつか、了解了解」とはまるでいきませんが、これだって言ってることは、優越感を感じて起こる笑いに関することなんだと、読み慣れてくると分かってきます。中学時代にカッコいい一軍同級生の父親を初めてみた時、強烈にハゲていて「あ、」と思ってしまったことを思い出しました。「突然の頭皮」とメモらせていただきました。


こうなってくると、もはやお堅い文面で「笑い」について書いてあること自体がボケに感じられてきます。1ページ読んでは唸ってしまい、その中身は分からなければ分からないほど楽しくなってきます。


「まず〈図式〉への〈同化〉というピアジェ的視点を導入することによって、笑いを起動する様々な〈ズレ〉〈食い違い〉を整理すると同時に、〈図式〉の作動にある機能的な回路メカニズムを仮定することによって、エネルギー論的発想を今日的に徹底していくなかから、直接〈笑い〉の価値無化機能を導くという方向で、統一的な〈笑い〉理論の構成に取り組んで…」


最っ高に分かりません。最っ高です。そう思えば思うほど、次第に、頬筋や呼吸筋はリズミカルに収縮し、情動的表出運動という名の「笑い」が引き起こされ、ニヤニヤしてしまうのです。いや、これはマジで分かんないって…なんてメモろうか…いつ読み終わるのか分かりませんが、少しずつ進めます。著者の木村洋二先生、ありがとうございます。大切に致します。


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