見出し画像

【謎日本語】 常夏(とこなつ)

「それでは石川優子&チャゲで『ふたりの愛ランド』、はりきってどうぞ〜!」

♫なつ なつ なつ なつ とこ〜なっつ、
 あい あい あい あい あいらんど〜♫

て、違う、違う、そうじゃな〜い!(正しくは「とこ夏(常夏)」ではなく「ココ夏」↓)

ということで(て、どういうことやねん?)、今回取り上げる【謎日本語】は「常夏(とこなつ)」。

この言葉、第一の謎は「常」を「とこ」と読ませるという点。「じょうか」でも「つねなつ」でもなく「とこなつ」。
「常」を「とこ」と読ませる熟語、「常夏」以外では「常世(とこよ)」ぐらいしか私には思いつかないのだが、「常世」は日常会話で使うような言葉ではない。

この「常」という漢字、小学校5年生で教わるぐらいにポピュラーな漢字で、訓読みの「つね」であれば「常に(つね・に)」「常々(つね・づね)」など、音読みの「じょう」であれば「常時(じょう・じ)」「常温(じょう・おん)」「常緑(じょう・りょく)」)など、いろいろな熟語があるのだが、「とこ」と読ませるのは意外にも「常夏」だけといっても過言ではないだろう。
ちなみに「常夏」は源氏物語五十四帖の巻名にもなっているので、古くからあった言葉なのは確かなようだ。

そして第二の謎は、「常夏」はあっても「常春」「常秋」「常冬」という言葉はない、というかほとんど使われないということだ。
「常春」と「常秋」についてはまあわからんでもない。地球は太陽に対して地軸が約23.4度傾いているので、中緯度のエリアには程度の差こそあれ四季がある。そのため、一年中春とか一年中秋という場所は基本的には存在しないと考えられるからだ。もっとも、低緯度エリアで標高の高いところでは例外的に「常春」「常秋」といえるような気候の地域もあるらしいとも聞く。よう知らんけど。

逆に、北極・南極に近い高緯度のエリアが「常冬」、赤道に近い低緯度のエリアが「常夏」ということになるのだが、じゃあシベリアやグリーンランド、あるいはスバーバル諸島などの「極地」を「常冬」と呼ぶかというとそんなこともない。これはまあぶっちゃけ、日本人にとってそうした地域への関心が低いからということに尽きるだろう。わざわざ「常冬の」と枕詞を付けてこれらの地域のことについてなにかを語るという局面が、日常的にはまずありえないとみてよいだろう。

これに対して「常夏」エリアというのはなかなかにポピュラーかつ魅力的である。沖縄、ハワイ、タヒチ、モルジブ、セイシェルなどなど、南の島々は「常夏の楽園」とも呼ばれるように、風に揺れるパームツリー、一年中咲き誇るハイビスカスやブーゲンビリア、プールサイドで飲むトロピカルドリンク、サンゴ礁のビーチで楽しむマリンスポーツ…的な、リゾート気分満載の、古来より日本人憧れの旅行先である。
ちなみに冒頭に紹介した「ふたりの愛ランド」もJAL沖縄キャンペーン(1984年)のCMソングである↓。


ということで「やっぱり人間、基本的には寒いところよりは暑いところのほうがいいよね〜」ということになるのだが、近年の日本の夏の猛暑・酷暑っぷりをみていると、もはやそんなのんきなことを言っていられる状況でもなさそうだ。

かつては南国のリゾートへの憧れを込めて用いられた「常夏の島」という言葉だが、このままでは近い将来、この日本もまた「常夏の島」と呼ばれることになりかねない。
しかし、リゾートはたまに遊びに行くから良いのであって、「常夏の島」で常時暮らす・働くってのは、やっぱりつらいものがあるよなあ。

□□□□□
なお、余談ではあるが、80年代から90年代にかけて毎年バチバチにしのぎを削っていたJAL・ANA両社による「夏の沖縄キャンペーン」。テレビCMに登場するのはナイスバディ(死語)な水着のお姉さんたちで、ここをきっかけにブレイクしたグラビアアイドルや女優さんも少なくない。また米米CLUBの「浪漫飛行」や山下達郎の「高気圧ガール」など、タイアップ曲から生まれたヒット曲も多い。私達が「常夏の島」に抱くプラスのイメージは、案外これらの一連のCMがベースになって醸成されてきたものなのかもしれない。

そんな沖縄キャンペーンもいつのまにやら消えてしまったのも時の流れというべきか。女性の水着姿そのものがコンプラ的に差し障りがあるということもありそうだ。考えてみたら水着の女性が登場するテレビCMってもはやRIZAPぐらいしか思い浮かばないものなあ。
ということでJAL・ANA沖縄キャンペーンの歴史にご関心のある方はこちら↓の記事をどうぞ。

■■■■■■
最後までお読みいただきありがとうございます。もしよろしければnoteの「スキ」(ハートのボタン)を押していただけると、今後の励みになります!。noteのアカウントをお持ちでない方でも押せますので、よろしくお願いいたします!