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コシノジュンコ氏作「対極の美ー無限に続く円ー」の3Dプリンター造形から設置まで

2022年4月のことです。弊社の社長の顔が夕方のニュースに映りました。

・・・・いや、ちゃいますよ、不祥事じゃないですよ。めっちゃそれっぽい言い方しましたけど。

春・夏・秋と1年間に渡って開催される瀬戸内芸術祭に向けて制作されたコシノジュンコ氏の作品「対極の美ー無限に続く円ー」にツジカワが大きく関わったということで、弊社の社長とツジカワ東京デザインセンターのマネージャーが作品披露の除幕式に参加いたしました。
瀬戸内海の島々でアート作品を鑑賞・体験できる瀬戸内芸術祭、コシノジュンコ氏の作品は小豆島の土庄港で鑑賞することができます。

コシノジュンコ氏と弊社社長
案内文下部に弊社名もいれてもらいました!

こちらの作品、台座の大きさが450cm×450cm、作品自体の高さが600cmというとても大きく迫力のある作品です。

メタリックな塗装からは想像がつきませんが、台座を除くオブジェ部は全て3Dプリンター用の樹脂でできており、3Dモデリングから3Dプリンター造形、設営まで全てツジカワ東京デザインセンター(以下TDC)が関わりました。
TDCはその名前のとおりツジカワの中でもあらゆるデザイン業務を請け負う部署です。近年では特に3Dモデリング・3Dプリンター造形製品を手掛けることが多くなってきました。

これほど大きな制作物が3Dプリンターによってどのようにして制作されたのでしょうか?

今回の記事では本作品の設計、制作、設営までを詳しく取り上げていきます。

コシノジュンコ氏がご来社

 
2021年9月、GINZA SIXにてツジカワが3D造形でお手伝いした展示をご覧いただき、ご興味を持たれたコシノジュンコ氏がTDCに来社されました。
3Dプリンタを用いて、立体作品を作りたい」というコシノ氏に対し、これまでのツジカワの実績をプレゼン。

コシノ氏からは、翌年の2022年4月に瀬戸内国際芸術祭への出展が決まっており、そこで何らかの立体造形物を展示したいという考えをお聞かせいただきました。

TDCにモチーフとなるドレスを受領→モデリングデータ作成開始

2021年12月 コシノジュンコ氏がご来社されてから数日後。
TDCはコシノ様より、実際にショーで使用されたドレスを託されました。

ちなみにこの時期TDCとzoom会議すると、人物の後ろにこのドレスが鎮座ましましており無視できない圧を放っていました。
普通のオフィスにショーで使用されるドレスがある違和感がすごいものの、ぶっ飛んだ造形物をよく作ってる拠点(TDC)なので「なんか、宇宙みたいなんあるなぁ」と次第に見慣れていきました。

その時点ではまだ造形物のデザイン案は上がってきておらず、

こちらのドレスをモチーフに造形物を制作すること
約4ヶ月後の納期(2022年4月)

だけが決まっている状態でした。

やべぇ、とりあえず何か動かないと詰む」と感じたTDCの面々。
まずはドレスのモデリングデータの作成を実施しました。

全体の寸法を細かく測定し、ベースとなるドレスのモデリングを行いましたが、
ドレスを人が着ている状態を見ないと、コシノ氏が思い描い
ているイメージに近付くことは難しい

と思われたため、実際にモデルさんに着用してもらい、スキャンデータをとることとなりました。

スキャンは、過去に別件でスキャンを依頼したことのある「合同会社
Unrealize(アンリアライズ)
」様にて実施しました。

非常に高解像度な撮影が可能なスタジオで、撮影ブースを360°を取り囲む小型カメラは人が着用した腕時計の文字盤まで読むことがきます。

コシノジュンコ氏の感性により近いポージングを見つけ出し、それを基礎デザインとして作品に昇華させることをめざしました。

スキャンしたデータをもとに、お借りしたドレスを繰り返し確認しながら、自然でありながら、立体作品として迫力のあるドレスの3Dモデルを作成

このとき、実際には存在した「ドレスの縫い目」なども、高解像度なスキャナーによって撮影されていたが、手作業によって削除し、より美しい見た目を生み出すことをめざしました。
 

再プレゼンテーションから最終デザイン決定まで

 

こうして出来上がったモデリングデータを引っ提げてTDCは、再度コシノジュンコ氏へのプレゼンテーションに臨みました。

完成イメージを確実に共有するためにもプレゼンテーションの際には、平面の資料だけではなく、先行してミニチュアのサンプルを製作し、
コシノさまにイメージを共感いただけるよう細心の注意を払いました。
また、予算規模によって制作できる成果物のパターンも数種類提示し、塗装に関しても、元々のドレスの質感に近い塗装をミニチュアサンプルに施してご提案しました。

このプレゼンテーションの結果、コシノジュンコ氏によるラフスケッチを基幹とした最終デザインデータが決定しました。

コシノジュンコ氏直筆のラフスケッチ


最終デザインデータ


造形物の制作開始。積層痕を残した造形物に。

いよいよ制作にとりかかります。今回の作品は大型なので、ツジカワ保有の国内有数の大型3Dプリンターを使用します。

あれ?ツジカワって何屋さん?と思わせる佇まいの巨大3DP

今回の作品、よく見るとドレス部に樹木の年輪のようなボコボコした模様が見て取れます。
これは、3Dプリンタが樹脂を溶かして積み上げて造形する際に発生するスジ目で、「積層痕」と呼ばれています。

樹脂が積み重なってできる「積層痕」


通常であれば、研磨でスジ目を消して、ツルツルとしたなめらかな立体に仕上げていきます。
 
ところが今回、サンプルとして提出したミニチュアモデルに残ったスジ目を、コシノジュンコ氏が美しいと評価し、ご本人たってのご希望で「積層痕を生かした3D造形物」を制作することとなりました。

研磨の工程も省けるし、3Dプリンタだからこそできる積層痕を生かした造形物の実績もできるしwin-winじゃん、やったじゃんと浮かれたのも束の間、そこには大きな落とし穴がありました。
 

積層痕を残す=一発勝負の落とし穴

「積層痕を残す」ということには、工期を短縮できるという大きなメリットがありました。
しかし一方で盲点となったのは、「後から修正することができない一発勝負」という事実でした。

積層痕を前面に出すことにより、通常、積層痕を消す過程で修正できる不具合が、一切許されないことになってしまいました。

「3Dプリンタには積層不良が付き物です。樹脂が積まれるべき場所に積まれていなかったとしても、プリンタはそれを認識できない。
これによって、たわみや歪みが生じてしまうことがある。
が、これは通常なら積層痕を消す過程で修正できるものなんです。
だけど今回は違う。胴体部分を造形するにあたって、この巨大なサイズの出力を“一発勝負”で成功させなければならないことになりました」

TDCマネージャー Oさん

ずれが生じたらその都度手作業で直す。
その体制を整えるため、東京デザインセンターでは昼夜を通して修正対応できるよう、シフトが組まれました。

スジ目のピッチ(間隔)はミニチュアサンプルと比率が変わらないようにして 製作されました。

可動式の腕飾りの造形

ボディを取り巻くように配置された腕・頭飾りの設計ですが、数種類のパーツを組み合わせることにより、実際のドレスと同じように可動性のある構造になっています。

頭・腕飾りのパーツ

130個程度のパーツで、コシノさまが描かれたデザインが再現可能だと判断していたところ、仮り組みの状態をコシノジュンコ氏にチェックいただいたとき、「予備があるならめいっぱい使いたい」という申し出を受けました。
結果として、制作した160個のパーツをすべて用いた造形で展示するに至りました。
 

搬入・設置どないすんねん問題

できるだけ外注費を抑えるために、デザイン・制作と平行して搬入・設置についても考える必要がありました。

「通常、設置に関しては工務店さんに発注します。
現場監督をすることはあっても、作業に携わるのは異例。
地元の工務店さんに協力いただき、設置方法や必要な材料を検証しました」
(TDCメンバー Tさん)

 
案件の話が出た時点で、下見として小豆島の展示会場を訪れていたTDCメンバーですが、当初はまさか設置まで請け負うとは思っておらず、この現地調査が後にこれほど役立つとは思わなかったとかなんとか。

腕・頭の飾りを固定する方法に関しても試行錯誤が繰り返されました。

「ミニチュアのサンプルはワイヤーでカタチを固定していました。しかし、このままサイズを大きくしたとしても、ワイヤーでは重みに耐えられず、カタチを維持することができません。
また、小豆島という環境において、鉄素材を使用すると潮風によって錆びてしまうという意外な盲点もありました。
そこで、水道などによく用いられる、蛇腹状のフレキ管という素材を使用することを思いつきました」(TDCメンバー Tさん)

こうして一休さんばりの名案で数々の難題を乗り切ったTDCメンバーは、
都内倉庫に作品を仮設置し、コシノジュンコ氏による最終チェックでOKをいただくことができました!

都内倉庫での仮設置の様子

小豆島にて施工開始

2022年3月23日、小豆島土庄港にて作品の施工が開始されました。
都内での仮組み完成から1週間も経っておらず、バラシ、梱包、搬入を考えるとかなりタイトなスケジュールであったと想像されます。

施工はまるっと1週間ほどかかりました。
当時の設計図面には作品の設置位置・大きさはもちろん、どこに留具を打って、何mのワイヤーを使用し、どう配置するのかまで綿密に書き込まれていました。


ついに完成!

そして2022年4月、無事除幕式を迎えることができました!

追加で大分県立美術館で1/4スケールのミニチュア造形物を納品


瀬戸内国際芸術祭の除幕式を終えて、コシノジュンコ氏からは上々の評価を頂いたようです。
ほぼ同時に開催されていた大分県でのコシノジュンコ氏展覧会に展示するためのものとして、今回のドレスの1/4スケールのミニチュアモデルを追加でオーダーしていただきました。

ミニチュアであるため軽いことと、展示台に置いての展示になることから、今回は作品を下から支える設計に変更。
作品を支えるためのパーツは専用に設計、3Dプリンターで造形しました。


「コシノさまからは非常に良いチームだと評価していただきました。プレゼンテーションの過程も大変楽しんでくださり、アーティストのモノづくりに、製作会社としてしっかり併走することができたと思います。
ビジネスの面においても、アート領域は非常に魅力的です。
ただ、アートであるだけに、簡単な仕事ではない。その尖った要求や今ま
でにない課題を解決するノウハウを、これからも積み上げていきたいです」(TDCマネージャー Oさん)

全体を振り返って

全体のスケジュールはこんな感じ。

■2021年
8月30日/山口歴さまの個展が開催される
9月16日/コシノジュンコさまが東京デザインセンターを見学
12月1日/ツジカワからコシノさまへプレゼンテーション
12月7日/モデル様ドレス着用3Dスキャン実施
12月14日・15日/小豆島へ現地調査
12月19~30日/デザイン制作、3Dモデリング
■2022年
2月2日/製作開始
3月15日/都内倉庫にて作品を仮組み
3月23日/小豆島にて施工開始
3月29日/小豆島にて施工完了
4月4日/除幕式、瀬戸内国際芸術祭開催
4月15日/大分県立美術館にて、コシノさま展覧会開催
4月23日/1/4スケールのミニチュア造形物を納品

今回の案件でTDC及びツジカワが得た知見は大きく2つありました。

  • 3Dプリンターならではの事例を残すことができた

  • 提案から設置までをワンストップで行うノウハウを築いた

今回の案件は、通常なら消してしまう”3Dプリンターならではの積層痕”を残した点、スピーディな納期対応などを鑑みてもツジカワ保有の3Dプリンター、そして熟練した作業者がいるからこそ実現可能であった事例でした。
また、通常なら行わない設置作業を経験することにより、アート作品の造形・展示においてツジカワがカバーできる範囲を広げることができました。

ツジカワ東京デザインセンター(TDC)ではアーティスト作品の3Dプリンター造形に関して豊富な実績があります。
ご興味のある方は是非お気軽にお問い合わせください!

諸々のリンクは下記の通り


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