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ぼくらの夏、青い春

いつだってどうしようもないぼくらは、ただ瞬間的な夏を生きている。人生は夏みたいだ。恋しくて、いざ来ると最悪で、終わってしまうのは悲しくて。振り返ればきらめく思い出たちが、心に焼き付いて離れない。痛みと隣り合わせの愛は、わたしをどうしようもなく狂わせる。そんな、夏。



しばらく前から、ゲストハウスに滞在している。わたしが働く本屋さんのオーナーが経営する、大きな古民家だ。といっても、2〜3人しかおらず、なんだかシェアハウス感覚。虫だらけのこの家は、夏は暑く冬は寒い。けれど、木漏れ日が差して木の匂いがする「我が家」は愛おしく、落ち着く場所だ。

☁️

本屋さんで海を眺めながら仕事をして、徒歩15分ほど歩き我が家に帰る。がらっと玄関を開けると、旅人たちの元気な声。「ただいま!」「おかえり〜」蚊取り線香の香りに、あたたかな剥き出しのランプ。それだけで、なんだか簡単に生きていけちゃう気がする。

「夜は餃子会をしようね!」といってきますをしたおかげで、それぞれ持ち寄った材料がテーブルの上を満杯にしている。生地から作ろう!と盛り上がったけれど、いざはじめてみると最悪なほどにめんどくさい。生地大臣、タネ大臣、焼き大臣と分担したものの、すぐに政府は崩壊。全員で生地大臣を兼任しても終わらない3時間コース。粉まみれになりながら、ギャーギャー言いつつできた不格好な生地たち。

「…かわいいねえ」とまるでみんな産んだ子のように眺めている。食べるけどね!と喝を入れながら、出来上がった餃子。あんなに頑張ったのに、できたのはたった30個ほど。もはや試食会だ。ヘトヘトのわたしたちは、とりあえずとビールを開けて、乾杯。

口に入れた途端、だれが作ったのか分かる生地。「水餃子みたいに分厚いよ!」「これ穴空いてる!」犯人たちは素知らぬ顔でつまむ。じゅわあっと染み出す肉汁、ザクザク切った生姜がよく効いている。結局どんな形も美味しくて、それはきっとみんなで作ったからで。

愛のように不揃いな餃子たちは、旅人たちの想い出を閉じ込めて、わたしの身体の中で血となり肉となる。それはほんとうの意味での"愛"だと思った。わたしは、今、愛を食べて生きている。

🥟



暇を持て余した旅人が「ねえ、海見たいんだけど」と言い出す真夜中。えー暑いよーと駄々をこねてはみたものの、ほかの旅人も乗り気なので、30分かけて海を目指した。海沿いは潮風が心地よく吹く。遠くに見える風俗街の明かりに照らされて、恋バナをしながらきのこ帝国を口ずさむ。

埠頭の先に光る赤灯台まで、何度引き返そうよ〜と言っただろう。強い意志で立ち向かう真夜中、もはや遠足だ。桟橋は釣り人で溢れていて、なんだか賑やか。いつもと違う港の姿に段々とわくわくしてくる。なぜか赤灯台のふもとで縄跳びをするおじさん2人。くすくす笑いながら、わたしたちはただ桟橋に寝転がった。

見上げれば満点の星空、灯台はわたしたちの顔を赤く染め上げる。潮の香りと微かにする煙草の香り。瀬戸内の海は静かで、ただひたすらにやさしい。「なんかさー…」言葉少なに話しはじめたわたし、みんなきっとやさしい顔をしてる。「何歳になっても、アラサーでも、こうやって寝転がってみんなで星を見れるならさ、きっとさ、」うん「青春、って永遠なんだよ」うん、

青春は学生の特権だ!とすこし前まで思っていた。でもほんとうはちがう。真夜中に汗だくで散歩したり、海を眺めたり、パピコを分け合ったり、星空の下で夢を語ったり。そんなことが何歳になってもできるなら、きっと青春は永遠。

青いまま、賢い大人になんかなれないまま。痛みに慣れることもできずに、傷だらけのまま必死で生きて。だれかをまっとうに愛して振られて、それでもまたひとを好きになって。そんなことの繰り返しを、諦めずに馬鹿にせずに、光を掴もうともがく限り。

わたしたちの青春は永遠なんだよ、ぜったいに。

🌊



孤独な夜もある。

精神が崩壊して号泣していた夜中、大丈夫?と慰めてくれた旅人。もうなんだか世界なんて終わってほしくて、すべてを呪いたくて、でも一番呪いたいのも壊したいのも自分で。泣きながら言葉にならない思いをぶつけても、旅人はやさしく寄り添ってくれた。

「もうさ、こういう時、切るか飲むか、なんだよね」と最悪の対処法を泣き笑いの顔で言った。旅人は、それはやめといたほうがいいねえ、と笑ったあと、じゃあタトゥーを入れよう!今から!俺持ってくる!!!と急に部屋へ駆け戻った。

タトゥー!?彫るの!?まあそれもいいかも、なんて泣きすぎた頭でぼーっとしていたら、颯爽と現れた旅人。その腕にはたくさんのサインペン。「さて、なんて書いて欲しい?」その発想が可愛くて面白くて、なにより、やさしくて。

泣きながら「ラブユアセルフって、かいて、」ぐずぐずいうわたしの腕に、さらさらとloveyourselfのタトゥーが書かれてゆく。かわいくって愛おしくって、まるで闇に差したきらめき。

そのあとも、旅人はわたしのからだを赤や緑のサインペンでカラフルにしてゆく。心臓のイラストだらけのわたしのからだは、まるで全身で生きているみたい。ありがとう素敵すぎるよ、と泣いていたわたし、いつのまにか笑っていた。

❤️‍🩹




旅人の想いが交差するこの場所は、なんだか時間も空間も違うみたい。愛で満杯、青春の香り。どんな苦しい毎日も、どんなに自分を殺したい毎日も。ただ、リビングにいけば誰かがいてくれる。酒を酌み交わし、時には泣いて。そしてハグしておやすみなさい。

世界はいまだに全然平和じゃない。政治も貧困も女性の権利も子どもも守られず、何もかも最悪だ。けれど、こうしてわたしがわたしのままでいられる"居場所"があれば、息が吸える。だからあなたもあなたの酸素が見つかることを心から願っています。

刻々と変わりつづける夕暮れのように、ひとも世界も気まぐれだけど、わたしからあなたへの愛だけは変わらないから。いつかこの家に遊びにきてね。そしたら語り合って酒を酌み交わして、たくさんたくさん、息を吸おう。そしてハグしておやすみ、おはよう、いってきます、おかえりなさい、をしよう。

愛も青春も言葉も、永遠だよ。

🪽

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