限りなく透明に近いブルー【日記】

ふと見上げると都会の喧騒の中、じっと静かに佇むように満月が光っていた。月が綺麗ですね、と口に出してつい言ってしまう、そんな、魔法の夜。夏目漱石が"I love you"を"月が綺麗ですね"と訳した、というのはたぶん嘘だ。でもそんな嘘を信じたくなるくらい、ロマンチックで素敵な言葉だと思う。あなたなら、I love youをどう訳す？

私なら、「寒いね、寒いね」。冬のしんしんとした夜に、そう言い合えることが愛かな。それか「ご飯はなににする？」とか「この景色をあなたと見たかった」とかかな。でもどれも、月が綺麗ですね、には敵わない気がする。「宝石みたいな瞳だ」とかはどうかな？こんな言葉遊びをずっとしているだけで、私の人生は少しだけ煌めいて見えるよ。

言葉は煙草の煙とともに、夜に溶け出してしまうから、消えてしまわないうちに心に閉じ込めておきたい。一生懸命真空パックにして、誰にも開けられないように凍らせておこう。でもきっと、いつのまにか漏れ出してしまって、わたしの口から愛がこぼれ落ちる。まるで吐くように日常の中に溶け込んでいく愛が、あなたをどうか包むように。そんな気持ちでいる。

煙草を吸うたびに、ああ、わたしはゆるやかな自殺をしているんだな、と思う。死に向かってただひたすらと進みつづける、いきもの。天国も地獄もあるんだろうか。ないんだろうか。

亡くなった人のニュースを聞くたびに、昔は知らない人ばかりが死んでいたのに、今ではもう知っている人ばかりになってしまった。死は日常を揺らすのに、そのことをいつのまにか忘れて生活している。「人間は、記憶がなくなるようにできている。なぜならぜんぶ覚えていたら絶望してしまうから」なんて聞いたことがある。私は嫌なことばかり覚えているタイプだから、結局絶望しているよ。覚えていたいことばかり、忘れてしまうのにね。毎日、ヒッとなるような昔の失敗を思い出して、わァ！とかあァ！とかちいかわみたいな声をあげてる。普通に不審がられる。

死にたいなあと思う時もあれば、絶対に死にたくないと思う時もあって。振り子のようにネガティブとポジティブを行き来する毎日。みんな必死で生きていて、それを見せないようにしているんだろうな。でも私はいつだってぼろぼろになりながら、転がる石みたいに生きてるよ。結局誰かに愛してほしくて、叫び出しそうな気持ちでいる。幸福に満腹なんてなくて、みんな飢餓状態。飢えて死ぬ前に、こうして言葉を贈るから、せめて今日だけは満たされますように。

「悪口を言いあえる人がいるなんていいわね」というセリフをどこかで聞いた。悪口なんて言わない方がいいに決まってるけど、人間だから、きっと言わないなんて無理。あのひとが整形した、とかあのひとが浮気した、とか。どろどろの世の中の上澄みだけを救って、自分のことは棚に上げて。無責任に悪意のない噂話をするのも、それはそれで楽しい。人は人への興味を捨てられない生きものだから、そんなふうに他愛もない悪口を言って、他愛もなく盛り上がって。その日しか言わない言葉を簡単に捨てるのも、人間らしくて私は好きだよ。(ただ言うのはおうちのなかだけでね)

でもそうやって傷つけてきたひとのことを、傷ついてきた自分のことを、忘れないままでいようね。なんだかそれだけが、人生に対する誠実さ、のような気がするから。私は割と毎日、ああ今きっとどこかで悪口を言われてるんだろうな、と思うし、あの人たちはきっと裏でこう言ってるだろうな、と思う。友だちと盛り上がった"ここだけの話"は、絶対に"ここだけ"じゃなくなるしね。でもそんなのを繰り返して、私たちはひとつになれたり、バラバラになったりするものだから。いつか世界中が手をつないで、笑える日なんて来ないと思うけど、来るかもしれないそんな未来を1%でも信じられますように、と願ってやまない。

ちなみに最近言った悪口は「花束みたいな恋をした、を観たやつの8割は村上龍を読んでないし、押井守を観てない」です。我、オタクきめえ〜！！！すいませんでした、はい。

まあそんな感じで、ゆるゆるいこう。今、I love youの正解思いついたかも。「あなたとだけ、悪口を言いたい」どうかな？私はそんなプロポーズだったら、ちょっとニヤッとしちゃうかも。嫌かもしれんけど。知らんけど。ちなみにさっき悪口について調べたら、「ことばたたかい」とかいう合戦で悪口言い合う風習とか、一年に一度だけ悪口言っていい「悪口祭り」とかあったらしいです。おもしろいね。

瀬戸内寂聴も「人の悪口を言いながら食べるご飯は美味しい」って言ってたし。悪口言っちゃった、言われちゃった、って落ち込むような人ばかりが読んでくれていると思うから、そんな風に肩を落とさないでね。自然体でいられることなんてない毎日だけど、肩の力を抜いて、ちょっと猫背気味でだらだら生きよう。今日も生きててくれてありがとう。

おやすみとおはようを。今日も生きたね。