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私信『父と母へあの日本当に伝えたかったこと』

 先日、両親にゲイであることと付き合っている男性がいることをカミングアウトした。父が70歳になったこともあり、伝えられるうちに伝えておきたいと思ったからだ。
 兄弟はみんな実家を出ているけど両親も含めて家族の仲は良く、誕生日になればプレゼントを贈り合ったり、旅行先からはお土産を送ったりしている。
 だから「受け入れてもらえないかも」という心配はなかったのだが、それでもかなり緊張した。カミングアウトのときには血の気が引いて指先が冷たくなり、姉から「体調悪いの?」と心配されるほど顔も青ざめていた。それでも、どうにか二人に伝えることができた。
 ふたりの反応は「あー、はいはい。そうかなとは思ってた」というごくあっさりしたもので、特に深堀りされることもなく、ぼくの一世一代のカミングアウトは1分で終わった。肩透かしを食らった気持ちになりつつ、受け入れてくれたことに安堵した。
 でも、あの日はパニックで本当に伝えたかったことを伝えきることができなかった。手紙にしようと思ったが、重たい話題が苦手な両親のことなので、しばらくはインターバルが必要なように思う。

 ひどく個人的な内容を公開するのも甚だ恐縮だが、備忘のためにもここに書き残すことにした。
 なお、文中で両親を「父」「母」と呼んでいるが、これは我が家では本当にこのように呼んでいるためだ。変な家族なのである。

私信

父・母へ
 先日はいきなりの告白でごめんなさい。しかも父の誕生日に。急だったのに受け入れてくれてありがとう。本当に嬉しかったです。

 あの日、伝えるだけでいっぱいいっぱいになってしまって、なぜ急に告白したのか説明できなかったので、改めてそれを伝えたくて手紙を書いています。

 再度になりますが、ぼくは今男性と付き合っています。父と母の世代の人にとっては特に衝撃が強かったのではないかと思います。本心では受け入れがたかったかもしれません。もし波風を立てないために受け入れてくれたように装ってくれたのであったとしても、そのことに心から感謝しています。本当にありがとう。

 ぼくは子どもを育てることができないから想像することしかできませんが、ぼく(と双子の弟)が産まれたときの父と母は、というより子どもが産まれたときの世の両親は、「子どもが幸せになってほしい」と願うのではないかと思います。言うなれば、「子どもの幸せ」が子育てにおける最大の目標であり原点なのではないかと。
 であれば、子どもであるわたしの一番の親孝行であり最低限の義務は、「幸せに生きることと、幸せであることを伝えること」なのではないかと考えました。

 だから、あの日ぼくは「今男性と付き合っています」とだけ伝えましたが、本当に伝えたかったことはその先です。
 「ぼくは今男性と付き合っています。他の人のように普通に生きることもできなかったし、孫を抱かせてあげることもできなくて申し訳ないと思っているけど、それでも今ぼくは幸せです」。

 世の中の同性愛者には、両親との関係に並々ならぬ悩みを抱く人が少なくありません。一生秘密にして生きる人もいますし、伝えたことによって親子の縁を切られてしまう人もいます。最初から親と距離を置いて生きている人もいます。そして、その苦痛に耐えられない人も。
 だから、それを二人が受け入れてくれたことは当たり前のことではないし、そもそも父と母に伝える決心ができたこと自体、二人の温かい人柄があってのことだと感謝しています。

 父と母が100点満点の子育てをしてくれたおかげで、自分の力で幸せに生きる力と、周りの人たちに助け合って生きていく術を身につけることができました。二人の子どもとして産まれてこられて、本当に幸せ者です。

 最後になりますが、どうかいつまでもお元気で。これからもよろしくね。

2024年7月25日
感謝と敬意を込めて 息子より


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