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『翠』 16

 帰り際、志田さんの車が置いてある駐車場まで並んで歩いた。歩幅の違いのでせいか、少しだけ私の歩幅が早足になる。それに気づいた彼が、「あ、ごめんなさい」と、私に合わせて歩調を緩める。

「ごめんなさい。わたし歩くの遅くて……」

「なんか、デートみたいですね。まあ駐車場まで歩いてるだけなんですけど……」

 そう笑いかける彼の一言に、なぜか自分の内側から熱が込み上げてくるのを感じた。

「あ、ほんとですね……」

 不自然な間が生まれ、何か話さないとと思考を巡らせる。

「あ、あの、今日はありがとうございました……。な、なんか志田さんと話して、気持ちが楽になれた気がします」

 何のことか判らず、彼がきょとんとした表情で首を傾げる。

「と、とにかくありがとうございました!」

 そう早口で言って立ち去ろうとしたそのとき、

「あ、あの!」

 と、彼が背後で呼び止める。

 その声にふり返るり、次の言葉を待った。

「もしよかったら、LINEとか交換しませんか?」

 そこまで一息で言い切ってから、彼が自分の携帯を上着のポケットから取り出し、促すようにスマホの画面をこちらに見せる。

 どう応えてよいのか判らず、迷っていると、

「あ、無理にってわけじゃないです……。何って言うか、ぼくも麻倉さんの力になりたいっていうか、なれればなっと思って……、べつに何かできるわけじゃないですけど、さっきみたいに話を訊くことくらいだったらできますから、麻倉さんが苦しいときに、ぼくで良ければ、いつでも連絡してください」

 と、どこか自分自身を説得するように、彼が言葉を重ねる。

 彼の言葉には、どこか力強さのようなものがあった。その言葉に、自分のなかで今まで支えていた蟠りのようなものが取れたようで、苦しいときは独りで抱え込まず、誰かに頼ってもいいのかなと、自然と思えた気がした。

 差し出されたスマホの画面には、彼のQRコードが写し出されていた。

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