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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 27

「そんな装備で大丈夫か?」

 PS3のゲーム『El Shaddai(エルシャダイ)』に登場する〝ルシフェル様〟から言われてしまいそうな勢いの完全OFFモードのわたし。髪の毛はかなりボッサボサで、眉毛なんかふだんの三分の二程度しか存在しておらず、出勤日なら、先ずこんな格好では外には出ない。

 で・す・が、今日はお休み。

「大丈夫だ。問題ない」と、イーノックばりの楽観思考が、あとあと大問題になるとは、その時点ではまだ、わたしは気付いていない。

 ちなみに下は中学時代から愛用しているジャージ(ハーフパンツ)を装備しておるのですが、先ほどこの格好で行きつけのセブンイレブンに行きましたところ、よくお見かけするちょっと無愛想で業務的な店員さん(♂)がレジ業務をしておられました。

 対するわたしも、いつも通り能面のような表情でエネルギー補給のためのおにぎりを手にレジでお会計を済ませようと、カウンターに差し出しところ、とつぜんその無愛想な店員さん(♂)がこちらを一瞥するなり、

「髪、伸びましたね……」

 と、予想だりしないことを口にする。

「こ、こここ、こやつ……。わたしのことを認識しておったのか!」

 今さらだが、今まで対応して頂いた雰囲気や態度から察するに、この店員さん(♂)は客のことを一々見ていないと、勝手に思い込んでいたのだが、予想に反して、かなりの観察眼の持ち主。だからというわけではないが、相当油断して、こんなヨレヨレの格好でもなにも気にせず、このコンビニに繁く通っていたというのに、話しかけられるならもうちょっとキメッキメのときがよかった。

 繊細な乙女心に〝クリティカルヒット〟。

 もちろん、お客さんのことを覚えているということは、それなりの意識や努力があってこそのことだと思いますから、それは素晴らしいことだと思うのですが、でも、だからと言って、もうこのコンビニには、こんな格好じゃ行けやしない。

「え? あ、はい……。そ、そうっすね」

 てきとうに相づちを打ち、わたしは会計を済ませようと、「えーと、で、いくらですか?」と促すと、店員も思い出したかのように、おにぎりをスキャンする。

「一四〇円です」

 言われるがまま金額を支払い、レシートも受けとらずに逃げるように店を出た。
「あ、レ、レシートは!」という声を振り切り、小走りに出口に向かうわたしの背中に、彼が寂しそうに、「あ、ありがとうございました……」と、呟くように囁く。

 閉まりかけた自動ドアの向こうで、退店を知らせるベルの音が、深夜の国道沿いに虚しく響いていた。少し面倒ではあるが、次からヨレヨレの格好で買い物に行くときは、遠くのファミマまで足を伸ばそうか?

 ななこさんのヨレヨレな格好でも入れる コンビニを探す旅は、まだまだ続くのであった。

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