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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 40
帰り道、自宅近くまで、マサキさんに送ってもらった。
すぐ近くにパチンコ屋があり、それが目印だと言うと、すぐに分かったらしく、「ああ、あそこか」と、迷うことなく目的地まで送ってもらえた。
別れ際の車内、思い切ってわたしからLINEの交換を申し出てた。まさか、わたしから、そのような申し出があるとは思っていなかったらしく、いつもクールな印象のマサキさんが、「え? てか、逆にイイの?」と、かなり本気でとり乱す。
「いや、ダメなのは、ダメなんですけど……」
そう前置きしつつ、「マサキさんなら、大丈夫かな?って……」と、自分でもなにが大丈夫なのか分からないが、とりあえず言い訳のようなことを言い、「絶対、店にはナイショですよ!」と念を押した。
「いやっ、も、もちろんだよっ!」
逸る気持ちを抑えられないようで、宙に浮いてしまいそうなほど舞い上がる彼が、震える手で自分のスマホをとり出す。
「えっと……、QRコードって、どうすんだっけ?」
LINEの操作がイマイチ分からないようで、マサキさんが自分のスマホを覗き込みながら、わたしに見えるように携帯の画面をこちらに向ける。
それくらいの操作なら、わたしでも分かるので、差し出された携帯を覗き込み、彼の代わりに操作をしてあげた。
画面に映し出されたQRコードを、わたしが読み込むと、ピコッという電子音とともに、彼のLINEのアカウントが、友だちリストに追加される。
「読み込めましたよ!」
わたしが携帯の画面をかざし、彼に見えるように提示する。
「あ、こっちも来た!」と、嬉しそうに報告する彼が、「やった……! ついに、ななこちゃんのLINEゲット!」と、静かにガッツポーズを決めて喜ぶ。
きっと胸中は小躍りしたいほど、喜んでいたんだと思うけれど、控えめに喜ぶ彼を見ていると、なんだか微笑ましくなる。
「じゃあ、わたし行きますね?」
内側のドアノブに手をかけ、それとなく彼に伝えると、
「あ、うん。ま、またね……」
と、名残惜しそうに彼が頷き、真顔で返事をする。
「じゃあ、また……」
その、「じゃあ、また……」が、『じゃあ、また、店で……』なのか、『じゃあ、また、プラベで……』なのかは、敢えて口にしなかった。
ドアを開け外に出たとたん、独特の博多の街の匂いがした気がした。
ドア越しに手をふる彼に、控えめにわたしが手をふり返し、バイバイする。
後ろから迫ってくる後続車に押し出されるように、マサキさんの車がウインカーを出して走り出す。博多駅のほうへと走り去っていく白のプリウスが、次の交差点でつかまる。
赤信号で停まる車のブレーキランプが遠くで点灯し、他の車の列に吸い込まれていく。
〈今日は楽しかったです♡〉
すぐさまそうLINEに打ち込み、マサキさんに送信しする。
すぐに既読がつき、〈おれも♡〉と、シュールな絵柄のスタンプ付きで返事がくる。
〈運転中でしょ? 危ないよ!〉と、指摘すると、
〈やっぱ?(笑)ごめーん!〉と、彼がスタンプで土下座をする。
〈気をつけて帰ってね〉と送り、わたしが間違って、『お尻前マン』のスタンプで誤送すると、〈なにそのヘンなスタンプwww〉と彼が反応する。
〈誤送したwww〉
素直に誤り、今度はちゃんとした〝カワイイ女の子〟のスタンプで、〈気をつけて帰ってね♡〉と、もう一度送り直した。
交差点で渋滞している車の列が動き出し、少し遅れて、
〈ありがtぷ♡〉と、彼から届く。
その誤字に、〈www〉と、わたしが笑う。
〈めんご。間違った(笑)〉
〈ドンマイwww〉
そう書いて返信しようとすると、先にマサキさんからLINEが届く。
〈ありがとう♡ って送ろうとした。ななこちゃんも気をつけて帰ってね……〉
そこにはそう書かれてあった。
前に書いた文字を消し、〈わたしはすぐそこだよ。でも、ありがとう♡〉と、送信した。
〈早く会いたい……〉
その直後、またマサキさんからメッセージが送られてくる。
〈今さっき、別れたばっかりでしょ!〉
と書いて、消した。
〈また、すぐ会えるよ〉
今度は、そう書き直した。
なにかが違う気がして、すぐに消した。
〈来週、出勤するから、またどこかで呼んで♡〉
少し考えて、また書き直した。
そのメッセージを送ろうと、LINEトークの送信アイコンに指をかける。
が、気がつくと、すべての文字を削除し、
〈わたしも会いたい……〉と、そこに打ち込んでいた。
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