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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 5

 サワコの食べ終えたプレートを片付け、とり込んだ洗濯物を綺麗に畳んでから、週に一、二回しか更新しない(店長からは、「もっと更新しなさいよぉ」と口酸っぱく言われている)写メ日記を珍しく更新していたのだが、わたしの些細な操作ミスで、そのせっかく書いた長文が、一瞬で消えてしまった。その腹いせというわけではないが、本当は朝食用にと帰りのコンビニで買った牛焼肉マヨネーズ巻(五巻)を、キッチンでやけ食いした。ついでにそのとき一緒に買ったスミノフも飲んじまった。所謂、暴飲暴食というやつですな。

 あ、食事は基本、キッチンで摂るタイプのわたしです。

 実家暮らしのときには、ふつうに食卓で食べていたのだが、一人暮らしをするようになってからは、なぜかその習慣が身についてしまい、いつの間にか、キッチンで食事を摂るという行為そのものが、常習化してしまった。

 理由は単純で、一つは片付けが楽という理由と、もう一つは、ゴミ箱がキッチンにしかないという切実な事情から、そうしているわけなのだが、ゴミ箱をもう一つ買えばいいという、シンプルな解決策も思いつかないわけではない。ただ、もともとの性格が怠け者なだけあって、その休日を潰してまで『わざわざゴミ箱を買いに行く』という行為自体に、煩わしさを感じてしまうのだ。

 そして、そのゴミ箱というのが、また、くせ者で(いや、わたしにとっては優れモノというべきか)、その習慣を常習化させている一つの要因にもなっている。なんと言っても座るのに、ちょうどいい高さなのだ。「ゴミ箱に座るとは何事か!」と、実家の両親が聞いたら、お叱りを受ける気がしないでもないが、キッチンと、そのゴミ箱に座ったときの高さが、絶妙で、わたしの小柄な体型に、ちょうどフィットするのだ。

 そのせいもあって、その負のスパイラルというべきか、悪循環というべきか、そのループから、未だに抜け出せずにいる。

 そうそう言い忘れていたが、やけ酒したスミノフを買ったときに、一緒についていたおまけがある。というよりも、そのおまけのほうがメインで、それが欲しくて、スミノフを買ったと言っても過言ではないくらいなのだが、結論から言いうと『青鬼のマスク(わたしが勝手にそう呼んでいる)』が期間限定の付録としてついており、そのあまりにイケてるデザインに、思わず衝動買いしてしまったのだ。

 で、その、マスクをつけて、明け方の五時すぎに、写メ日記用の写真を撮影しているのは、わたしくらいのものだろう。しかも、そのためだけに、わざわざ、お化粧までし直しているのだから、デリヘル嬢も楽な仕事ではない。

 写メ日記用の撮影が終わり、ついでに写メ日記の更新をしようと思ったのだが、さすがに小鳥のさえずりが聞こえてきそうな時間だったので、それはやめておくことにして、化粧を落とし、歯磨きを済ませると、すでに午前六時を回っていた。昼間の仕事をしている人なら、そろそろ起きはじめる時間帯だろうが、わたしはそれとは真逆の生活をしているので、これから眠ることになる。

「ほら、あたしゃ、そろそろ寝ましゅばい」

 そう言って、ベッドの上を陣取っていたサワコを退かすと、そのサワコが今寝ていた場所に、今度は自分が寝転がった。仕方なく移動させられたサワコが、不服そうに自分用のベッドで蹲る。なぜかサワコは、自分のベッドより、わたしのベッドがお気に入りのようで、わたしが不在のときには、必ずと言っていいほど、わたしのベッドを占領している。冬はわたしの布団に潜り込んで暖をとり、夏場は冷房の当たるベッドの上で涼をとる。

 そのお陰でわたしの服は、年中猫の毛に塗れている。年間のコロコロの消費量は、一般家庭の比ではない。

 今日もサワコの毛に塗れながら、わたしは、朝方、深い眠りに落ちた。

 写メ日記の更新は、明日することにしよう。

 筆不精のななこは、量より質を求める主義なのである。

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